任天堂WiiやソニーPSPの次世代ハード発表など、世界最大のゲーム見本市E3からの最新ニュースが届く中、様々な別のベクトルにもゲームは日々進化を続けている。

「forget me not(ワスレナグサ)」と題されたiPhone/iPad向けのゲームも、ド派手な技術満載の最新ゲームの逆をゆく、地味にオルタナティブ進化を遂げたゲームだと思う。


一見して「レトロゲーム愛好家向けのパックマンコピー」と思われがちなこのゲーム、たしかにジャンルはパックマンなどに代表される古風な「ドットイート」だ。迷路画面に満たされたドット(点)を、敵に倒されずに全て獲得すれば次のステージにすすむというルール。しかしこのゲームはそのドットイートというジャンルから逸脱せず、きちんと新しい感覚や面白さを提供してくれている。

各ステージのマップの迷路は毎回ランダムに生み出される。自由度の高いゲームではこういう機能は案外意味がそこまで無かったりするのだが、原始的なゲームに導入されたときの効果は大きく、マップの形によってとるべき行動がきちんと変化する。ステージが始まった瞬間に「やばい! この面、超狭い!」とか、スリルが持続しやすい。

また、パックマンなどとは異なって、主人公や一部の敵はシューティングゲームのように弾を撃ち、敵同士でも攻撃しあう。敵キャラクターにはかなりの種類がおり、こちらを執拗に追いかけてくるもの、刺激を受けると自爆するもの、なんかヘビみたいに長いやつ、色々だ。誰彼かまわず撃つ敵Aが、刺激を受けると分裂する敵Bを勝手に延々無限増殖させる……みたいな感じで、それぞれのキャラクターが生まれては撃ち合ったりアイテムを拾ったり勝手に動き回るのが生態系を覗いているようで楽しい。

怖そうな敵がいかにも強そうに点滅するルックスだったり、自爆するキャラクターが点火すると大げさな音を鳴らしてカウントダウンのように音程を上げたり、コンピューターゲームが今までに何十回何百回も使ってきた、直感に訴える音と光のパターンが、きちんと効果的に使われているのも遊んでいて気持ちが良い。

このゲーム、調べたらオーストラリアの何歳か分からないが結構いい感じの中年男性が、ほとんど一人で作っているといった感じ。僕はゲーム好きのおっさんが家で一人で組み上げたゲームが好きだ。
大好きだ。そこには愛があるし、哀愁があるし、強いこだわりがあることが多いからだ。このアプリも230円という値段が付いているが、予算とか儲けとか、細かく考えてない感じがダウンロードした瞬間から分かってもらえると思う。

「壁摩擦」というテクニックがこのゲームにはある。壁に沿ってまっすぐ自機が進んでいる間、壁に方向にもキーを入れてやると、自機が壁とこすれてどんどん温度が上がっていき、しまいには無敵になるけど、やりすぎると自滅する、というテクニックだ。特に使わなくても遊べるが、僕はこの地味すぎる演出から伝わってくるおっさんのゲーム愛に涙した。面白い機能だけど地味だ! 地味すぎる!

こういった機能を惜しみなく満載し、レトロゲーム! と打ち出してくるのではなく、じんわり心に染み入ってくる感じが、このおっさんのコンピューターゲームへの深い愛と、郷愁に囚われるだけでなく明るく現代を生きていきたい……みたいなパワーを表現している……と信じたくなるようなゲームだ!
(香山哲)
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