今回は「HYSTERIC・D・BAND」という脚本家・渡辺啓と俳優・平沼紀久のコラボユニットの旗揚げ公演でもあり、客演の役者もそうそうたる実力派ぞろい。「テニスの王子様」で乾貞治役などの声優もこなす津田健次郎や阿佐ヶ谷スパイダースの伊達暁、さらにはNHK連続テレビ小説「やんちゃくれ」で主人公を演じた小西美帆や「ウルトラマンネクサス」の主演、川久保拓司なども起用した。
じつは平沼とHAKUEIは「漫画兄弟」というユニットで「納豆侍 まめ太郎」という絵本を出版した仲でもあるが、HAKUEIにとって芝居、それも舞台となると1998年のロックオペラ「ハムレット」以来。シアターモリエールのサイズとなると、普段のライブよりも遥かに近い距離で、生の姿を見られるのだからファンとしては、よだれダラダラ状態に違いない。
舞台になるのはコーサ・ノストラという名のマフィア組織。「10の掟」によるかたい結束のもと街に長く君臨してきた。だがある日、トップのカポが死んだことでファミリーひとりひとりの愛、野心、絆、名誉についての解釈の違いが浮き彫りに。絡み合う思惑と、謎を解くたびに生まれる新たな謎。舞台は疾走感と“タメ”を往復しながら進行する。そして複雑に張り巡らされた伏線を回収しきったとき、舞台上の緊張感は一気にほどけ、エンディングへと一気になだれ込む……。
HAKUEIが演じるのはファミリーとは一線を画す、謎の男リリー。純度の高い役者陣のなかにあって、毒っ気の強い華が添えられたような佇まい。ファッションブランドのモデルもつとめる身長183cmのすらりとした容姿から、いかにも“V系”らしい甘く通る声で訴えかけてくる。真摯に役に入り込むシーンあり、もちろん歌もある。さらにはボケまで織り交ぜて、本業の役者同様、舞台上に漂う「緊張と緩和」の演出に一役買っている
舞台は折り返しを過ぎ、残すは本日木曜から日曜日昼までの4公演のみ。前売り券はほぼ完売状態だが、主催者によれば「当日券は出す予定ですが、残席は少ないです」とのこと。この旗揚げ公演以降、「HYSTERIC・D・BAND」がどう変わっていくかを見届けるべく「先物買い」で見に行く。そういう正しい芝居好きとしての楽しみ方もあります。ただし役者としてのHAKUEIを見たい人は、もっと行っておいた方がいい。「思い立ったが吉日」。次がまた10年後ということだって、可能性としては十分あり得ます。(松浦達也)
TICKETS TOKYO(当日予約)
公演期間 2010年10月20日(水)~31日(日)
劇場名 新宿シアターモリエール
脚本/演出 渡辺 啓
出演 伊達 暁 津田健次郎 川久保拓司 田島 潤 小西美帆 今井りか HAKUEI(PENICILLIN) 平沼紀久
制作 PRAGMAX & Entertainment
企画協力 LDH
主催 ネルケプランニング