子どもたちの中には、手の指先をピーンと伸ばしてダッシュする子がいる。
『ビートたけしのスポーツ大将』でカール君と対決してた時代の井手らっきょのような。
ただし子どもたちの指先は、いつの間にか力が抜け、大人の走りになる。

最近は、体育でも指先を伸ばさないよう指導してるはず。どうして今も、指先をピーンと伸ばす子が生まれ、そしていつの間にかいなくなるんだろう? らっきょさんに聞くようなことじゃないから、文部科学省に伺った。

「学習指導要領では、子どもたちの成長に合わせて、指導内容が変わっていきます。ですのでいわゆる短距離走は、低学年では“運動遊び”として行い、高学年で走り方を学ぶ、というように発展させているんです」

ヒントは、文部科学省が指導の基準として出している「小学校学習指導要領解説」体育編の、短距離走にあたる項目にあった。各学年から抜粋すると……

★小学1~2年生
●走の運動遊び
距離や方向などを決めて走ったり、手でのタッチやバトンをパスする折り返しリレー遊びをしたり、段ボールや輪などの低い障害物を用いてのリレー遊びをしたりする。

例)30~50m程度のかけっこ
・いろいろな形状の線上等を蛇行して走ったり、まっすぐに走ったりすること。

★小学3~4年生
●かけっこ・リレー
距離を決めて調子よく走ったり、走りながらバトンパスをする周回リレーをしたりする。
例)40~60m程度のかけっこ
・いろいろな走り出しの姿勢から、素早く走り始めること。
・前後に腕を大きく振って走ること。
・まっすぐ前を見て体を軽く前傾させて走ること。

★小学5~6年生
●短距離走・リレー
走る距離やバトンパスなどのルールを定めて競走したり、自己(チーム)の記録の伸びや目標とする記録の到達を目指したりしながら、一定の距離を全力で走ることができるようにする。

例)50~80m程度の短距離走
・スタンディングスタートから、素早く走り始めること。
・上体をリラックスさせて全力で走ること。

つまり、1~2年生は遊びの中で楽しく走り、3~4年生で走り方の基本を学び、5~6年生でようやく速く走る方法を教わる。その5~6年生の「上体をリラックスさせる」の中で、指先に力を入れない方が速く走れることを知るわけで、その前後で指先に変化があるみたいだ。

「パーで走りやすい子どもさんもいれば、グーで走りやすい子どもさんもいますよね。それを例えば低学年で、一律にグーで走りましょうとすると、走りにくい子が出てくるかもしれません。
楽しくなくなってしまうかもしれません。どの教科も同じなんですが、義務教育のとっかかりで、厳密に走り方を教えることはしていないんですね」

学習指導要領解説の短距離走にあたる項目名も、1~2年生での「走の運動遊び」が「かけっこ」になり「短距離走」へと変化している。
遊びから始めて、速く走ることを学ぶ。そんな小学校6年間での教育の考え方が、らっきょ走りを生み、そして卒業へと導いていました。
(イチカワ)