おまたせしました、峰なゆか『アラサーちゃん』インタビュー後編です。前編には峰さんの意外な萌え話が出てきました。
後編は男性読者にとってちょっと耳の痛い話から……。

――『アラサーちゃん』には男の言動が女性から呆れられる話がけっこう出てきますね。男性読者は「俺が気が利いてると思って言ってたことは、実はこういう風に見られていたのか!」ってショックを受けるかもしれません。文系くん、オラオラくん、大衆くん、ゆとりくん、脱オタくんという5人の男性キャラクターが登場しますが、誰が読者には多そうですか。
峰 自称文系くんの大衆くんですかね。
――でしょうね(笑)。

峰 でも別に男の人は、この漫画を読んで自分の今までの発言を見直したところで、何も変わらないと思うんです。だから男の人に「これがダメだからこうしなさい」っていうのはやろうと思わないですね。ただ、私が可愛いものをみていたいって欲望がすごくあります。それは「わかりやすい可愛さ」じゃない方が良いというか…。
――わかりやすいっていうのは、どういう感じですか?
峰 アニメに出てくるような女の子みたいな。若くて、胸が大きくて、なんかツインテールとか? 性格も、ちょっとバカっぽい方がウケがいい、とか。

――演技であっても、無意識でも、その方が可愛いと言われることが多いと。
峰 女の子は無意識で可愛いことをやっているのを男の人が愛でる文化がありますけど「女の子が意識して可愛いことをやっているのを、可愛いって思ってもいいじゃないか!」とは思いますね。
――あー、なるほど。意識して可愛いことをするって、例えばどんなことですか? 番長が捨て猫を拾うといい人に見られる、みたいな?
峰 (笑)。でもそういう感じで、例えば男の人の腕に胸を押しつけるとか。女の子が、胸が当たってることに気づいてないわけないじゃないですか。
そこで「この子胸当たってるの気づいてないのかな、ドキドキ」みたいな可愛さじゃなくって、「この子は絶対気づいてるし、こっちもわざとやってるってわかってるけど、あえてやってくる。その勇気いいね!」みたいなのでもいいじゃないかと思うんです。
――なるほど。後学のためにお聞きしますが、そういうときって相手に言うべきなものなんでしょうか。
峰 いや、それは言わないほうがいいですよ!(笑)
――そうですよね(笑) それが意図した可愛さってことなんですね。
峰 そうですね。
ただ、本当に偶然胸が当たったとして、その時に「あ、いまわざと胸を押しつけたと思われるかもしれない……」と思う女の子を可愛いっていうのもアリだと思うし、とにかくその、「可愛い」の間口を広げたいんですよ私は。私もそのなかに入れるように、広げたい(笑)。私も愛でられる側の中に入りたい、という感じですね。
――ちょっとお聞きしたいんですけど、『アラサーちゃん』の中には、性意識を伴わない女子同士の触れ合いを描いている面もあるように思うんです。女性同士がスキンシップの距離に何気なく踏みこんだ瞬間を書く、と言いますか。
峰 あの「百合姫」って雑誌ご存知ですか? 以前『アラサーちゃん』を読んだ「百合姫」の編集さんから連載の依頼が来て「あ、わかってんな」と(笑)。
私は百合っぽい文化は好きだったりするんですけど、それとは別に、女子との友情っていうのがけっこう好きです。
――それらは延長線上にあるんじゃなくて、質としてちょっと違うものなんですかね。
峰 あー、私は同じでとらえてますけど、普通はどうなんでしょうね。仲のいい女の子に彼氏ができると、よかったねって気持ちもあるけど、嫉妬する気持ちもあるというか……。
――「あの子はあたしのものなのに」みたいな?
峰 「セックスとかしちゃうんだー」みたいな感じで、ちょっと妬ける。私はそういうの、すごく強い方だと思います。

