ドイツ最高齢の女性タクシー運転手であるフリーダさんが、先頃90歳になったのを機に引退を決意し、自らのタクシー運転免許証を管轄役所に自主返却しました。「90歳にもなって、まだハンドル握っているのはいけませんよ」とは彼女の弁。他の高齢者ドライバーに警鐘を鳴らす意味でも、運転のプロであり続けた彼女の発言には重みがあります。

さて、ドイツでは、普通自動車免許証(日本で言うところの第一種運転免許)は終身有効で、免許証の更新手続きも一切不要。つまり、18歳当時のお肌ツルツル顔写真が添付してある免許証で、幾重にも年輪が刻まれた80歳になっても運転しているドライバーがわんさといるわけで、運転免許証が、ドイツでは身分証明書として通用しないのもうなずけます。

さて、冒頭のフリーダさんがそもそも普通自動車免許を取得したのは、日本式に言えば昭和32年、ガソリンもリッター30円台だったのどかな時代です。フリーダさんは、地元リューベックで初めて誕生した女性ドライバーとして、注目を浴びました。それ以来、長い長い歳月が過ぎ、フリーダさんが85歳の誕生日を迎えた時、五年間有効のタクシー運転免許証を更新しない英断を下したのです。実はこの決断には、ただ単に高齢という理由のみならず、「人気ドライバーのフリーダさんに、大切な顧客を奪われてしまう」という、年下の同僚からの妬みも引き金になったのだと、彼女は述懐しています。

他国同様、ドイツでも時折世間を騒がすタクシー強盗への備えも怠り無かったようで、「石をギュウギュウに詰めたキンチャクを、運転席そばに常備していました」というフリーダさんですが、幸いにも、キンチャクを使う場面には遭遇せずに済んだそうです。

タクシー業務からの引退だけでなく、プライベートでも、もうハンドルは握らないというフリーダさん。「年齢のせいで歩くのはしんどいし、週三回通っている高齢者水泳教室には、これからは市バスで通います」とのこと。フリーダさん、これからもますますお元気で!
(柴山香)