今まさに、桜前線が日本列島を北上中。お花見をすませた人、待っている人、どちらもいることだろう。

日本の桜はその8~9割がソメイヨシノ。目にする機会も一番多くて、遠目に見る淡いピンクがとてもきれいだ。しかし、「いざお花見」と勇んで出掛けてみると、目の前の花がやけに白っぽく見えたりして、少しがっかりすることがある。近年、カメラメーカーに「桜が白く撮れてしまう」なんて苦情が届くことがあるらしいが、やはりそんな気分なんだろう。

白っぽく見えるのはきっと目の錯覚。そこで、桜観察用の自作カラーチャート(写真上)を使って調べてみることに。
赤紫~白までを35階調に分け、チャートの右へ行くほど色を薄くしてゆく。一番濃い色(赤紫)を1番にして、右へ2番、3番、4番……と番号を付けてゆくと、一番薄い色(白)が35番になる。これを実際の桜と比べて、何番になるか調べてみよう。

近隣のソメイヨシノで調べてみる。遠目に見る桜は31番の淡いピンク。一方、桜のすぐそばで見る花びらは33~34番のほぼ白色で、明らかな差があった。
白っぽいのは目の錯覚ではなかったのである。遠目の桜の方が本当に色が濃いのだ。「隣の桜は赤い」のである。

どうして「隣の桜は赤い」のか。『日本の桜』などの著書がある、独立行政法人森林総合研究所の勝木俊雄研究員に聞いた。
「開花直後のソメイヨシノの花びらは真っ白なんです。
一方、花の“がく”は結構赤い色をしていますし、花もつぼみの段階では濃い色がついています。遠目にはこれらが一緒に混じって、ピンク色に見えるのです。花びらの裏側の方が、表側よりいくぶん色が濃いことの効果もありますね」
満開の桜でも、木にはつぼみが結構残っているもの。淡いピンクは、つぼみの色、がくの色などが入り混じった、桜の木全体で作られるものだった。だから、瑞々しい花びらばかりに注目すると、どうしても白く見えてしまう。

勝木研究員から、ソメイヨシノの花びらの変化についても伺った。

「花びらは散る間際になると、付け根の部分が赤くなってきます。花が落ちた後も、細胞が生きている状態であれば更に色が濃くなります。乾燥して細胞が死んでしまうとダメですが」
風に飛ばされ、地面や川面に溜まった花びらは、きれいなピンク色をしている。花びらは落ちた後も、その色を変えていたのだ。桜って奥深い。

さて、桜を追いかけ全国780カ所を巡ったという気象予報士、桜キャスターの中西一登さんによると、桜の色は「桜の元気さ」を表しているのだという。
元気な桜ほど色が濃いのだそうだ。ソメイヨシノの開花前線はいよいよ東北へ。「桜のピンク」をより楽しむには、花に近づき過ぎず、少し離れてめでるのがよいようです。
(R&S)