前評判として、さいたま市大宮区にあるJR東日本所有の「鉄道博物館」より狭いとは聞いていたのだが、それでも敷地面積25,800平方メートルに建てられた館内はかなり広く感じられた。ちなみに建物の形は、港の倉庫や工場を思わせ、名古屋港の埠頭にふさわしいデザインとなっている。展示されている車両数が39両というのも「鉄道博物館」とほぼ同じで、その中身もけっして遜色はない。
今回は、来館の際にこれだけは絶対見てほしい! と私が思う「リニア・鉄道館」のみどころをいくつか紹介してみたい。
●歴代の新幹線が見られる!
日本一のドル箱路線、東海道新幹線を運行するJR東海のミュージアムだけに、展示されている新幹線車両は多い。「車両展示」のゾーンに入ると向かって左側には、初代新幹線の0系、2階建て新幹線の100系、初代「のぞみ」の300系の量産先行試作車および量産車がずらりと並ぶ。その後ろには、0系を黄色く塗った検査・測定用の車両、いわゆる「ドクターイエロー」も展示されている。
ま、先頭車両が展示されているのは当然として、注目すべきは0系と100系には食堂車として使われた車両まで連結されているということだ。このうち0系食堂車は、「リニア・鉄道館」に展示されているのが現存する唯一のものだとか。
新幹線に本格的な食堂車が登場したのは、東海道新幹線の開通から10年後の1974年のこと。それまで車内販売と軽食を提供するビュフェしかなかった新幹線だが、翌75年には博多まで路線が延び、東京からだと最速でも7時間近くかかる(現在は4時間51分にまで短縮)ということで、長旅を楽しめるよう食堂車の設置が決まったのである。
なお在来線の列車では、食堂車を挟んで車両から車両へ移動する際、食堂を通り抜けなければならなかった。
100系の食堂車では1階に厨房が設けられ、食堂じたいは2階にある。2階には廊下は必要ないので食堂のスペースは車幅いっぱいにとって、両サイドには大きな窓がつけられた。さぞ、ここで食事をとりながら見る車窓は壮観だったことだろう(紀行作家の宮脇俊三も、かつて100系の車窓風景を絶賛していた)。階段を昇ってすぐのところにある食堂の出入口には、エッチング(銅版画の技法のひとつ)により東海道線の歴代の列車を描いた壁紙が張られていて、豪華な雰囲気をただよわせている。思えば、100系が登場したのは1985年、バブルの前夜だ。階段部分の天井に取りつけられた「井村屋 水ようかん」の広告灯ともどもある時代をしのばせる。そもそも食堂車じたいが、全国の新幹線から消えて久しい。
それにしても新幹線の車内は、古い車両ほど独特のにおいがする(窓が開かず、密閉されているせいもあるのかも)。
●ディテールにこだわった大ジオラマ
鉄道関連の博物館では、昔から鉄道模型が走るジオラマが“華”である。「リニア・鉄道館」にももちろん、ジオラマのコーナーが設けられている。しかも、ほかの博物館にはたいていジオラマはガラスケースに収められているのに対し、同館のジオラマと観客を仕切るのは柵のみと、文字どおり手に取るように眺められる。肝心の中身も、東海道新幹線をはじめ各路線のまわりを、周辺地域の実在の風景がかなり忠実に再現されているのが特徴だ。
その中央部には、超高層ビル・JRセントラルタワーズが目印の名古屋駅が配置され、模型の新幹線があいついで発着する。右端に置かれた東京エリアには東京スカイツリーがあるかと思えば、東京タワー、六本木ヒルズ、有楽町マリオン、お台場(あのテレビ局まである!)などといったランドマークが見つかる。東京からちょっと左に目を移せば富士山、また南アルプスの山々(将来的にリニア新幹線が通るはずの)が背景に確認できる。さらに左端の関西エリアには京都の清水寺、大阪城や通天閣、はたまた甲子園球場まで再現されている。このほか、JR東海の在来線沿線である飛騨の世界遺産・白川郷の合掌造り、伊勢志摩の夫婦岩や伊勢神宮も発見できた。いや、これほどの規模で、ここまでディテールにこだわってリアリティを持たせた鉄道ジオラマは、ちょっと見たことがない。
空間ばかりか、一日24時間を約20分間で再現するという演出もリアルだ。約25,000体(!)におよぶ人型のフィギュアが、列車に乗っていたり、あちこちに配置されて各場所でちょっとしたドラマを展開していたりする。
JR東海は、1987年の国鉄民営化にともない発足して以来、一貫して東海道新幹線という日本の3大都市圏を結ぶ大動脈を運営することを経営の最大の使命に掲げてきた。この大ジオラマにおいて名古屋ばかりでなく東京や大阪まで再現したところからは、そんなJR東海の使命に対する誇りを垣間見る思いがした。
●博物館では初! 「車掌シミュレータ」
ジオラマが昔からの華とするなら、最近では運転シュミレータが新たな華として、鉄道系・技術系の博物館には欠かせない展示物になっている。「リニア・鉄道館」でも、JR東海自慢の新幹線N700系のシミュレータがデンと置かれた部屋と、在来線電車のシミュレータの部屋が設けられている。N700系のシミュレータは、実物大の運転台と大型スクリーンのセットにより、新幹線の運転を疑似体験できるというもの。1回につき15分間と比較的長い時間がとられている。いまから体験希望者が殺到することが予想されるため、オープン当初は希望者から抽選が行なわれることになった。
さて、N700系シミュレータとくらべるといささか地味ながら、在来線シミュレータのコーナーには、運転シミュレータのほか、博物館系の施設では初めてという「車掌シミュレータ」が設置されている。これは、指定された時刻表、それから乗降客をちゃんと確認しながら電車のドアを開閉したり、車内アナウンスしたりといった車掌業務を体験できるというもの。
日本の鉄道ダイヤは世界一正確だとはよく言われることだが、運転士のみならず、こうした車掌の業務によって支えられている部分も大きいのだなー、とあらためて感じさせられる。
●展示パネルにおける心配り
展示車両の脇にはそれぞれ、通常の解説パネルとともに、点字での解説と当該の車両をかたどったプラスチック板(いわばレリーフ=浮き彫りの要領である)を取りつけたパネルが設置されている。目の不自由な人にも、それらを手でなぞることで理解できるようにという工夫である。このあたりも、新設の博物館ならではの心配りとして特筆しておきたい。
●このアプリ、ほしい! iPodによる音声ガイド
前述のパネルでの解説をさらに補足するため、iPodによる音声ガイドも用意されている。車両見学のさい展示パネルに示された番号にしたがって、iPodの画面をタッチすると、それに対応した音声による解説とともに関連画像(車両の現役時代の写真など)が表示される。
私も実際に使わせてもらったのだが、これがなかなか面白い。『新幹線と日本の半世紀』という本を書いておきながら知らなかったことも多く(当記事でもかなり参考にさせてもらった)、思わず、全車両の解説を聞いてやろうかと思ったほど。
惜しむらくはこれがレンタル限定の非売品ということ。
さて、いよいよ「リニア・鉄道館」と名称にも入っているリニアに関する展示についても書こうと思うのだけれども……あ、その前にエントランスを入って最初のゾーンである「シンボル展示」にも触れなきゃ……えっ、何、もうスペースないの!? まだ紹介したいことはいっぱいあるんだけどなー。
というわけで、きょうはここまで。つづきはまた明日!(近藤正高)