supercellの公式サイトにサンプル映像がアップされている新曲「Perfect Day」のミュージッククリップ。中村亮介監督、マッドハウス制作による完全新作アニメーションだ。
神社や夕暮れの岬といった日本らしい風景の中で二人の女の子の友情が描かれていて、ああ、これこそがsupercellの世界なんだよなぁと。すぐそばにありそうで、なかなかリアルには触れることのできない世界というか。

「Perfect Day」は3月16日にリリースされたセカンドアルバム「Today Is A Beautiful Day」に収録されている新曲。ファーストアルバムの「supercell」では初音ミクを使っていたので、今回はsupercellにとって生身のボーカル&生身のミュージシャンによる初めてのアルバムになる。

そもそもsupercellは、コンポーザーのryoを中心にイラストレーターやデザイナーが集まり、音楽とビジュアルを合わせた作品をニコニコ動画で発信してきたユニット。メジャーに移って制作環境が大きく変わり、ファーストアルバムの後、ミクから生音へとスイッチしていく。

「ミクというかボーカロイドは僕らウチコミストの夢の道具でした。曲を発表したいけど、自分はそんなにうまくないという人たちにとっての最終兵器というか。今でもボカロに抗いがたい魅力を感じているけど、音楽としては生身の歌のほうが歌は伝わりやすいんですよね」
(ryo カッコ内以下同 )

そこで組んだのが、女性ボーカリストのnagi。メジャーファーストシングルでアニメ「化物語」の主題歌だった「君の知らない物語」からコラボレーションがスタートし、今回のアルバムは全曲がnagiボーカルだ。

「『君の知らない物語』から始まり、nagiさんと作ってきたシングルを振り返ったら、過去の記憶を振り返っている曲が多いことに気がついて、アルバムでは新曲も含めて、記憶を遡る一つの物語を作っていこうと。自分の過去を題材にして、どの曲も好きなヒロイン像を入れて作りました」

「たとえば『Perfect Day』は子供時代にやった道の白線の上をずっと歩いて行く遊びを思い返して、ああいう一日なんて遠い過去だよねという皮肉めいた部分も入れつつ詞を書きました。
歌のヒロインは過去を振り返りながら歩いていて、ふと『今、地球が終わってもいいかな』と思ったりするんです」


「ヒーロー」という曲は歌詞の主人公が男の子で、気になるヒロインを見つめている。

「この曲は少年マンガ誌のテーマソングとして依頼された曲でした。一番かわいいと思うヒロイン像を曲にして、と言われたんですが、色々と考えていくうちにマンガ家ソングにしようと。主人公が机に絵を描いた絵を、テストか何かでその少年の席に座った憧れの女の子が見てくれていたというシチュエーションを思いついて、実際はどうなんだろうと同じメンバーの三輪さんに取材してみたり。そういう裏づけ取材とか楽しかったですね」

supercellのメンバーである三輪士郎が描いた「ヒーロー」のヒロインは、ロングの黒髪で長身少女で、いかにも文系男子が好きになりそうな理知的な黒い瞳とあひる口がかわいい。このように曲ごとにヒロインがビジュアル化されていて、特に初回限定盤に封入された36ページの大判イラストブックレットは見応えあり。

「いつものメンバーに加えて、pixivで自分がずっと好きだった作家さんにも声をかけて参加してもらいました。たとえば『ロックンロールなんですの』という曲のイラストは優さんの描き下ろしです」

優はあさのあつこ著『13歳のシーズン』の表紙などでも活躍している描き手。淡く落ち着いたタッチが特徴だが、「ロックンロールなんですの」のヒロインは曲調に合った弾けた女の子で、衣装もギミックが満載。ページを開くと、こっちを見つめた大きな顔がいきなり迫ってくる。

元気な曲もいいけど、僕がアルバムの中で特に好きなのは「星が瞬くこんな夜に」「うたかた花火」「夜が明けるよ」と夜景をテーマにした曲が並ぶ後半。誰かと過ごしたもう取り戻せない夜や、誰かを思いながらひとり朝を迎える情景が描かれていて、supercellの切なさ要素が満載なのだ。


「日々の感情を描いたアルバムなので、『Today Is A Beautiful Day』なんです。過去には絶対に戻れないし、肝心なのは明日があるということなので、だったら今はこう言うしかないだろうと。たとえ最悪の日だとしても今日はいい日だと言ったほうが幸せになれるよと」

(鈴木隆詩)
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