「これで、終わると思ったでしょ?」と、プリキュアのプロデューサー鷲尾天が言う。
終わりではなかった。
彼は、手紙を取り出したのだ。

書籍『プリキュア シンドローム!』発売記念トークライブの会場(cafe bar sixteen主催「CrazyJapan」)だ。
3月17日、客席は定員オーバー。キャンセル待ちで入場できなかった人も多かったようだ。

2004年『ふたりはプリキュア』からスタートした女児向けアニメーション「プリキュア」シリーズは、現在「スマイルプリキュア!」を放映中。約9年の長期人気アニメーションシリーズと化している。

その「プリキュア」シリーズの転換点となったのがシリーズ4・5作目の「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」。
『プリキュア シンドローム!』(エキレビのレビューはこちら)は、その2作の制作スタッフ25人にインタビューした本だ。
本の出版記念トークライブ、第一部は、著者の加藤レイズナ、『プリキュアぴあ』メインライターの志田英邦、「エキレビ!」でもおなじみたまごまごの3人がプリキュアについて熱くトーク。
第二部ゲストとして、プロデューサー鷲尾天が登場した。
本の感想を聞かれて、「(こんなに秘密を暴かれて)告訴しようかと思ってる」と最初からジョークで場を湧かす。
印象に残ったのは、好きな台詞は何かという質問の答え。

「(「ふたりはプリキュア」で)宿題ができてるかできてないかってエピソードで、最後の最後に宿題がやっぱりちゃんとできてない。それで、最後に「これから勉強もがんばるぞー、なるべく」っていうんです。この台詞がすごく好きで」
プリキュアは、いつもがんばっているイメージがある。でも、いつでも一生懸命がんばるなんて、できない。
「いっしょうけんめいがんばりすぎると折れちゃうから。がんばった結果できないことがつづくと、だれだって挫折をする。
それはもう無理。だけど、なるべくがんばろうという気持ちを持ち続けることだったらもしかしたらできるかもしれない。それは大事なことなんです」
いかに、視聴者である子供のことを真剣に考えて制作されているのか。それが伝わってきた。
およそ2時間のイベント、鷲尾天プロデューサーが、「まとめ」的な話をして、終わりかなと思った後に「これで、終わると思ったでしょ?」サプライズだ。
「終わりじゃないんですよ。
じつは本の取材の最後のインタビューを受ける直前に、加藤さんから速達がきたんですよ。50円切手が7,8枚だーっと貼ってあった。速達そんなに高くないから」
横にいる加藤レイズナ、苦笑。
「はじめて書いた手紙ですって書いてあって、これから質問するってこともふくめていろいろ書いてあったんですね。手紙をいただくということはメールとまったく違う意味がある。そこには温度があるんです。
で、それからしばらくたっちゃったんですけれども、いま、ここにお返事がございます」
会場、おおおーという歓声。
「読みあげてよろしいでしょうか(拍手)。ここれおしゃれイズムのBGM流して(笑)。えー読みます」
全文紹介したいところだが、少し長い手紙で、著者の加藤レイズナ宛てのものなのでそれは遠慮しておこう。
プリキュアシリーズのスタッフがいかに魂をこめて作品を作りつづけているかという宣言であり、同時に著者加藤レイズナの未来に対する励ましである力強い内容。
最後。

「それでもなお自分を表明しつづけたいという強い意志を持ったとき、加藤さんははじめてライターになるのだと思います。著者の入り口に立った加藤さんの今後のご活躍を心からお祈り申し上げます」
会場は長い拍手に包まれた。涙ぐんでいる人もいた。
鷲尾天プロデューサーが言う。
「もう、ないよ。終わり」
会場、笑。(米光一成)