たまに、幼き日に親しんでいたスナック菓子を袋ごと買い占めたくなる衝動に駆られる。これぞ、文字通り“大人買い”。

なぜ、そんなことをしたくなるのか。それは、何とも言えない郷愁にとらわれるから。

そんな郷愁の彼らを素材に、アート作品を制作する芸術家がいる。その名は、河地貢士さん。

彼の手がけた作品を、四の五の言わずに見ていただきたい。
『うまい仏』はうまい棒を彫刻し、仏像にしてみせた。
現在は彫刻後3年程経過しており、色が褪せ、調味料は黒くなり、臭いもお菓子の臭いではなく、油絵の臭いになっている。そしてこの作品は円空仏で有名な円空(江戸時代の僧、仏師)へのオマージュ的作品でもあるらしい。
『Top of the World(ポテ拓)』は、ポテトチップス1袋の中で一番大きなものを、魚拓ならぬ“ポテ拓”にとった作品。
『Snack Diamond Ring ~For the Love of Now~』は河地さんの最新作で、ポテコ(指輪の形状のスナック菓子)に天然ダイヤモンドを8個あしらった、贅沢極まりない作品。

などなど、レパートリーには枚挙にいとまがない。でも、どうしてこんな方向性の作品を創造するようになったのか? 河地さん御本人に、直接聞いてみた。

「スナック菓子の持っている、モロく、儚く、不健康なイメージが、現代社会の状態と似ているなと感じたことから素材に使用しています。あとは“タメ口の表現”ができるのかな、と思ったんです。美術・芸術は、どうしても“上から目線”の敷居の高さがありますよね。でもその点、スナック菓子はポイッと口に入れてしまえばしまいですから(笑)。『アートだ、芸術だ』と気構えないで、すっと見る人の心に訴えかけられるのではないかと考えました」

これらの作品、様々な展覧会で発表されてきたのだが、反響は上々。国内外問わず、賞賛の声が寄せられている。
海外では、まずCNNが河地さんの活動に目をつけた。そこからは、海外諸国の愛好家から問い合わせが相次ぐ。
特に海外から好評なのが『まんが農業』なる作品。これは、分厚いマンガ雑誌を苗床にして野菜を栽培するという、インスタレーション作品。ページの隙間からひょこっとカイワレ大根が顔を覗かせている。このアートに対して「僕も漫画で野菜を栽培してみたいんだけど、どうやって作るんですか?」と、一歩踏み込んだ質問が多発。
さすがに「これはアートですので……」と、河地さんも返すしかない。当然だ(笑)。海外ファンには、貪欲な方が多い模様。

もちろん、河地さん自身も海外に視野を広げ始める。今までにもニュージーランドに数々の作品を出展。また、今年の夏にはニューヨークにおけるグループ展への出展が。
来年には、ドイツでの個展も予定している。
そこで、ひとつ注意点なのだが、河地さんはこのような“スナック菓子アート”だけを手がけているのではなく、様々な手法で作品を制作する現代美術作家。今後、予定されている海外での展覧会で、“スナック菓子アート”の作品を出展するかどうかは未定とのこと。

ちなみに河地さんの作品は、圧倒的に女性や子供からのウケがいいよう。「男性の方は、クールなリアクションが多いですね(笑)」(河地さん)と、正直な吐露をいただいた。これらのアートを見せられて、なぜクールでいられるのか不思議でしょうがないのだが!

「『とっつきやすいけど、ハマったら面白い』、そんな仕掛けを施しています」と語る、河地さん。

間口が広く、奥も深い。キャッチーなだけでは、断じてないのである。
(寺西ジャジューカ)