どこもかしこも人ごみ・渋滞だらけだったGW。「わざわざ人ごみに行くより、家で寝てたほうがいい」なんて人も案外、少なくなかったかもしれない。


そんな混雑嫌いの人たちにぜひお勧めしたいのが、山梨県の下部温泉だ。
源泉温度は32度程度だが、場所によっては「水!?」と思うほどのぬるい温泉が特徴で、「武田信玄の隠し湯」と呼ばれているだけあって、下部のまちは本当にひっそり。

JRを利用すれば、新宿から最短でわずか2時間15分程度にもかかわらず、GWまっただ中でも、行列や混雑とは無縁の静けさだ。
そんな状況を物語るコピーを掲げたポスターが、まちのここそこに貼られている。

『富士山は、とてつもなく邪魔だなあ。』

みんながありがたがる富士山を「邪魔」呼ばわりするのには、理由がある。
ポスターにはこんな解説文が添えられている。

「東京方面から、ここ下部温泉へのアクセスは大きく2通り。中央線経由で富士山の北側を迂回するコースと、東海道線経由で南側を回るコース。いずれにしても富士山の『裏側』にあるこの温泉は、ちょっぴり不便な印象を与えてしまうようです。同じ麓の温泉でも、箱根や石和はあんなにメジャーなのですから、実に不公平」

箱根や石和などが、しっかり「観光地」なのに対し、下部温泉は、まちのあちこちに、開き直りのようなマイナー感・脱力感が溢れている。東京の隣の県とは到底思えず、ずいぶん遠くまで来てしまったような気分を味わえる場所なのだ。


たとえば、個人宅の入り口には「犬が吠(え)ます 名前は『てつ』 ワンワンワンわんわんわんワンワンワン……」といったおちゃめな注意書きがあったり、手書きのような文字で「ハハー ここが酒屋か」と掲げた店があったり。さらに、手打ちうどんの店の主人が着ていたTシャツは「手抜きうどん」(でも、美味い)!!

まちを歩くと、閉店したままの店もいくつか目につく。
また、丘の上にある人工芝すべり台「グリーンジャンボ」は、人工芝をソリですべるというものなのだが、これが殊のほかスピードが出て、面白い(ちょっと危険……?)。
GWなのに、川の音のほかは何も聞こえない静寂のなか、誰もいないすべり台を何度も何度もソリで往復する。のんびりにもほどがある過ごし方ではないか。

さらに、駅前にある「湯之奥金山博物館」では「砂金掘り体験」ができるのだが、「GW中はゴールデンに因んで砂金がちょっぴり増量中」とあった。

掘った砂金は持ち帰ることができるとあって、小さな子どもからお年寄りまでが、目の色を変えて「砂金」を水中から探しまくっていのだが、実際に自分も体験してみると、やはり集中しすぎて、家族と会話するのも忘れてしまっていたほど。
これ、かなり腰にくる作業なのだが、あまりに面白く、時間切れの後、もう1度入り直して挑戦したのだが、実はそういった輩が多いらしく、「人によっては、ハマってしまい、朝から夕方まで(砂金掘りに)いらっしゃる方もいますよ」とのこと。
ちなみに、ここの女性の学芸員さんは、2002年の世界砂金掘り大会で優勝したという経歴の持ち主だ。

派手な観光地とは違う、マイナーながらも趣あるまち・下部温泉。
周囲はもちろん自然が豊富で、散策がてら、イタドリやヨモギ、セリなどを採集することもできる。これから、ホタルも楽しめる季節がくる。
静かな旅が好きな人は、足を運んでみては?
(田幸和歌子)