海外旅行でぜひ行きたいスポットといえば市場だろう。特に、同業種のお店が一箇所に集まりがちな韓国では、韓服市場、楽器市場、製菓材料市場、ホルモン焼肉通り、ペット通り、ウエディングドレス通りなど、特色ある市場・専門店街が形成されており、似たような商品がこれでもかと並ぶ様を眺めて歩くのが楽しい。


今回ご紹介するのは、中古ゲーム筐体を扱う店ばかりが密集する、好きな人にはたまらないであろう専門店街だ。場所はソウル市中区に位置する、「テリム商街(サンガ)」という古いビルの2階。
まず、建物からして味わい深い。テリム商街は1968年から次々と建築された、韓国最初の住商複合建築物「世運商街(セウンサンガ)」のひとつ。世運商街は8階~17階のビル8個が南北に連なる構造をしており、それぞれ4階までが商業施設、それより上の階は一般の人が住むアパートとなっている。

一見すると老朽化が目立つ雑居ビルだが、何気に韓国建築界の巨匠、金壽根(キム・スグン)によって設計されており、近代建築ならではの重厚感が建物好きの心をくすぐる。
世運商街は誕生当時、国内唯一の電気街として栄えたものの、80年代後半に「韓国の秋葉原」として知られる龍山(ヨンサン)電気商街が生まれてから客足が減り、現在は中古家電、ジャンクパーツ、換気扇、監視カメラ、カラオケ機器など、ニッチな電気店ばかりがひっそりと並ぶように。行きかう人も、どこか玄人っぽい目をした人ばかりである。

中古ゲーム筐体専門店街は、テリム商街正面の薄暗い階段をあがると、すぐ現れる。天井が低く幅の狭い通路に、電源の入っていないゲーム筐体、クレーンゲーム機、スロット筐体などがずらりと並ぶ様は圧巻。日本で見慣れた機械もあれば、韓国の駄菓子屋やサウナなどによく置かれている、コンパクトなレトロ筐体もあり、その間を、ゲーム機の森を分け進む探検隊のように歩く。
蛍光灯が唯一の光源である通路の両脇には、10坪にも満たない小さな筐体屋が何十軒と並んでおり、他にもゲーム機のボタンばかりを陳列する専門店や、筐体を置かず基盤の修理を行っている店も見られる。
ある店舗は空っぽで、ガラスが叩き割られたままになっていた。
それぞれの店ではおじさんたちが、テレビを見たり友達とおしゃべりしたり暇そうにしているが、中古ストーブなどもうちょっと一般的なものを売る他のフロアとは違い、「何をお探し?」と声をかけてくることもない。

レトロ筐体に囲まれた小さなお店に入り、話を聞いてみた。テリム商街が誕生した頃に、ゲーム関係のお店が集まりだしたのがこの専門店街の始まりだそう。一見すると中古筐体ばかりが目立つが、新品筐体も扱っており、ゲームセンターや駄菓子屋など業者の人ばかりでなく、オフィスや家庭に設置するために買っていく人も少なくないとか。
気になるお値段は、ソフトの入っていない小さな中古筐体が10万ウォン(約7300円)からと、個人でも買えない額ではない。お土産にひとつ買って、日本に送るのもアリかもしれない。

世運商街一帯は、都市開発による緑地化が決まっている。すでに一部の建物が撤去されており、やがてはこのテリム商街も、まるごとなくなることになるだろう。なまなましく残る20世紀のソウルを体験する意味でも、味のあるスポットだと主張したい。
(清水2000)
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