関西に春を呼ぶ旬の味が今年、数十年に一度の危機を迎えているらしい。それは“イカナゴ”、関東ではコウナゴとも呼ばれる魚のこと。


このイカナゴを甘辛く煮込んで作る魚の佃煮“くぎ煮”が神戸~明石にかけての春の風物詩であり郷土料理なのだが、今年はこのイカナゴがどうにも不漁なのだと言う。

佃煮と言えばコウナゴの佃煮も有名だが、こちらは一度乾燥させてから作る調理法が主流。生を煮込んで作るイカナゴのくぎ煮は鮮度が命と言うわけで、作られるのは漁の期間1カ月半程度と極端に短い。
イカナゴが揚がり始めると同時に、スーパーではイカナゴ特設コーナーが登場。それを見て関西の人は「ああ春が来たなあ」などと思うのだ。

個人が数キロ単位で購入する姿も珍しくないイカナゴだが、今年は40年に一度の大不漁に見舞われてしまった。


3月末頃まで行われるはずの漁を、早々に打ち切った船もチラホラ。その理由はもちろん「イカナゴが捕れないため」。イカナゴがさっぱり揚がらないのだ。
原因は不明だそうだが、経済だけでなく海の世界にも不況が訪れていると語るのは、くぎ煮の商標を取っている伍魚福さん。
通常なら1キロ1000円を切っていた生のイカナゴが、今年は3000円近くまで急騰。
もちろんスーパーにも滅多に並ばず、個人だけでなくメーカーさんでさえイカナゴ確保が難しい状況なのだと言う。


そもそも関西でも明石~神戸の付近だけ食べられていたこの郷土料理が有名になったのは、山陽新幹線の開通の頃。お土産として駅のホームで販売したのが火付け役となった。
さらにもう一つの説として、阪神大震災もあげられるとか。震災後の3月、「震災を助けてくださった全国のボランティアの方々に、旬のくぎ煮でお礼を」と、くぎ煮を送ったことで全国に広まった……などなど、諸説あるが今は関西だけでなく全国各地にファンを持つくぎ煮。

そんなくぎ煮の食べ方は基本的にご飯のお供。炊きたてのご飯と一緒に食べたりお茶漬けにしたりと、しっかり濃いめの味はご飯にぴったり。

他の料理への流用としてはコロッケの中に入れたり卵焼きの中に入れるなど、元が家庭料理なだけに家庭的なメニューにあう。

とはいえ今年のこの状況では、くぎ煮は貴重品。佃煮系はつい食べ忘れて冷蔵庫の奥でカチカチになってしまうことも多いが、悲しいことに今年はそんな心配もなさそうだ。

メーカーものは保存が利くよう水分を飛ばして作られているため、一年を通して出回るものだが、今年は早めに売り切れる可能性も高い。

新物と呼ばれるできたての味も「例年でしたらゴールデンウィーク頃まで出回りますが、今年はもっと早くに無くなることも」とのこと。
くぎ煮ファンの人はお早めにどうぞ。

(のなかなおみ)