それから(控えめに言っても)ウン10年。
うーん、色はエスプレッソでも、匂いは濃い目に淹れた麦茶?! 見た目で、微妙な違いがあるとすれば、淹れたての本物のエスプレッソは、表面にカフェオレ色の細かいクリーミーな泡がたっていること。
色々聞き込んでみると、この飲み物、麦茶と同じくオルゾ、つまり大麦を焙煎したものを使って淹れるそうです。早い話が、コーヒーの代替品という訳。「健康にいいそうだから、イタリア国内ではどこでも飲めるんだけど、国外では飲めないのよね。スペインに行った時、オルゾを注文したら、現地の人がびっくりしていたもの」
イタリアに1960年代に住んでいた親いわく、第2次世界大戦中にはすでにコーヒーの代用品として利用されていたという。「60年代にも飲んでいる人はいたかもしれないけど、戦争の記憶がある人が多かったから、飲みたくない人も多かったと思う」と明らかに、その当時は流行っていなかった様子だった。でも、戦後60年以上経過した現在では、健康にいいという旗印の下に、オルゾの需要が結構あるっていうことかな?
確かに、体質的にコーヒーが飲めない人や、気分的にコーヒーは飲みたくない人でも、コーヒー系のちょっと苦味のあるホットドリンクを飲みたい時があるに違いありません。オルゾは、コーヒーに比べて柔らかい味ですが、焙煎のせいで苦味もあるので、そんな需要にもぴったりなのかも。
それからイタリア出国時までの数日間、オルゾを至る所で飲みまくってみました。
朝は、ホテルで大きめのカップで。
バールに飛び込んでは「オルゾのコーヒー(Caffe d'Orzo)、ミルク入り、ペルファボーレっ」
「エスプレッソカップ? 大きいカップ?」
「エスプレッソカップで」とお願い。
お食後の飲み物も、エスプレッソ・ドルゾ(Espresso d'Orzo)。
メニューに出していないお店も多いようでしたが、頼めば出てくるこの不思議。
なんと、ミラノのマルペンサ空港のホットドリンク用自動販売機でも、オルゾのコーヒーやエスプレッソはいうには及ばず、そのマキアートにカプチーノバージョンまで飲めるではありませんかっ!? こんなに、人気あるの!?
色々試してみた結果、私も、ミルクを入れたエスプレッソスタイルのオルゾに一票! 大きいティーカップで飲むと、温めた麦茶以外のなにものでもないような……。
こうなると、「スペインではオルゾが飲めない」かどうかを試してみたくなりますが、今回の予定では、スペインには回らずフランスへ行かなくてはなりません。スペインと同じく、フランスもイタリアと国境がくっついている国ではないかと、自分を慰めつつフランスはパリへ。
無論、同行者の呆れ顔には目をつむり、フランスでも聞いてまわりました。「大麦(フランス語ではOrge)を焙煎したのを、コーヒーの代用品にする?」。しかし、ご返事は皆「そんな習慣はない」ばっかり。
ここで引き下がるのは、悔しいので(?!)、スーパーや自然食品店でも探してみましたが、コーヒーの代替品といえば、チコリのものしか見つかりません。思い出してみれば、以前から、ヨーロッパのフランス語圏では、チコリやタンポポの根っこで作ったコーヒーの代用品を見かけたことはあったけど、それ以外のものは聞いたことがなかったような……。
もしかして、オルゾ=イタリア限定でコーヒーの代用品というのはあながち嘘ではないのかも!?
(いぬい亨)