石原さとみ主演、野木亜紀子脚本の金曜ドラマ『アンナチュラル』。先週放送された第7話は、平昌五輪の影響で視聴率はふるわなかったが、「ザテレビジョン」の視聴熱ランキングでは堂々の第1位。
ファンアートがこれでもかと並ぶツイッターのタイムラインを見ても、視聴者の熱さが伝わってくる。

第7話のタイトルは「殺人遊戯」。とはいえ、松田優作主演の同名映画とは関係ない。テーマは「いじめ」だ。
「アンナチュラル」7話。いじめは「遊び」ではなく「殺人」。きっぱりと石原さとみのメッセージ
イラスト/まつもとりえこ

「殺人者S」による挑戦


「僕は殺人者Sです。橋を渡って違う場所に到達した人間です」
「それは人を殺したからです」

キレキレのフレーズとともに、赤いパプリカで顔を隠した男による謎の動画配信が始まった。ミコト(石原さとみ)にも動画のアドレスが送られてくる。
配信していたのは、予備校で働くミコトの弟・秋彦(小笠原海)から紹介された高校生・白井一馬(望月歩)だった。「殺人者S」として「殺人実況生中継!」を行う彼の傍らには「Y」と呼ばれる遺体があった。

「ここでM先生に問題です。Yくんの死因は何でしょう?」

殺人者Sは、ミコトに死因を当てるよう問題を出してきた。もしミコトが答えを間違えたら、もう一人のXを殺すという。制限時間は「10万人」。
視聴者数が10万人になるまでに答えを出せというのだ。動画越しにミコトの診断がはじまる。くしくもUDIラボでは「遠隔死亡診断」のガイドラインについて話し合われていたばかりだった。

Yの正体とは、白井のクラスメイトの横山伸也(神尾楓珠)だった。クラスの担任(谷田歩)によると、目立つグループにいる横山と、いつも一人でいる白井に接点はなかったという。

東海林(市川実日子)と六郎(窪田正孝)とともに学校内を捜索するミコト。
殺人現場とおぼしき備品倉庫には、夥しい血痕が残されていた。血痕は間違いなく横山のものだ。死因は刺殺による失血死と判明した。では、白井が横山を刺したのか? そうではない。

「Sくんは私に何か言わせたいんだと思う。言わせたい答えがある。
できるだけ多くの人の前で」

横山の背中には打撲の痕があった。横山は日常的に誰かから暴力を受けていた。目立つグループにいた横山だが、実は同じグループの小池(小野寺晃良)たちによるいじめの被害者だったのだ。一方、白井は「いじり」の対象だった。小池の命令通り、クラスの中でギャグをやらされていた。横山と白井はいつしか友情を育んでいた。
自殺して小池たちに罪を被せる方法を考えながら。

「法律では裁けない、いじめという名の殺人」


科学捜査用ライト(ALSライト)を駆使して、ミコトたちは死のトリックを解析する。ALSライトを借りるようミコトに頼まれた中堂(井浦新)と坂本(飯尾和樹)のやりとりがたまらなくおかしい。一方、少年課の刑事(螢雪次朗)の取り調べはベテランらしい無駄のなさで一気に小池を追い込む。『アンナチュラル』は緩急のバランスがすごい。

ミコトは要求通り「殺人者S」に殺人のトリックを明かし、自らの診断を伝える。

「死因は、刃物による自殺」
「違う! ぜんぜん違う! 大外れ!」
「法医学的には自殺。
でも私は、殺されたんだと思う。法律では裁けない、いじめという名の殺人」

小池たちによるいじめのシーンが執拗に描かれる。繰り返される暴力と恐喝。これは傷害罪と強盗罪だ。恐喝は粗暴犯だが、強盗は凶悪犯と呼ばれる。両者の違いは、被害者の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫かどうか。暴力で金銭を奪っているのだから、小池たちがやっていることは明らかに強盗である。そして、執拗に繰り返されるいじめは被害者の心を殺し、自殺に追い込む。だからミコトははっきりと「殺人」と言ったのだ。

「何が遊びか、もうわかんないよ」

横山と白井を標的にしたいじめは小池たちにとって「遊び」だった。担任(谷田歩)は彼らのいじめを「遊び」と判断していた。白井がいじられているところを見て爆笑していたクラスメイトたちにとっても「遊び」。そして、横山と白井の死のトリックの実験も「遊び」だった。付け加えるなら、動画の視聴者たちにとっても「遊び」。無責任な彼らは殺人者Sはを「天才」ともてはやし、死因が自殺とわかると「つまらん」と書き込んでいた。

