おとなの女子のモテ道を描いて話題沸騰の峰なゆか『アラサーちゃん』を読み、何か自分の中の知らない機能のスイッチが入った気がした。ウィーンと。

それが何なのか気になったので、インタビューを敢行しました。峰さん、ご協力ありがとう! 前後編に分けてお届けします。

――エキレビでとみさわ昭仁さんが書いてましたけど、線がいいですよね。ジョージ秋山さんみたいで、肉感的です。
 ありがとうございます! 私はGペンの強弱を結構つけるようにしていて、そこは昔っぽいのかなー、と。最近の人はあまり強弱をつけないんですけど、私はそちらの方が好きなんです。

――完全なアナログ描きなんですか?
 線だけアナログで描いて、それをスキャンしてからデジタルで処理しています。線が良いと褒められることが多いので、デジタルでやってしまうと感じが変わっちゃうかなと思って。あとは、昔から漫画家に対する憧れがとても大きいので、Gペンを使うこととかにこだわりもあります。
――あ、もともと漫画家志望でしたか。
 小学生の頃は少女漫画家になりたかったんです。漫画を描き始めたころは『セーラームーン』が好きで。
お話はいくえみ綾みたいなのを描きたかったんですよね。でも全然そういう話が思いつかなくて……。
――それはまた、だいぶ距離がありますね(笑)。描き始めたのはいつごろなんですか?
 本当に小さいころからで、小1くらいから描き始めて、小説や広告も自分で描いて綴じたりして、唯一の読者であるお母さんに渡してました。
杉江 個人誌を作ってましたか。それは現存してますか?
 うーん、たぶんお母さんの思い出ボックスの中に……(笑)。

