石原さとみ主演、野木亜紀子脚本の金曜ドラマ『アンナチュラル』。架空の組織「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台に、死因究明のスペシャリストたちが活躍する法医学ミステリーだ。


平昌オリンピックの煽りを受けて視聴率は下がってしまったが、視聴熱ウィークリーランキングのドラマ部門では2位の『海月姫』にほぼダブルスコアの差をつけてぶっちぎりの1位だった。熱いファンは増えており、ツイッターでは“あま絵”的なファンアートも大量に見ることができる(なんて言えばいいんだろう? “アン絵”?)。ダミーだったタイトル「解剖、ときどき恋」のイメージイラストが傑作。

先週放送の第7話「友達じゃない」では、主人公の法医学医・三澄ミコト(石原さとみ)と臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)との友情にスポットが当てられた。野木によるとタイトルはだいたいダブルミーニングになっているという。今回の場合は否定的な「友達じゃない」と肯定的な「友達じゃない」。
同じ言葉なのに真逆の意味。まさにコインの裏表だ。チャリーン。

「合意のない性行為は犯罪です」


「アンナチュラル」6話。ビットコイン、暴行疑惑、厚労省のごまかし…なんでこんなに現実とリンクする!
イラスト/まつもとりえこ

月会費5万円! という高級ジム主催の異性間交流会(合コン)にいそいそと出かけた東海林。しかし、翌朝、見覚えのないベッドで目を覚ますと、隣でパーティーに参加していた男・権田原(岩永洋昭)が死んでいた!

東海林には店を出た後の記憶がまったくなかった。「酔うほど飲んだ覚えはない」のに急に眠気に襲われて、そのまま権田原にホテルに連れ込まれた。権田原が東海林の酒に睡眠薬を入れていたのだ。
ホテルの監視カメラの映像には、東海林を抱える権田原の姿が写っていた。同意の上だったのではないかと疑う毛利(大倉孝二)にミコトははっきりと告げる。

「女性がどんな服を着ていようが、お酒を飲んで酔っ払っていようが、好きにしていい理由にはなりません。合意のない性行為は犯罪です」

いいこと言った。ミコトはしごく当たり前のことを言っているだけだが、世の中には毛利のような偏見も根強い。お酒、薬物、ホテルの映像などは、元TBSワシントン支局長でジャーナリストの山口敬之氏をめぐる性暴力問題を想起させる。
事件のあらましについては被害者・伊藤詩織氏の著書『Black Box』に詳しい。権田原の手口と彼が常習犯だったことがわかったときの、UDIラボの面々の怒りと侮蔑の混じった表情が印象的だった。

『アンナチュラル』のアクチュアルな魅力


権田原に続いて、彼の大学時代の仲間である細川も死んでいた。両者とも死因は窒息死。容疑者と疑われているのは東海林だった! UDIラボから東海林を逃がそうとする中堂(井浦新)。任意同行させられたら「わけのわからんクソでっち上げストーリー」を毎日聞かされて、やってもいない罪を自白させられるというのだ。誤認逮捕された中堂の経験談だろう。


警視庁相手にごまかすのを中堂は「得意でしょ、神倉さん、そういうの」と無責任に押し付けていたが、所長の神倉(松重豊)は元厚労省の職員。現実にも厚労省によるデータのごまかしが大問題になっている。

第6話では昨今話題になっているアルトコイン(暗号通貨)が題材として取り扱われていた。権田原、細川、そして彼らの大学のサークル仲間で集団強姦事件を起こしていたベンチャー企業社長の岩永(竹財輝之助)と立花(鈴木裕樹)の4人は高級ジム内で暗号通貨詐欺を行っていた。騙し取った金額は実に4億円。金の取り分をめぐって、岩永が権田原と細川を殺したのだ。
岩永の会社が開発したバイタルデータ採取用のウェアラブル端末を使った犯罪だった。

動機と死因が、隣り合わせた試着室にいる東海林とミコト両方にそれぞれ伝わるタイミングが心地良い。『アンナチュラル』にはこういう心地良い瞬間があちこちに仕込まれている。

フォレスト葬儀社の木林(竜星涼)の活躍もあって、岩永による立花の殺害は食い止められた。木林の「善処します」は力強い。立花に人工呼吸するときのミコトと東海林のやりとりがたまらなくおかしい。
ためらわずに人工呼吸した六郎(窪田正孝)もエラい。岩永は警視庁二課(詐欺や企業犯罪、贈収賄などを取り締まる部署)によって逮捕されて一件落着。

暗号通貨、ウェアラブル端末、薬物を使った性的暴行、大学サークルによる輪姦疑惑、厚労省のごまかし……。けっして未来を予見して書かれた物語ではないと思うし、偶然の一致もあるだろうが、それでもアクチュアル(現実的、時事的)な要素をうまく取り入れることで『アンナチュラル』が魅力的なドラマになっていることは確かだ。

「友達」か「友達じゃない」か


「友達じゃありません」
「ただの同僚です」
「そ、ただの同僚」
「ねえ」(見つめ合ってプーックスクスしながらクロスカウンター)

第6話には3つの「友達」が出てくる。ひとつは「ただの同僚」だけど長年の友達にしか見えないミコトと東海林。もうひとつは大学のサークルで一緒に集団強姦事件を起こし、一緒にビットコイン詐欺をはたらいて、お互いに殺し合った岩永と細川たち。最後に「俺たちもう友達なんだからさ」と言いつつ六郎を脅迫するフリー記者の宍戸(北村有起哉)だ。

「友達じゃない」と言い合っている人たちが一番友達らしく、「友達」だと言い合っている人たちがろくでもないことをしでかして、挙句の果てに殺し合う。結局のところ、「友達」という言葉も「友達」か「友達じゃない」かもどうでもよくって、大事なのは相手のために何をするか、相手の「心の声」が聞こえるかどうかなんだと思う(ミコトは東海林の「心の声」を聞いて飲みに誘った)。

「友達」という言葉を介して、事件解決に向かう女性同士の連帯と、犯罪を起こす男性同士の腐った友情が対比して浮かび上がる形になったが、「ミコト」「東海林」と雑に呼び合う間柄の中に男の「六郎」が入ろうとしているのは、なんだかホッとする。まぁ、六郎は「魅力は薄いけど人畜無害」の弟キャラなんだけど。

今回は1話完結もの感が強かったが、ラストでフリー記者の宍戸を中心に物語が編み直された。「悪いやつらを成敗しましょう」と言う彼は、中堂へのメッセージ「お前のしたことは消えない 裁きを受けろ」という張り紙をした張本人だった。宍戸は六郎を脅しつつ、ミコトが一家心中の生き残りであることも掴んでいる。彼が中堂の抱える「永遠の問い」にどう関わっているのか。終盤戦のキーパーソンになるのは間違いないだろう。

さて、今夜放送の第7話は「殺人遊戯」。サイコパスの殺人者から挑戦状がミコトに届く。夜10時から。
(大山くまお)

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