「貴腐」という種類のワインをご存知ですか? 過熟状態になったブドウの実にハイイロカビがついて水分が蒸発し、干しぶどうのようになったものを集めて造られた高級ワインだ。果実から水分が失われているため、糖度が高まり大変甘いワインとなる。


貴腐ワインはフランス・ボルドーにあるソーテルヌやドイツのものも有名だが、ハンガリーにあるトカイ地方は、はじめて貴腐ワインが造られた地域として知られている。かつてのフランス国王ルイ14世も、トカイ産の貴腐ワインを賛辞したという。そんな「王のワイン」が造られるトカイで、ワイン事情をうかがってきた。

「トカイワインはトカイ村を中心に周辺27の地域で造られています。土地は火山性土壌で気候は大陸性。冬の気温は氷点下10度前後まで下がり、夏は35度前後まで上がります。貴腐ワインは食前・食後酒としてはもちろん、チョコレートやキャラメルにも合いますし、ハンガリー名物のフォアグラとの相性も抜群です。最近の当たり年は1999年、2000年、2003年です」(現地ワイナリー関係者)

貴腐ワインは数あるワインの種類の中で最も熟成に耐えるワインだという。その種類はいくつかに分類され、代表格といえるワインがトカイ・アスー。さらにアスーは、ワインの糖度によって3から6の「プットニョス」という単位に等級付け(数字が増えるほど糖度は高い)される。そして、当たり年に6プットニョスを越えたワインができた場合、6を越えるワインとして「アスーエッセンシア」という名で格付けされる。これら「3〜6」および「アスーエッセンシア」は貴腐ブドウと貴腐化していないブドウを混ぜて醸造されるが、混同しやすい点がある。
じつは、貴腐ブドウのみで作られたワインも「エッセンシア」と呼ばれるということ。同じエッセンシアという名を冠していても、両者は別物であり、質も価格も「アスーエッセンシア」より「エッセンシア」の方が高い。

他の有名産地の国々と比べれば、日本では知名度の低いハンガリーワインだが、どこの国の人々がトカイを多く訪れているのだろうか。

「ポーランドからのお客様が多いです。日本人観光客も多くはありませんがいらっしゃいます。観光シーズンは7〜9月の夏期。また当ワイナリーの場合、海外は主にポーランド、ドイツ、イギリスなどと取引しています。フランスのボルドーでは中国の勢いがかなり強いそうですが、トカイではまだそのような影響はありません」(同)

トカイのワイン文化と景観はユネスコの世界遺産にも登録されている。貴腐ワインも、エッセンシアなどは高価だが、等級を下げれば日本でも手頃な値段から購入できる。食前もしくは食後にトカイ貴腐ワインのグラスを並べて、時にはハンガリー気分を味わってみてはいかが。
(加藤亨延)
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