――先日亡くなられた真樹日佐夫先生が、「尻を貸し合ってからが本当の男の友情だ」みたいなことをおっしゃったことがあります。その境地まではちょっと無理かもしれないけど、ほんとうに大事な友人なら、そのくらいはいいかな、と自分も思ったことがあります(笑)。困ったらそのくらいいいか、みたいな。同性間の友情の延長線上にあっても全然おかしくない、と。
峰 そうですね。女の子同士で彼氏のチンコの大きさとかを細かく話すのって、なんかそういう感じはあると思うんですよね。
――でも、男同士で彼女の膣圧の話とかはあまりしないと思うんですよ(笑)。
峰 ああ、しないですよね。男の人ってそういう細かい話はしないんですよね。何人とやったとか、どういう女とやったとか、相手のことはよく話すけど、自分のことはあんまり話さないですよね。
――抽象的なことは言っても、具体的なことで自分を裸にするのが恥ずかしいっていうのは男の方があるんですかね。男の開けっぴろげな話って、峰さんは許容できますか?
峰 男の人って本当に分かれてるんですよね。全然喋らない人もいれば、逆にハメ撮り写メを見せてくる人とかも……。
――それはどうなんですか(笑)。
峰 引きますよ、そんなの!(笑)
――なんでそんなの見せてくるんですか。自慢なんですかね?
峰 自慢ですかねえ。なんか困りますよねえ。
――それは不快じゃないですか?
峰 不快ですよ!
――ですよねえ(笑)。これを読んでいる読者のみなさんは、やめといたほうがいいです。声を大にして言っておきましょう。あと、それぞれ男子読者や女子読者に向けて、 何かやめた方がいいこととかがあったら、アラサーちゃん的観点から何か教えて頂きたいんです。
峰 自虐ネタに「そんなことないよ」と返すのはやめたほうがいいと思いますね。
――男女共に、ということですよね。それは具体的にはどんな感じですか。
峰 例えば、「私モテないから」とか「ブサイクだし」とか。「そんなことないよ」って言って欲しくてそう言ってる人に対して、ノーギャラでそんなこと言う必要ないですよね。言われれば言われるほど調子に乗って繰り返しますし。それに、心の底からそう思って自虐してる人は、慰められるより肯定されたいと思ってるんですよ。「そうだね」って。
――でも、「そうだね」って肯定した後に継続してコミュニケーションとれる感じじゃないと言いづらいですよね。フォローできないと。
峰 あ、じゃあ「そうなんですか?」って聞いてみるのもありですね。「モテないんですか?」って。
――基本的に、相手が言わせたいと思ってることを言わない方がいい、と?
峰 そうですね。そう発言していることに対して、「そんなことないよ」っていうのは、どこで判断して言ってるのって思うじゃないですか。なんでそんな風に人のこと断言するの? っていうのもあるし。そこに違和感を持つんですよね。
――『アラサーちゃん』には、自分のパーソナルイメージを他人に押しつけることについて違和感を申し立てる場面がたびたび出てきます。出てくる中ではベッドメイクの方法が男性によって全然違う、という話がおもしろかったんですけど、自分の常識が当たり前、みたいに言われると、やはり「違うのに」と思いますか?
峰 彼氏ができて家に泊まりにいったりしたときに、バスタオルを一回使って洗う人か、何回か使ってから洗う人かとか、すごい細かく確認するんですよ。自分が常識だと思っていたことで相手に驚かれたくないし、自分も驚きたくないから。シーツを一度も洗ったことが無い人とか、ざらにいるんですよね。「いつもお風呂入ってから寝てるから汚くないもん」って、黄色くなってるんですけど! みたいな(笑)。
――そういうところをお互いに教え合いながら仲良くなろうよ、みたいな感じですかね。
峰 そうですね。私はいつそういうツッコミを受けるのか、いつも怖いなと思ってます。
――ところで、版元のメディアファクトリーには、ゆるふわちゃん系のエッセイコミックが多いですよね。この漫画もそうしたエッセイコミックに分類される可能性がありますが、峰さんはどういう方向に進みたいですか?
峰 私はもともとリリー・フランキーさんの方向性を目指して絵を描き始めたんですよ。
――あ、リリーさんなんですか?
峰 はい、コラムとかに描くちょっとしたイラストとかを描こうと思っていて、そのための営業として4コマも載るブログを始めたんです。普通に考えたら別に漫画じゃなくてイラストでいいんですけど、小学生の頃からの漠然とした漫画家への憧れをびんびんで持っているので。だから少女漫画とか描いてみたいな!とも思うんですけど。
――それは営業を離れた、素の自分としての発言ですね。
峰 そうですね。ほんとに、小学生のときからの夢と同じ感じで、仕事とか何も考えずに言ってるだけです。
――でも峰さんの文章は面白いと思いますよ。リズム感がいいのと、これは失礼な言い方になりますが、調子乗ってるときの文章がライターとしての個性で面白いなあと思います。
峰 なんだろ調子乗ってる文章って……(笑)。
編集者 すごくわかります(笑)。
――さっきリリー・フランキーさんておっしゃってましたけど、リリーさんもすごく調子に乗って書いてるときあるんです。たとえば『エコラム』に載っている文章の中には「今この人ノリだけで書いてる感じがするな」というものがたくさんある。それと同じことを峰さんの文章にも感じるんです。ああいうタイプの文章にとても向いてます。次はぜひ、文章だけの本も読んでみたいですね。なにかやってみたい文章仕事はありますか?
峰 エッセイらしいエッセイは書いたことが無くて、憧れがありますね。エッセイ集を読むのは好きなので。
――おお、どんなものを読むんですか?
峰 最近は、西加奈子さんのエッセイが好きで。
―― ああ、西さんも調子くれてる時ありますよね。あの人プロレス好きだから、「ああサブカルだよこの人!」みたいなことを書くときがあります(笑)。
峰 じゃあ私、調子乗ってる文章が好きなのかもしれないですね。でも、西さんのエッセイ読んでるときは、「あ、可愛いな」と思うんですよ。でも私がエッセイ書いても、可愛いなって感じのやつは書けないと思うんですよね……間違えました。
――間違えました(笑)。
峰 萌え4コマも、「可愛いな」って思いたくて読んだりするじゃないですか。その可愛いな、とか癒される、とかが強いと思うんですよ。
――じゃあ萌え4コマ進出しましょうよ!
峰 あ、それはめちゃくちゃ進出したくって、今ハード百合SM4コマのネームを私は個人的に書いてるんです。
――全然違うジャンルですね。それは萌え4コマになるのか(笑)。やはり文章と漫画と同時にやることで、仕事はうまくいっている感じですか?
峰 そうですね。頭のはっきりしてるときに文章を書いて、眠くなったら絵を描く感じです。絵はあまり影響ないですから。今ちょうど半々くらいの仕事量でやってるので、この良い感じのペースで続いてくれればいいなあと思います。
――では、次は絵と文章の本が交互に出る感じでお仕事ができると良いですね。
峰 そうですね。あとはリリー・フランキー的なポジションを目指すためには、「おでんくん」みたいなキャラになる絵を書いたりとか、感動する小説を書いたりとかしないと(笑)。
――でも、リリーさんは「仕事するの嫌い」な人なんで、そこは見習わないでくださいね。働き蜂のリリー・フランキーでいてください。
峰 まったく想像つかないです(笑)。
(杉江松恋)

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