発表があってから待ちに待ちました。ラジオで「全ての素材を編集終わらせて入れなきゃいけなかったのが、先週の金曜。
で、今まだ作業している」みたいなことを言っていたりしたので本当に発売されるかちょっとやきもきしていた「伊集院光のばらえてぃー だるまさんが動いたらみんなばらばらの巻」が無事に2月24日に発売されたのです!

さて、いきなりですが、この「伊集院光のばらえてぃー」は問題作です。そして、間違いなく大傑作でもあるのです。何が問題作か。それはこの冒頭から出てくるテロップを紹介しましょう。


WARNING
このDVDにはテレビのゴールデンタイム等で汗をかきかき微笑む伊集院とは全く異なる残酷な伊集院の成分が過分に含まれております。
伊集院を未経験の方はご注意ください。



裏伊集院という言葉についてちょっと説明しましょう。伊集院光さんといえば、テレビで豊富な雑学を駆使したクイズや巧みな話術で笑いをとる姿を浮かべる人も多いと思います。が、これはいわば白伊集院さん=表伊集院さんなのです。

1995年から放送されている超長寿ラジオ番組伊集院光の深夜の馬鹿力では、その巧みすぎる話術を毒を吐いたり珍発想をしたりすることに使う、テレビでは見られない暴れっぷりを堪能することができるのです。これがリスナーからは黒伊集院さん=裏伊集院さんとして親しまれている、伊集院さんのもう一つの顔なのですね。

そんな伊集院さんの「裏」は、一度ハマると抜け出せないほどの強烈な中毒性をもっているのですが、好き好きが大きく分かれるのも確かです。
なので、テレビ番組の、しかもゴールデンタイムではその裏の顔が出てくることはほとんどありませんでした。でも、ファンとしては裏の顔もテレビで見たかったりしたことも確かです。そんな思いが結実したのがBS11で放映されていた「伊集院光のばんぐみ」「伊集院光のしんばんぐみ」で、これは伊集院さんが全権を握り、存分に裏の顔を出し、地上波では放映できない番組でした。

「伊集院光のばんぐみ」が予算不足で一度終了したあと、そのコンテンツを「伊集院光のばんぐみのでぃーぶいでぃー」として販売。そのDVDが売れたことによって予算がついて「伊集院光のしんばんぐみ」が作られ、さらに「ばんぐみ」と「しんばんぐみ」のコンテンツをDVDにしたものが「伊集院光のでぃーぶいでぃー」になります。そして、今回紹介する「伊集院光のばらえてぃー」は、その伊集院光のでぃーぶいでぃーを作ったスタッフが結集し、とりあえず新作を作りたいから作っちゃおう! そして作った後で放映してくれるテレビ局を探そう! という発端で作られたものだったりします。


なので、今回の「ばらえてぃー」にも、ラジオでおなじみの「裏」の顔が存分に出ているもので、「表」しか知らない人には非常にショッキングかもしれないのです。その裏がどれだけすごいのか。ちょっと、伝説にもなっている「伊集院光のばんぐみのでぃーぶいでぃーvol.1」に収録されている「真剣じゃんけん」を紹介しましょう。

「真剣じゃんけん」では、若手芸人を集め、彼らにじゃんけんをやらせます。ただのじゃんけんではありません。負けたら番組に1ヶ月出られないという罰ゲームつきなのです。
芸能活動をしながらバイトをしている若手芸人にとっては、番組に1ヶ月出られないということは想像以上に過酷な罰ゲームなのですね。ただし、これだけだと、そのままじゃんけんしてすぐに終わってしまい面白くありません。「裏」伊集院さんはここにルールをいくつか入れたのです。

・じゃんけんをするのは3時間後。その間に話し合ってもいい
・3人まで入れる相談ルームを使用していい。1回の使用には時間制限あり
・全員が同じものを出してあいこになった場合、全員が勝ち残りとする

このお陰で、単なるじゃんけんが究極の心理ゲームになったのでした。


「全員でパーを出そう」と決めたものの、裏切ってチョキを出すかもしれない。さっき相談ルームに行った3人は、裏切ってチョキを出す相談をしているのではないか? だとしたらこっちは裏をかいてグーを出そう。いやいやそういいつつ本当に向こうがパーを出したらこっちが負けてしまう。下手に時間があるのでどんどん疑惑がふくれあがっていく……と、疑心暗鬼に悩まされながら心理ゲームを展開していく若手芸人達の姿は必見です。そして衝撃のエンディング!

今回発売された「だるまさんが動いたらみんなバラバラ」で同じように若手芸人達に行わせたゲームは、まさにこの「真剣じゃんけん」の正当な後継、進化バージョンの心理ゲームと言えます。ルールを紹介しましょう。


・若手芸人(グラビアアイドルとかもいるけど)9人全員がそれぞれ別々の個室に閉じ込められる
・1人につき5個のだるまが配られる
・自分以外のメンバーに、だるまを押しつけることができる。ただし、1回につき、1人に1個、3人まで(つまり1回に3個まで)しか渡すことができない
・だるまを押しつけることのできるイニングスは全部で8回
・ゲーム終了時にだるまの多い順に3人が負け。DVD出演1回おやすみになる
・ただし、終了時に全員のだるま所持数が同じ場合、全員が勝ちとなる

どうでしょう。ゾクゾクしてきませんか。みんながみんな、お互いを信じてだるまを一切動かさなければそれで済むのです。でももし、最後の最後のイニングに誰かが裏切ってだるまを送ってきたら、反撃する時間は残されていません。

さらに、1人につき1回だけ相談ルームを使うことができます。相談ルームは5分間だけ、自分以外にメンバーを2人呼んで相談することができる部屋になります。そう、自分のところが一見平和でも、他の部屋ではだるまが飛び交っていたり、メンバーが相談して結託し、自分にだるまを送ってくるかもしれません。でもそれは、自分の部屋にいる限りわからないのです。

それぞれの部屋には基本的に伊集院さんしか入っていきません。だるまの移動も伊集院さんが行います。もちろん、伊集院さんは各メンバーを煽ってだるまを移動させようとするのです。「あいつ、ハゲキャラは1人で十分だって言っていたよ」とか「女は信用できないって言っていたよ」とか、そりゃあもう情報をリークしまくりなのです。テレビに出ている芸人、しかもテレビ的に無名芸人ともなれば、少しでも長く映りたいもの。ライバルを蹴落としつつ、そのだるまを送るシーンなどで自分が長く映れば一石二鳥になるのです。果たしてその誘惑に耐えられるのでしょうか。

だるまさんが一切動かなければみんな勝利。でも、いったん動いてしまったら……?
そう、この番組はもはや、ばらえてぃーではなく、人の絆は強力なプレッシャーのもとでどのように壊れていくのかという「実験」でもあるのです。この結末は是非自分の目で見てみてください。

「伊集院光のばらえてぃー」は6ヶ月連続刊行が決まっています。今回の「だるまさん(略)」があまりにも面白すぎたため、同じような心理戦が展開される「真剣じゃんけん」「夢にときめけ仲間を疑え 草野球芸人対抗連係プレー選手権」「超難解間違い探し」のDVDをそれぞれ何回も繰り返し見ちゃっています。テレビのバラエティー番組には毒が足りないと感じている方、お互いが疑心暗鬼になる心理戦が好きな方、そして「裏」伊集院さんが好きな方。6ヶ月間「伊集院光のばらえてぃー」に浸りましょう。
(杉村 啓)