坂本龍馬を取り上げた小説で有名なものに、司馬遼太郎作の「竜馬がゆく」がある。
知人がまず指摘したのが、「平井加尾」の存在。ドラマでは広末涼子が演じる龍馬の幼なじみとして物語にも大きく関わってくるが、「竜馬がゆく」においてはこのような人物は登場しない。代わりといっては何だが、小説では竜馬の初恋相手として、「福岡のお田鶴様」という、土佐藩に仕える家老の娘が登場するらしい。加尾とお田鶴様とは別人物だが、お田鶴様は平井加尾をモデルとして司馬氏が想像した架空の人物であるという噂もあるのだとか。うーん、ややこしい。ちなみに平井加尾は実在の人物であるとされており、高知市山手町には住居跡の石碑がある。
また、岩崎弥太郎の存在も注目に値する。「龍馬伝」では陰の主役ともいうべき存在だが、「竜馬がゆく」では弥太郎の扱いはそんなに大きくないのだそう。また知人いわく、「『龍馬伝』では龍馬は弥太郎に対し、非常に愛情を持って接しているが、小説の中の竜馬は弥太郎に対してあまり良い感情を持っていないように思える」のだそう。ただ司馬氏は小説の中で岩崎弥太郎のことを「(ある一点を除けば)弥太郎は、人間として竜馬に、おどろくほど似ている」と評しており、尋常でない人物である、という評価はドラマでも小説でも変わらないようだ。
ちなみに、「竜馬がゆく」においては、竜馬が自分の顔を「ツルリとなでた」という表現がよく出てくるらしいのだが、知人の解釈だと「小説の竜馬は顔がツヤツヤで、どちらかというとオイリー肌である」らしい。これに対し「龍馬」を演じる福山雅治氏は、「実は乾燥肌」とオールナイトニッポンでカミングアウトしたこともあり、主人公の肌質にも相違点があり得るのではないか、というかなりどうでもいい指摘もなされた。
そもそも司馬遼太郎氏の小説には本人の想像が多分に含まれていると言われており、史実との相違があることをほのめかす意味で、わざわざ「龍馬」ではなく「竜馬」という漢字を選んだという話もあるのだとか。
実は、「竜馬がゆく」は、1968年に大河ドラマの原作になったことがある。これに対して今回の「龍馬伝」は、原作なしのオリジナルなのだ。ただ,脚本家の福田靖氏は「大学生の時に『竜馬がゆく』を夢中になって読んだ」らしく、それだけに新しい坂本龍馬を描きたいという気持ちもあるようだ。
で、結局、どちらが本当の坂本龍馬なのか? という筆者の問いに対し、知り合いは一言、「人の数だけ、歴史があるんだよ」と言い残し、左手を懐に入れながら、歩き去っていったのであった。
(珍満軒/studio woofoo)