もはや年末年始の恒例行事?ともいえるCMの大量投下で、老若男女・クルマへの関心の有無を問わず、今もっとも知名度が高いであろうスズキ車。その「ソリオ」と「ソリオ バンディット」にハイブリッドが追加された。
既存のマイルドハイブリッドに対してどれほどの優位性があるのか? あらためてバンディットで探ってみた。

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●ソリオ バンディット「ハイブリッドSV」(価格:224万6200円)。ボディカラーはタフカーキパールメタリック シルバー2トーンルーフ(4万4000円高)

■同じに見えてまったく違う

そっ、そっ、そうなんですよ、復活ソリオのハイブリッド。「ソリオってもともとハイブリッドでしょ?」。そう思われる方もいるかもしれませんね。なので少しだけ、先代からの変遷に触れておきましょう。

これまで現行型に搭載されていたのは、ハイブリッドとはいえ、発進・加速時にエンジンを “アシスト” するISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)とリチウムイオンバッテリーを使ったマイルドハイブリッド(MHEV)システム。これは、減速時の回生エネルギーで発電した電力をバッテリーに充電して、それを加速時に使うという、あくまで補助的な機構です。そのためモーターの最高出力は3.1馬力、最大トルクも5.1㎏mにすぎません。

そして先代にはもうひとつ、発進・加速に加えてモーター出力を “上乗せ” するハイブリッド(HV)、いわばフルハイブリッドシステムが設定されていました。それが昨年の12月、2年ぶりに復活したのです。

その理由をスズキ広報に聞くと、「ユーザーの要望に応えて追加しました」との回答。
一時は落ち着いていた燃料価格が再び高騰し、エコな乗り物への関心が高まるなか、「もっと燃費のいいソリオが欲しい」という声が少なくなかったのだとか。ちなみに現行型の発売時点ではHVの搭載予定はなく、モーターアシスト車は “マイルド” 一択だったよう。HVの荷室床下にはパワーパック(バッテリー+インバーター)があり、少なからずユーティリティが犠牲になることや、何よりMHEVに対して燃費を含めたメリットが見出しにくかったからだと思われます。

かくして再び2つのハイブリッド車が選べるようになったソリオ。燃費はFF車比でMHEVの19.6㎞/Lに対してHVは22.3㎞/Lと、およそ13.7%向上しています(いずれもWLTCモード値)。ちなみに首都高と渋滞を含む一般道(走行比7:3)を約80㎞走った実走燃費はMHEVの18.8㎞/Lに対し、HVは21.3㎞/Lを記録(ともに1人乗車、車載燃費計の値)。ストップ&ゴーを多用する市街地オンリーでは、数値は下がれど両車の差はさらに広がりそうな感触がありました。この差をデカいと捉えるか、ビミョーと捉えるか…。ともあれ選択肢が増えたことは、選ぶ側にとってはウエルカムなのです。

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●(左)荷室の床下にパワーパックを搭載するHV。(右)MHEVのFF車はここが大容量のサブトランクとなる

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●ハイブリッドSV系の専用色としてタフカーキパールメタリックとキャラバンアイボリーパールメタリックを新設。15インチアルミホイールもハイブリッドMV(右:ブラック×メタリック)より少し淡いミディアムグレーとなる

■リソースを活かしつつ性能を強化

復活したHV。
システムはMHEVと同様にエンジンが主体です。駆動用モーターと5速マニュアルトランスミッションをベースとしたシングルクラッチATのAGS(オートギヤシフト)を組み合わせた、スズキ独自のパラレル式。最高出力13.6馬力、最大トルク3.1㎏mのモーター性能は先代と変わりありませんが、60㎏増えた車両重量に対応すべく電池容量を4.4Ahから6Ahに拡大しています。これによってEV走行距離も少し延びています。

見た目はほぼ同じの両車。でも、走りの感覚はまったく別モノでした。ざっくり言えば、MHEVの加速はスムーズだけどキレがなく、もわ~っと伸びる。一方のHVは、きびきびと走るけれど、変速がやや “クセ強” といった具合。

