最近は、“メガネ男子”なる言葉もあるくらい。今や、眼鏡も立派なオシャレアイテム。
かつては、三枚目を象徴するアイテムでもあった気がするのだが……。『西部警察』の峰竜太やC-C-Bのドラムに象徴されるような。まさに、諸行無常。

昨今では、ファッション誌で眼鏡の特集ページが組まれるのも珍しいことではない。
そして「眼鏡と言えば、この人」と、出版界に名を馳せているライターがいるのだ。それは、通称“眼鏡ライター”の伊藤美玲さん。
この方、雑誌などの紙媒体で眼鏡の特集が組まれていると、必ず名前を拝見する。

そこで、伊藤さんに“眼鏡ライター”になるまでの道のりと、眼鏡の魅力について話を聞いてみた。
伊藤さんが眼鏡をかけ始めたのは、小学5年生の頃。その時点で眼鏡をかけている児童は、クラス内で伊藤さんだけだったという、プレミア感満載の立場。伊藤さん自身、「周りと差を感じられて嬉しかった」と、独特の優越感に浸っていたようだ。
家庭内でも、眼鏡好き人間になる種は蒔かれていた。
伊藤さんのご両親は、眼鏡をかけていない人たち。その上、眼鏡を好まないタイプの人たちでもあった。家族写真撮影時には、わざわざ伊藤さんに「眼鏡を外しなさい」と忠告。そこで、伊藤さんは「なんで、こんなに眼鏡が嫌われてるんだろう……?」。逆に、眼鏡が気になる存在に。

その後、大人になってからは保険会社の事務員やバンド活動に従事する毎日。しかし、高校時代はミニコミ誌の制作に参加するなど、“物書き”への憧れが元々あった。そんな衝動もあり、のちに出版社へ転職。その後はフリーライターとして独立し、現在に至る。

だが、初っ端から“眼鏡”に特化した執筆活動を行っていたわけではない。ライター活動とは別に、プライベートでの眼鏡熱は盛り上がる一方だった伊藤さんは、足繁く眼鏡の展示会に必ず出向いていた。
そこで、取材に来ていた眼鏡専門誌の編集者と知り合い、知らぬ間に眼鏡記事をふられる機会が増加。
伊藤さんは趣味で行ってるのに、「取材で来てる」と勘違いされたのがことの始まりなのだから、“人生は出会いとタイミング”である。
その後も、パリやミラノで開催される展示会に実費で見学に行っていたというのだから、伊藤さんの眼鏡に対する愛は筋金入りだ。

ちなみに、先ほど紹介した“眼鏡専門誌”なる存在だが、実際にそういうカテゴリーの雑誌が出版されているのだ。眼鏡の情報に敏感な“眼鏡愛好家”のアンテナにどストライクの情報源。最近では「モード・オプティーク」などが、眼鏡ライターとしての伊藤さんの主戦場。
そこでは、ブランドの新作を解説したりする。「このブランドの今季のテーマは~です」「○○の素材を使っていて、機能が優れている」というような。デザイナーにインタビューしたり、工場に取材に行ったりもする。要するに、ファッションライターに近い。

そして、伊藤さんがお気に入りの眼鏡ブランドがある。その名も「BOZ(ボズ)」。伊藤さんの眼鏡熱に拍車をかけたフランスのブランドである。

このブランドに出会ったのは6~7年前。まだ眼鏡に今ほどの市民権がなかった時代、写真を撮られるときは眼鏡を外す人も多かった時期。しかし「この眼鏡は、逆に見せたい!」と思わせるようなデザイン性の高さに感銘を受けた。
実は「BOZ」のオーナー兼デザイナーと、すでに伊藤さんは顔見知りになっている。取材のほかにも、オーナーが来日して行われるイベント(ショップでの新作発表会など)には必ず参加。そこで顔馴染みになり、今やもう知らない仲ではない。

では、伊藤さんが好むタイプの眼鏡はどんな物なのか? それは、デザインにはこだわるが、奇をてらい過ぎないもの。そして、女性らしさも残ったもの。黒い服を着ることが圧倒的に多い伊藤さんがチョイスする眼鏡は、紫色やピンク色のタイプが多数だそうだ。

そして、このように服に合わせたりして「普通に眼鏡を楽しんでほしい」というのが伊藤さんの願い。デートの時は眼鏡を外してコンタクトに変えたりする女性も多いが、服に合わせてアクセサリーを変えるように、眼鏡もコーディネートしてほしい。「眼鏡を特別扱いしてほしくない」という思いが、伊藤さんにはあるのだ。


こんな“眼鏡ライター”としての仕事内容だが、“眼鏡ライター”という呼び名は、自称ではなく他称。伊藤さん自身、当初は眼鏡に対して特別な勉強をしたわけでもなく、自身の知識にそこまでの自信も持っていなかった。「自分で“眼鏡ライター”と名乗るのは、おこがましかった」という心境か。
しかし伊藤さんの活躍ぶりを見た周囲は、伊藤さんを自然と“眼鏡ライター”と呼ぶようになった。もはや、“眼鏡ライター”と名乗らないのは、逆におかしな状況になってしまった。今では、胸を張って“眼鏡ライター”を名乗っている。

そんな伊藤さんが思う眼鏡の良さは“奥深さ”。眼鏡には、フロント部分と耳にかける部分しかない。なのに、デザインが本当に多様。デザインが数ミリずれるだけで、表情も変わって見える。そういう“奥深さ”が魅力。

そんな伊藤さんが、「この人は眼鏡が似合うなぁ」と思う有名人は、いとうせいこうさん。
「見ていて『本当に眼鏡が好きな人なんだなぁ』というのが、伝わってきます」とのことなので、私もメガネ男子として負けてられない。
(寺西ジャジューカ)
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