うちの娘はいま11歳の小学5年生。小学校に上がった頃から大好きで、いまも読み続けている本に『マジック・ツリーハウス』というのがある。
著者はメアリー・ポープ・オズボーン。世界33カ国で翻訳され、9800万部の売り上げを誇る大人気シリーズだ。日本版でも第31巻まで刊行されている(食野雅子訳/メディアファクトリー)。

主人公は、読書好きで聡明な兄ジャックと、明るく元気で人懐っこい妹アニー。この兄妹が、森の奥で発見した不思議なツリーハウスを通じて、古今東西、時空を超えた世界に飛び出していき、様々な出来事に巻き込まれていく。行く先は、恐竜が生きている時代から古代ローマ、アマゾンのジャングル、アフリカのサバンナ、ベスビオ火山噴火前夜のポンペイなどなど、多岐にわたる。

漫画が大好きで、ヒマさえあればお絵描きばかりしているうちの娘が、活字の本も抵抗なく読めるようになったのは、『マジック・ツリーハウス』がきっかけだ。そういう意味で、親のわたしにとってもこのシリーズは興味深い作品だといえる。
そんな『マジック・ツリーハウス』が、劇場用アニメになった。うれしいことに「親子試写会」というものが開催されたので、早速、娘と一緒に見にいってきた。

劇場版は、魔法をかけられた女魔法使いモーガンを救うために、兄妹が4つのキーアイテムを探すという連作シリーズをベースにしている。原作では28話にわたって描かれた中から4つのエピソードをピックアップし、それを4枚のメダル集めというクエストでつないでいるのだ。
この手法はうまいと思うよ。

メダルや宝石など「世界に散らばったアイテムを回収する」という手法は、ゲーム制作でのシナリオ設計をするときにもよく使われるテクニックだ。ゲームをスタートした直後にこのようなアイテム探しのイベントを用意しておけば、プレイヤーは当面の目標を見失わずに済む。

悪の大魔王を倒せ! というのは最終目標としてあるけれど、そんなことがいきなり出来るわけもないし、どこに行けば大魔王がいるのかもわからない。けれど、目の前に小さなアイテム集めのイベントがあれば、まずはプレイヤーはそれに向かって行動することになる。そうさせているあいだに、次のイベントを断片的に見せたり、大魔王につながる情報を小出しにしていったりすればいいのだ。

また、「マジック・ツリーハウス」がやっているように、集めるべきアイテムの数を最初に示しておくことで、その物語全体のスケール感を知らせることもできる。

子供というのはどうしたって忍耐力が弱い。ゲームならまだ我慢してくれても、映画(映画館)となるとたいへんだ。いつ終わるのかまったくわからない映画は、見ているうちに飽きてきてしまう。けれど、最初に「メダルを4つ集めろ!」という指示があれば、2番目のメダルを見つけたところで「物語の半分まで来たんだな」というのが、子供にもわかる。

この“全体像を把握できる安心感”は、大人の観客すら無意識のうちに気持ちよくさせてくれるほどで、シナリオ作りをするうえでの重要な要素のひとつなのだ。
案の定、飽きっぽいうちの娘も、「マジック・ツリーハウス」は最後までスクリーンに食いつかんばかりに見てたよ。作者の思うツボだ!

声優さんについても少し触れておこう。

兄のジャックは、北川景子。声優は初挑戦だそうだが、観賞後にパンフレットを見るまで気づかせないほどに少年の声を巧みに演じていた。
兄妹のお父さん役に山寺宏一、お母さん役に水樹奈々。この辺の本職の方々も見事な仕事ぶり。アニメの声優はプロがいい、というのを再認識させられた。

で、問題なのは妹のアニーを演じた芦田愛菜ちゃん(子供はちゃんづけしとこうね)だ。テレビでその姿を見ない日はない超売れっ子の愛菜ちゃんだけに、芝居が達者なのは知ってたけど、ここまで桁外れだとは思わなかった。もうね、喜怒哀楽の演じ分けはもちろん、兄に対する口調、親に対する口調、悪者に対する口調をすべて使い分けていたりして、ホントびっくりさせられる。
それに、こんなこと言うとおじさん、変な目で見られるかもしれないけど、愛菜ちゃんの声って耳に心地いいんだよね。うちの可愛い娘の声でもさすがにかなわない。
子役歴30年ぐらいの風格があるよ。

こども店長の加藤清史郎くんが話題になったときにも思ったことだけど、なんでこの子が売れてるかっていうと、理想的な子供の声が出せるからなんだよね。
日本のアニメでは、伝統的に男の子の声をベテランの女性声優があてることが多い。それは、本物の男の子が声をあてても実際にはあまり男の子っぽく聞こえなくて、女性の方がそれらしく聞こえるからなんだけど、加藤清史郎くんは“視聴者が求めている理想的な男の子の声”というものをちゃんと出せるんだよ。だから売れっ子になる。
で、それと同じようなことが芦田愛菜ちゃんにも言えるわけ。

全国のお父さん、お母さん。子供にかこつけて一緒に劇場へ行き、子役歴30年の実力をその耳で確かめてみよう!
(とみさわ昭仁)
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