8年ぶりにフルモデルチェンジされた新型ノア/ヴォクシーで、自動車業界に衝撃が走った。理由はもちろん、ライバルたちを震撼させるであろう “すさまじい” 商品力。
そして、そのなかのひとつであるパワートレーンにトヨタの慣例を覆す “事件” があったのだ。

ハイブリッド車(HV)は先代に続いて1.8LのHVシステムを搭載。まだレクサスUXにしか採用されていないTNGAエンジンの2L版も期待されたが、手ごろな価格と燃費のよさを求めるファミリー層の声に応えるべく、1.8L版が踏襲されている。

それでも先代ノア/ヴォクシー/エスクァイア[2021年廃止]のHVシステムは、2011年デビューのプリウスα[同]と同じ第3世代のものだった。現行プリウスやC-HR、カローラシリーズで実績のある第4世代の1.8L版に一新されれば、1世代分の進化を遂げることになる。UX250hも2Lエンジンは新世代だが、HVシステムは第4世代だ。

ところが! フタを開けてみるとHVシステムは確かに一新されていたものの、中身が違った。なんとE-Four(後輪がモーター駆動の電気式4WD)を含めたすべての電動モジュールがプリウスの次の世代、つまり第5世代に新規開発されたのだ。名称も「トヨタハイブリッドシステムⅡ(THSⅡ)」から「シリーズパラレルハイブリッド」(そのまんまだけど)に一新。ノア/ヴォクシーとしては一気に2世代分の進化を遂げたことになる。これは一大事である。

【画像】何が進化した? ノア/ヴォクシーの新世代ハイブリッドシステム

新開発のトヨタHVシステムがプリウス以外のトヨタ車でデビューすることなど、これまであり得なかったのだ。
オリンピックの開会式はギリシャを先頭に入場するように、昭和の家庭で一番風呂はお父さんと決まっていたように、新しいHVシステムが最初に搭載されるのは必ずプリウスだった。

理由はいうまでもない。トヨタにとってプリウスは、HVの市場を切り開き世界をリードしてきた象徴的ブランドであり続けたからだ。

世界初の量産HVとなった初代プリウスは、第1世代THSをセダンボディに搭載して1997年12月に正式デビュー。カローラと同じ1.5Lながら倍近い超低燃費を実現し、国内外に衝撃を与えた。半面、高速走行ではパワー不足やバッテリー保護の出力制限といった課題があったものの、2000年のマイナーチェンジでニッケル水素バッテリーを一新する大改良を実施。この1.5世代ともいわれる後期型から海外にも輸出が始まった。

THSが可変電圧システム採用のTHSⅡに進化したのは、エアロフォルムの5ドアに生まれ変わった2代目プリウス(2003年)。昇圧によってモーター出力は約1.5倍にアップした。燃費も世界最高レベルの10・15モード35.5㎞/Lを達成。エアコンに電動コンプレッサーが採用されたのも、この第2世代だ。THSはその後も「Ⅱ」のまま世代交代。
そのたびにシステムは小型・軽量化され、あらゆる効率が高められた。

3代目プリウス(2009年)の第3世代ではフロントモーターを小型・高回転化すべく、リダクションギヤを採用。エンジンは高速燃費の向上を狙って1.8Lに拡大された。PCU(パワーコントロールユニット)もモーター用/発電機用/昇圧用を一体化したコンパクト設計で、プリウス以外の小型車への搭載も可能になった。

第4世代はTNGA第一弾の現行プリウス(2015年)で登場した。燃費はJC08モードで最高40.8㎞/Lに到達。平面配置構造だったPCUはさらにコンパクトな積層構造となり、荷室にあった補機バッテリーのエンジンルーム搭載を実現した。駆動用バッテリーも小さくなり、荷室から後席下に移設。ニッケル水素に加え、仕様によってリチウムイオンが採用された点もトピックだ。

上記のなかには他車に先行投入された技術もある。リダクションギヤはハリアー/クルーガー(2005年)、リチウムイオンバッテリーはプリウスα(2011年)が初採用。それでも、バッテリーパックやPCU、パワー半導体、トランスアクスルにモーターといったHVシステムを構成する技術は、プリウスのフルモデルチェンジを大きな節目として次世代型の開発が行われてきたのだ。


そして、今度のノア/ヴォクシーで登場した第5世代。進化の内容を確認すると、これまでのような特徴的な新技術の採用は特に見られず、「基本的には小さいアイテムの集約」(トヨタ広報部)。リチウムイオンバッテリーやモーターはもちろん新設計されている。

筆者のプリウス歴は、気がつけば四半世紀(2代目のまま足踏みだけど)。ふだん使いに便利でランニングコストが安いから乗り続けているが、「トヨタの新しいHVシステムはプリウスから」という、ブランドに対する誇りに似た気持ちもあった。一抹の寂しさはある。

では、THSⅡ改めシリーズパラレルハイブリッドシステムを手がけた開発陣はどうだろうか。「もうちょっと嫌がるかなと思った」と教えてくれたのは、ノア/ヴォクシーのチーフエンジニアを3代続けて務めた水澗英紀さんだ。

「新世代のハイブリッドシステムはだいたいプリウスが頭出しです。今回ノア/ヴォクシーを頭出しにすることに、トヨタのパワートレーン(開発部門)はもうちょっと嫌がるかなと思っていたら、意外にそんなことなくて。こういう(車重が)重いクルマの燃費をよくすることがやっぱり大事なんだと、僕が期待した以上に前向きに捉えてくれました。

ただ残念がっているのは、これがプリウスだったら自分たちが全面的に出たかなと(笑)。
ノア/ヴォクシーだと “からくり” が出たりTSS(トヨタセーフティセンス)が出たりして。(ハイブリッドシステムを)もう少しアピールしたいなとは言っていました。半分冗談ですけどね」

プリウスが名実ともにHVを象徴する時代は、確かに終わったと言っていいかもしれない。果たして次期プリウスはトヨタHVのワンオブゼムとなるのか。それとも、新しい環境技術の隠し玉があるのか…!? 元祖HVのこれからが気になる。

〈文=戸田治宏〉
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