動物番組を見て、「ライオンを飼いたい!」と思ったことがある方は多いのでは?
実は筆者もその一人。子どもライオンの可愛らしさは悶絶ものだし、堂々たるたてがみをたくわえた雄ライオンは、貧弱なる我がステータスを一気に高める反則技的ペットとして効果抜群なはず、と夢想したものだ。


あるいはイルカを飼いたい、と切望したこともある。
とりあえず海で一緒に遊ぶのだ。想像するだけで口元がほころんでしまうほど、その楽しみを確たるものと想定した同志は、決して少なくないはず。

長じるに従い、その夢はもろくも壊れていった。その壊れようは、大気圏に突入した衛星がボロボロと溶け崩れていくがごとし。獲得した常識との間に生じる摩擦によって、夢は壊れていったのだ。
「動物園の飼育員でもなければ、そんな動物たちを飼うのは無理!」後に残されたのは、索漠たる砂の味がする「常識」である。

そんな筆者に大いなる喜びを与えてくれたのが、『ライオンの飼い方 キリンとの暮らし方』(非日常研究会著)である。
飼えるのだ。ライオン、ゾウ、キリン、ゴリラ、パンダ、イルカ……。かつて憧れた動物が、少なくともテクニカルな意味では、飼えるようになるのだ。

飼う場所として、6畳1間程度のワンルームマンションを想定してるのが、またいい! 我が現実の住環境に近い分、もはや夢は指呼の間にあるものと感じられてくるではないか。


ちなみに、ライオンを飼うなら、床は掃除しやすいよう、コンクリート張りに改造。部屋には肉を貯蔵するための大型冷蔵庫と爪とぎ用の丸太が必須。赤ちゃんライオンにミルクを飲ませる際には、哺乳瓶を喉の奥まで突っ込むのだそうだ。

ブームが再燃しているパンダの飼い方も詳細に記載されている。
パンダには、月に1度くらい人間でいう「さしこみ」のような発作を起こすので、驚いてはいけないのだとか。
単なる可愛い動物を超えた政治的なVIPである。もし定期的な「さしこみ」のことを知らなかったら、お腹を抱えてうなりながら、食事も摂らなくなったパンダを前に、日中関係の破綻を想像して背筋も凍ることだろう。

ことほど左様に、本書は実用性の高い書籍……かどうかを問題にするのは野暮というものだろう。
少なくとも筆者にとって有益だったのは、「キリンも、ゴリラも、ゾウも、実際に飼うのは大変すぎる」と心底から思えたことかもしれない。

なお、本書の著者「非日常研究会」は1990年代中頃から2000年ごろまで活動していた著作家集団である。新潮OH!文庫から出版された本書は残念ながら絶版となっているため、中古でしか入手できない。
(谷垣吉彦/studio woofoo)
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