――いつごろまで描き続けていたんですか?
 中3くらいまでですね。高校生からイケイケになろうと思って、がんばってクラブ通いとかしてたので、漫画を描く時間は無くなっちゃいましたね。
――お聞きしたかったんですが、アラサーちゃんのキャラクター設定はどのくらいバックストーリーを作られているんですか?生い立ちとかまで考えてある?
 結構初期から細かく決めて描いているんです。昔から、「理想の女の子」像を考えるのが好きで。「私が『ときメモ』を作ったら」みたいな感じで、キャラ表を物凄く綿密に作ったりして……(笑)。3年前くらいのことなんですけど、4をプレイしてすごくショックを受けて「全然可愛くない! 私の方がもっと可愛い女の子を生み出せる!」と。
デートする場所がいくつもあって、季節によって女の子の台詞が違うんですけど、それも全部考えたりして。そのくらい可愛い女の子を考えるのが好きなんですよ。
――それちゃんとシナリオになってますね(笑)。攻略ルートとかも決めたんですか? こうやるとバッドエンドになるとか…。
 そうですそうです。ちゃんと主人公のステータスも考えて、学力がこのくらいで運動がこのくらいだと告白される、みたいな。
誕生日はこれを渡すと一番高い評価、とか。そういうのを考えるのが好きで。
――キャラはどのくらい作ったんですか。
 8人くらい作りました。一番気に入っているのは寺の娘なんですけど…。
――寺の娘!(笑)
 そうなんです。
ブラコンで、お兄ちゃんから可愛い妹を奪う、みたいな。家が寺だからお兄ちゃんも厳格なんです。
――それはどういう趣向なんですか。
 単純に私が寺萌えする人だからです(笑)。とにかく寺育ちの人が好きなんです。お坊さんが大好きで、昔つき合ってたんですけど。
――お坊さんのいいところはなんですか?
 うーん、なんでしょう。単純に袈裟が萌えるとか(笑)。お坊さんて実は結構ゆるくて、宗派にもよるんでしょうけど、みんな普通にお酒も飲むしお肉も食べるしセックスもするしで。でもなんか「あ、今お坊さんとセックスしてる」みたいなのはありますよね(笑)
――袈裟萌えって初めて聞きました(笑)。最近は、ギャルゲーのキャラ作りみたいなことはやってないんですか?
 あー、やりたいですねー! 今は女性向けの、男性を落とすゲームもあるんですけど、そのキャラ設定もほんとに最低で! 攻略対象にヤンキーとか出てくるんですけど、恋愛シミュレーションゲームをやる女の子がヤンキー好きなわけないじゃないですか! だから登場人物全員メガネの「メガネメモリアル」を作れってブログに書いたんですね。それで色んなメガネを書いたんです。真面目メガネ、お洒落メガネ、バンドメガネ、ワイルドメガネなど。そしたら読者の女子が共感してくれて。
――それは女子だけですか?
 そりゃそうですよ!(笑)
――文化系とメガネ系ってのは違うんですか?一致するの?
 うーん、一致はしないんじゃないですかね。オシャレメガネとかは個人的には範囲外なんですよ。理系メガネもあまり好きじゃないかな。
――あー、白衣メガネとかダメなんだ。
 はい、でもメガネ男子を網羅した「メガネメモリアル」を作るためには絶対入れとかないとまずいかなって。
――他にはどんなのがいます?
 最初は対象外キャラなんですけど、瓶底メガネでニートで、でもメガネを外すと美少年っていう。メガネをとると攻略対象キャラになるんです。
――メガネ外すパターンですか…(笑)。『アラサーちゃん』って、回を追うに従ってだんだんキャラクターが増えていきますよね。初期段階では何人くらいいたんですか?
 最初はなんとなく、この4人の男女(アラサーちゃん、ゆるふわちゃん、文系くん、オラオラくん)だけ考えていたんです。後から他のも考えていこうみたいな感じで。
――最初のほうで、ゆるふわちゃんがアラサーちゃんのライバルのように描かれていますよね。ここに、最近のゆるふわ系女子に対するもどかしさみたいなものがあったんですか?
 もどかしさというか、恨みつらみ……(笑)。
――恨みつらみですか!
 そうですよ! もう、こういう人は本当に嫌いで! 私の好きなタイプの男の人をみんなかっさらっていくので、もう大嫌いだったんですよ! でも最近になって、そういう女の子にもメガネ男子とかを別に好きじゃないって子がいたりとか、順風満帆にモテると思ってた子も意外とそうじゃないんだなっていうのもわかってきて……。
――許せる感じになってきましたか。
 共感みたいなものも芽生えてきました。今まで全否定してたけど、考え改めようかな、でもどうしてもなんか反射的にむかついてしまうこともある、みたいな地点です、今。
――「女子力」という言葉がありますよね。曖昧な定義の言葉ですが、同じ年齢だったら、アラサーちゃんとゆるふわちゃんはどっちが女子力高いと評価されるわけでしょうか。
 それはゆるふわちゃんでしょうね。たとえば、男の人には気づかれないけど女同士だったらわかるぶりっ子っていうのがあるんです。それもアラサーちゃんはやらないんですよね。恥ずかしいですし。けどゆるふわちゃんはそこらへんの恥は捨ててやるタイプなんです。そこらへんはむしろ男気を感じるんです、ゆるふわちゃんに。そういう意味での女子力はゆるふわちゃんは高いと思います。
――アラサーちゃんは、それをしてしまう自分が許せないというか、「ちょっと違うな」と思ってしまうキャラクターという感じでしょうか。
 違和感だと思います。違和感の積み重ねを無視できる人はいいんですけど、私はその違和感を無視したくないんですよね。それを無視すると、きっと自分でもよくわからないところに辿り着いちゃったりするような気がする。私高校生のときに、モテたかったりとか、イケイケな人になりたいという欲望があって、そのために違和感を無視して、がんばったんですよ。どエロい格好をすることとか、全然そういうタイプじゃないのにクラブに行ってみたりとか。田舎だとヤンキーの勢力が強かったりするので、何をするのかよくわからないのにコンビニの前に座ってみたりとかいろいろがんばったんですけど、なんかそれである日「はっ、こんなにがんばって何がしたかったんだろう」って。
――アラサーちゃんはそこに気づけているんですね。峰さんは理想の女性像の1つとしてアラサーちゃんを作られたのだと思いますが、他のキャラクター人が持っていなくてアラサーちゃんが持ってるものってなんだとお思いになりますか?
 うーん、難しい質問ですね……。
――サバサバちゃんっていますね。かなり自意識が強くて「自分らしくあるために私は無理をしないんだよ」って自己主張するんだけど、周囲の人には「もう少し気を遣ったらいいんじゃない」と思われるという。この人の「無理しない」はアラサーちゃんとは別ものですね。
 ……あ、空気をいちばん読む人なのかな。ほかの女子キャラは空気を読まないところがあります。空気を読まなきゃ、とか空気に合わせた行動をしなきゃ、とか気がつくと、彼女は思った通りのことができないし、恥じらってしまうところがありますね。
――ゆるふわちゃんとアラサーちゃんが「こんなのと一緒にするな、と思われてるだろうな……」と相手の心を読み合う話がおかしいですね。どんどん心を読み合って内心げんなりしていくという。
 ははは。嬉しいです。個人的にも気に入ってるんですよ、いままで何度もああいうシチュエーションがあったので。女友達ってファッションの系統とかメイクの系統とかが似てくるんですけど、男の人ってそれだけを見て「似てるね」とかって気軽に言うじゃないですか。そう言われたときの、もう一人の子の「は?」みたいな顔に気づいてあげてください(笑)。
(杉江松恋)

後編に続く