子どもの頃、夏休みの昼食といえば、そうめん・ひやむぎ、おにぎり、そして「おやき」が信州の我が家では定番だった。

ところで、信州の「食」に関して、他県の人によく聞かれるのが、「おやき」についてのこんな質問だ。

「おやきって、『おやき』というわりに、焼いてないよね? ふかしてるだけだよね?」

「焼いてないのに『カップ焼きそば』」みたいな感覚なのかもしれないが、一部では焼いたもの、揚げたものもあるものの、長野市周辺で作られているおやきの主流は、「ふかす」タイプである。

おやきは古くからあるが、実は地域差、さらに各家庭の味もあり、「丸ナスを入れたものこそがおやき」と言う人もいれば、「皮に砂糖が入っているのはおやきじゃない」とか、「皮に重層(ベーキングパウダー)を入れたものはおやきじゃない」なんて言う人まで、実に様々だ。

『おやき56の質問』(柏企画 編/発行)という本によると、善光寺平や上田平などでは、戦前から「ふかすおやき」が主流だったようだが、大町、北安曇郡東部などでは、囲炉裏の減少によって「灰焼き」→「ホウロクかフライパンで焼くおやき」にかわり、さらに「ふかす」スタイルに変わっていったのだという。
同書によると、おやきの地域差を生んだ要因には、以下のようなものが考えられるという。

●地域でどんな穀物が作られたかによる、皮の違い――小麦粉、そば粉、米粉、キビ粉、粟粉など(※長野県南部においては、粉も米粉、雑穀など、かなり様々。これは、森林が多く、高度差がある地形によって、様々な穀物が作られたため)
●水稲中心か畑作中心か林業中心かによる、おやきの役割の違い
●主食かおやつかの違い
●丸ナス・長ナス、小豆などの具の違い

ことに長野市周辺では、「おやきといえば、丸ナスの輪切り」という人が多く、お盆に作る家庭もたくさんある。

我が家でも毎年おやきを作っていて、不慣れな子どもが丸めたものは、皮がやたら分厚かったりしたものだ。また、オマケとして「中身抜き」の皮だけおやきを作ってもらうのが、ささやかな楽しみでもあった。
おやきは、仏壇に供えられ、おやつや、朝食・昼食がわりの「主食」として活躍することもしばしば。余ったおやきは、焼く・揚げることで、別の味わいを楽しむこともできる。

ところで、長野市周辺の人にとって思い入れの強い「ナスのおやき」が、かつては他県の人などに「気持ち悪い」と嫌がられたという話も、親世代などからときどき聞く。
「ナスのおやきは水分が多くてグニャグニャしているから、『何、これ?』と思う人も多いみたい。
他県の人にはあんこなどのおやきのほうが良いかもね」

実際、自分の友人・知人などに食べさせると、抵抗を示した人はほとんどいなかったのだが、これはおやきが少しずつ全国的に知られてきたせいなのだろうか。

ちなみに、ローカロリーの健康食として、近年、「おやきダイエット」なるものが一部で提唱されたり、スーパーなどで売られているおやきには「マーボー豆腐味」「チンジャオロース味」「カレー味」「ピザ味」など、中華まんと同じような様々な味が見られるようになった。

多様化が進み、地域を越えて徐々に全国的にも浸透してきている「おやき」。夏のおやつや朝・昼食にいかがですか。
(田幸和歌子)