しかし、「遊び」と「犯罪」の境界線は極めて薄く、曖昧だ。その境界線を超えれば、容易に死に結びつく。「殺人遊戯」というタイトルはいくつもの意味を帯びている。

「許されるように、生きろ」と促す中堂という男


「これは遺書です。これで終わり。僕は、僕を殺す」

小池たちの実名を挙げ、いじめを告発して自殺しようとする白井に、動画越しに自殺をやめるよう呼びかけるミコト。しかし、ミコトは「自殺はいけない」とか「命は大切」などと倫理的なことを言って制止しない。ミコトの言っていることは極めて論理的で、いじめ問題の急所を突いている。そして、いじめを受けて死を考えたことのある全国の人たちへの真摯なメッセージでもある。

「あなたが死んで何になるの? あなたを苦しめた人の名前を遺書に残して、それが何? 彼らはきっと、転校して、名前を変えて、新しい人生を生きていくの。あなたの人生を奪ったことなんてすっかり忘れて生きていくの。あなたが命を差し出しても、あなたの痛みは決して彼らに届かない。それでも死ぬの? あなたの人生は、あなたのものだよ」

10万人の前で告発すれば、途端に小池たちの顔、名前、犯罪的な行為の詳細は全国の人々に拡散されるだろう。しかし、人々はすぐに事件のことを忘れてしまい、他人の人生を奪った連中はのうのうと新しい土地で暮らし続ける。これまでの多くの事件でそうだったように。

白井は動画配信を止めてしまうが、彼の自殺を直接止めるのは……中堂! 久部、東海林とともに白井の居場所を突き止めると、ためらいなく窓ガラスを破り、白井の前に現れる。「落ち着け! 俺たちは三澄先生の仲間だ」という一言を聞いたミコトの気持ちはどんなものだったのだろう。

「僕だけが生きていて、いいのかな……?」
「死んだやつは答えてくれない。この先も」
「……」
「許されるように、生きろ」

自分を助けてくれた横山を見殺しにし、自責の念にさいなまれる白井に届く言葉を持っているのは、同じ想いを抱えている中堂だった。殺された恋人・糀谷夕希子(橋本真実)の死の真相を突き止めようとしている中堂は、常に「生存者の罪悪感」に苛まれている。家族が災害で亡くなったり、事件に巻き込まれてしまった人が感じるものだ。亡くなった人と自分を分けたものは何なのか? どうして自分だけが生きているのか? それが第5話で語られた「永遠に答えの出ない問い」である。

これからも横山は白井のことを想い続けて生きていくのだろう。絶望と戦いながら、それでも生きていくしかない。ミコトは自殺を止めたが、生きていくように促したのは中堂だ。横山の顔を隠していたパプリカの花言葉は「同情・哀れみ・君を忘れない」だった。

事件解決後、中堂はミコトに「赤い金魚」の件を打ち明けて協力を要請する。「法医解剖医2人の智恵が合わされば、解決できる案件は倍以上」というミコトの言葉を中堂もどこかで感じ取っていたのだろう。「了解」と答えるミコトは嬉しそう。しかし、彼らの後ろ姿を見つめる六郎は無表情だ。彼は本当に宍戸(北村有起哉)が言うような「裏切り者」なのだろうか……?

注目のティーン俳優総まくり


第7話は推理小説をモチーフとしながら、注目の10代の俳優が勢揃いしたエピソードでもある。まず、トリックの元になった「ソア橋事件」とは、おなじみコナン・ドイルによるシャーロック・ホームズシリーズの46番目の短編。

白井役の望月守は、宮部みゆき原作の映画『ソロモンの偽証』でいじめを告発しようとして自殺する中学生・柏木卓也役を演じていた17歳。えっ、17歳!? 末恐ろしい演技力だ……。同じ宮部みゆき原作のドラマ『名もなき毒』は、『アンナチュラル』の塚原あゆ子監督が演出を務めていた。第7話の演出の村尾嘉昭も『名もなき毒』のチーフ助監督である。

『ソロモンの偽証』の主人公・藤野涼子はいじめを見て見ぬふりをした学級委員長だったが、今回同じ役回りだった苑乃(その)役の森高愛は、『烈車戦隊トッキュウジャー』でトッキュウ5号・カグラを演じた20歳。ただし、第7話の撮影時は19歳だった。

横山役の神尾楓珠は『監獄のお姫さま』で小泉今日子の息子・公太郎を演じていた19歳。あの優しい少年が……と思うと悲しさが倍増する(ドラマを混同)。いじめの首謀者・小池役の小野寺晃良は、有栖川有栖原作のドラマ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』で謎の少年“アポロン”こと坂亦清音を演じていた18歳。髪型が違うので最初はまったく気づかなかった。『火村英生の推理』で有栖川有栖役を演じていたのは窪田正孝だ。

そして今夜放送の第8話では窪田演じる六郎がクローズアップされる。第8話!? もうすぐ終わっちゃうよ! 夜10時から。
(大山くまお)

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