以前、ベトナムのホーチミンに行った時、街中をかけめぐるバイクの台数の多さに圧倒された。
街の中心部などでは、とにかくすごい台数が、すごい勢いで目の前を駆け抜けていく。
信号はあるけれど、「一体いつ渡ればいいんだろう?」と心配になることも。

そんな“バイク天国”ベトナムでは、その台数だけでなく、「乗り方」もまた、圧倒的だ。
1台の小型バイクに3人、4人と、曲芸状態で器用に疾走する姿も珍しくない。そして、積み荷もまた、どういうことになってるんだという、「自由な」状態になっている。

写真集『それ行け!! 珍バイク』(ハンス・ケンプ/グラフィック社刊)は、そんなベトナムの人たちの「ありえない」バイクの乗り方の写真ばかりが一冊まるごと収録されている。出版元によるとこの写真集は、アジアを拠点に活躍するフリーのカメラマンの手によるもので、海外で出版されたものの日本版になるという。


自分の座高よりもはるかに高く積んだ飲料品を後ろに積み、ハンドルには中身がギッチギチに詰まったビニール袋をひっかけて走る女性。
何メートルもあるホースを、自分の身体にグルグル巻きに巻き付けている男性。
食用のものなんだろうか、アヒルを何十羽も後ろにひもでくくり付けている女性もいる。そして、ブタも! 一匹ずつビニール袋に入れられた金魚も! 大きな棚や鏡、トラック用らしき巨大なタイヤだって、バイクの荷台で運んじゃう。

そこには「荷物かごに収まるサイズ」といった概念は存在しない。とにかく過剰。
基本、上へ上へと過剰に積む。落とさない限り、限界まで載せる。
大量のバナナ、ハンガー、バケツにパイナップル、それからトイレットペーパーに折りたたみ椅子……荷台に自転車が横積みにされていて、「チャリ・オン・ザ・バイク」状態になっている写真があれば、自分の胸元とハンドルとの間の空間も、「荷台」としてフル活用、エアバッグ状態でパンパンになっている写真もある。

日本だと完全にアウトになりそうな(ちなみに日本の道路交通法で認められているのは、普通自動二輪車の場合は、積載装置の幅の30センチのはみ出しまで)、どのページも思わず、「えらいことになってますよ!」とツッコミたくなる、バイクの積み荷写真でいっぱいだ。
なんだかテレビの激安スーパー特集なんかで見る、野菜のビニール詰め放題のようにも見えてくるし、アクロバットか、積み荷の限界に挑むバラエティ番組を見ているような気にもなる。『ジャーン』とか『テッテレー』といった、バラエティ的な擬音をついついかぶせてみたくもなってくる。


普通ならトラックの荷台に積んで運搬する荷物の量だと思うが、バイクで運ぶ。そのぐらいバイクが国民の足として大活躍する。だから、自分たちが見るぶんには「すげー!」という状況も、彼らにとっては、当たり前の日常。だから、どのドライバーの表情も、すごいことやってるという雰囲気はどこにもなく、ごくごく普通なのがまたおかしい。

とにかく、めくるたびに驚きと爆笑の連続、パワフルなベトナムの日常が詰まった写真集です。
(太田サトル)