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●ハイブリッドSV。エンジンはどちらも最高出力91馬力/最大トルク12.0㎏mを発揮する1.2L 直4のK12C型だ

トルコンを介さない2ペダルMTは、駆動力の伝達に優れる半面、ギヤチェンジの際に加速が一瞬途切れて減速するような感覚がネック。その駆動トルクの落ち込みをAGSのモーターが “半クラ” のように補ってくれるのですが、それでも変速時のショックは確実にあって、頭が前後方向に軽く揺す振られます。それは、発進時にCVTやトルコンAT感覚で強めにアクセルを踏んだときにより感じられます。


だからといって、一昔前の2ペダルMTのように変速時にアクセルを緩めるようなことは無意味…というかAGSが変速を迷ってしまうので逆効果。それでもコツはありそうで、例えば、変速に合わせて一瞬アクセルペダルをパーシャル状態にし、そこから再度踏み込む…といった具合に、スムーズに走らせる方法を探るのがけっこう楽しかったり。その点CVTのMHEVは、何も考えなくてもす~っと加速します。同乗者のウケがいいのはこちらでしょう。

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●HVのステアリングにはパドルシフトと駆動力の発生を抑えてEV走行の頻度を高めるエコモードスイッチが備わる。本革ステアリングとシフトノブはバンディット全車に標準

■まっ、まっ、まさかのアレがない!?

HVは高速巡航も得意。100㎞/h時のエンジン回転数は、バーグラフ状のタコメーター読みで、MHEVの約2000回転に対して約2600回転と高め。でも、巡航時に耳に届く音はHVのほうが明らかに静かなのです。これはCVT特有のノイズ(動作音)によるものと思われます。もちろん耳障りというほどではありませんが、乗り比べるとHVのほうが踏み足した(中間加速の)際のエンジン音もクリアに聞こえ、加速の伸びもエンジン回転数と同調したギヤ駆動らしい気持ちよさが感じられます。どちらも同じエンジンなのに、引き出す方法でこれほどの違いがあるとは…。

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●EV走行時には葉っぱ状のEVランプが点灯。
頻度はそれほど多くないので、つくとなんだかうれしい

今回、高速巡航におけるEV走行(メーター内のEV表示点灯)の頻度は、メーター読みで75㎞/h程度まで確認。ただしスロットルオフでエンジンが止まるも、踏んだとたんに始動します。ほぼアイドリングストップの感覚ですね。これが30~50㎞/hであれば積極的にエンジンを止めて、EV然としたわずかな高周波音を伴いながら、モーターだけでスルスルと走ります。走行シーンとしては、市街地から郊外路、少し流れが滞った都心高速が当てはまります。

あらためてMHEVとHVを乗り比べて、前者は市街地などのふだん使い、後者はそれより高めの速度域と得意な領域が異なることがよくわかりました。クセがなく、コンパクトカーとして全方位でバランスのいいMHEV。これに対して、積極的に走らせる楽しさを含めた “ツアラー的” な項目を伸長させたのがHVといえるでしょう。

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●こちらはソリオ バンディット「ハイブリッドMV」(価格:200万6400円)。ボディカラーはメロウディープレッドパール ブラック2トーンルーフ(4万4000円高)

それだけに惜しすぎるのは、HVのACC(アダプティブクルーズコントロール)の追従機能が40㎞/h以下で解除されてしまうこと。ちなみにMHEVのACCは停止まで追従する全車速型なのです。HVへの全車速ACCの未設定は技術面の問題ではなくコスト的な判断とのこと(スズキ広報部談)。
ちなみにHVの価格は224万6200円で、これはMHEVの約24万円高。確かに「これ以上の価格差は」というメーカー側の気持ちもわからなくもないですが、せめてオプション設定があってもよかったのでは?と思うのです。

スズキ ソリオに復活したフルハイブリッド…マイルドハイブリッドとの違いは? まさかの死角も発見

●ハイブリッドSV(写真)のスポイラーは同MVよりサイドまで回り込ませたバックドアサイドスポイラーとして差別化。装着タイヤはどちらも165/65R15サイズのダンロップ エナセーブEC300+

〈文=ドライバーWeb編集部 写真=岡 拓〉
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