織田裕二、青島俊作そのものだわ!
織田裕二の発言にシビレました。
こんにちは、ドラマ小姑の木俣冬です。

9月3日放送の「SMAP×SMAP」(CX)をご覧になりましたか? 織田さんが映画「踊る大捜査線THE FINAL 新たなる希望」の番宣で他の出演者の皆様と共に出演された回です。
SMAPメンバーが2組に分かれ、ゲストに料理を作って対決するビストロSMAPのコーナー。その日のテーマは「取り調べのための丼もの」。
一方はフォアグラなどの入った豪華丼、もう一方はちょっと凝った親子丼の対決となりました。どっちも美味しそうだったけれど、織田裕二はフォアグラ丼を選びませんでした。
その理由がふるってる。
「フォアグラ丼食べてたら腹たってきた。儲かってんなって」。
儲かってるのは、警察なのかテレビ局なのか定かではありませんが、どっちにしてもなんて庶民的な発言なの!
ドラマ、映画と大人気を誇る「踊る大捜査線」の、地べたをはいずりまわって捜査する、熱血庶民派刑事・青島俊作だったら、それ言いそ〜。
織田裕二、青島俊作になりきってるなあ〜(感嘆)。

彼の徹底ぶりは、前にも一度、驚かされたことがあります。それがこれ。

「インタビューが終わり部屋を出ていく時に、織田裕二はカメラマン、編集者、ライターと握手をしてくれた。大きな歩幅で風を起こしながらドアへと向かったが、ふと踵を返して戻ってきた。そして一歩引いたところにいたカメラマンアシスタントに手を差し出した。『だって、(握手)してほしいって顔してるから(笑)』」(キネマ旬報社『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』織田裕二『熱情』より)
これも実に青島ぽいエピソードで、何かと重箱の隅をつつきたがるドラマ小姑・木俣も黙らされたものです。
「警察官ってのは少年たちのヒーローなんだから」と、テレビドラマの最終回で先輩刑事・和久が青島に言う。その言葉を青島というか織田裕二は15年しっかり守っています。

そうやって15年守ってきた老舗の味が、今回の映画でついに終了してしまうとは、ひじょうにさみしーーッ。
しかしながら、最後とばかり、今まで禁じ手にしていたことを解き放った作品は、具(フォアグラとかじゃなく庶民的な)が盛りだくさんな丼もの状態で、美味しく頂けますよ。

「COMPLETE BOOK」(ぴあ)の脚本家・君塚良一のインタビューによると、「殉職というのはそれまで『踊る』のルール上タブーで」とあります。ほかにも銃撃線やカーアクションなど、警察もののテッパンはやらないことにしていたと。へー、そうだったのかー。ガッツあるなあ!
ということは、今回の予告編、香取慎吾演じるキーパーソン久瀬が銃を撃つカットと、青島がパタ!と倒れるカットが続いていますが、
まさか!ついに!?
いやいや、思えば「踊る」映画の予告は、いっつも誰かが「死ぬ?」と匂わすものばかりなのだからして。

「踊る大捜査線 THE MOVIE」(98)では青島が、
「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」
(03)では恩田すみれが、
「踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」(10)ではまたまた青島が、
何度目だ、死んじゃいそう予告。狼少年状態。
あまたの「踊る」ファンは「殉職はない」と言うルールを知っているので、暗黙のうちに安心して見ていたってことなの?

内輪意識にも程がある!
・・・・・・なんてな。
ドラマ小姑の私ですが、そこに決して腹をたてたりしません。
なぜなら、きっとそれが「なんてな」の精神であろうと察するからです。
エキレビ!で先日「9.1特番放映『踊る大捜査線』いかりや長介の名言でたどるシリーズ全軌跡……なんてな」なんてタイトルのレビューもありましたが、故・いかりや長介演じる和久平八郎という青島を導く存在であった、頑固一徹、現場一筋、人情老刑事の決め台詞が「なんてな」。
ちょっとかっこ良過ぎることを言ったあと「なんてな」とつけることで、たちまち「かっこつけ」臭が消えて、食べやすくなるのです。
この魔法のスパイスは、そのつど振りかけるだけでなく、もはや、15年染みた出汁のような精神として「踊る」に宿っています。
それを「THE FINAL」で感じました。

この台詞は「THE FINAL」でも、今までのように実にいいところでスパイスを効かせてくれます。

ネタバレになるので、伏せつつ書きますが、
途中、あることが起こります。いろんな気になることを無効化する「8時だョ!全員集合」の屋台崩し的な威力に、これぞ最高の「なんてな」だと私はほくそ笑みました。


正義や組織が、あるべき姿ではなくて、なんだかおかしなことになっていると疑問を感じたり、それこそ腹をたてたりした時、それを理屈めいた言葉でこねくり回すのではなくて、行動で状況を引っくり返してみせろ、というのが「踊る」だったのではないでしょうか。
そう、「なんてな」という引っくり返しこそが「踊る」の真骨頂なの。
だから、死にそうだけど「なんてな」、かっこつけても「なんてな」。
上層部の人がエラいっていう常識に「なんてな」。いろんな決まりに「なんてな」です。

そして、その「なんてな」を青島俊作は体言しています。
彼の口元を見てください。
への字口なんです。
もちろん織田裕二の骨格的なところもありますが、たぶん意識的に青島の時、織田は口角を下げている。
これは世の中に腹をたてている証です。
庶民派刑事・青島は、ドラマシリーズ開始の97年の前年、亡くなった国民的ヒーロー寅さんを演じた渥美清の生まれ変わりのようでもあり(名前は、当時の都知事の青島幸男からとられています)、陽気で飄々としたイメージですが、よく見ると、意外にへの字口状態が多いんですよ。
自分のルールに忠実、規制のルールに従わない、反骨精神の表れであり、現場で歯を食いしばって頑張ってる人の顔なんです。
ステキ!

「THE FINAL」で、登場人物たちの口元を見て頂きたいのです。
例えば、スリーアミーゴズたちは基本的にヘラヘラ笑っています。彼らは体制に巻かれがちな人たちです。
上と下に挟まれて、何かと忍耐の室井慎次は口を一文字に結んでいます。
上層部の人たちも口角をムスっと下げています。青島と違って、威張ってる感じがします。
若きエリート・鳥飼誠一は口角がちょっと上がっていて、なんだかんだ言っても若いんだなあと微笑ましい。
すみれさんは、和久君は、真下は・・・・・・と登場人物の口元で性格とか役割を見るのも面白いものですよ。

「踊る」シリーズは、警察の人々、現場に居合わせた街の人々、ものすごい数の出演者がいますが、彼らのひとりひとりの顔に個性があって(本広克行監督が小劇場好きで個性的な俳優を起用しているせいでもある)、大スクリーンでその顔を見る楽しみのひとつ。
で、青島ですが、彼のその無駄に媚びない口元が、ある瞬間、クルリとひっくり返って、ニカッ!と笑顔に。
まさに、キターーーーーッ。とばかりに爽快な風が吹きます。

「事件は会議室で起きてるんじゃない」「どうして現場に血が流れるんだ?」・・・・・・そんなこと認めない!という状況を、歯を食いしばって引っくり返した瞬間、青島の顔は最高の笑顔になるのです。
「なんてな」という引っくり返しの魔法がそこにもありました。
イヤな世の中を引っくり返してくれる、そんな青島俊作を我々は信じてきたのです。

「THE FINAL」、最後まで青島俊作を信じて観よう!
それにしても、15年間、ストレートに腹をたて続けてくれた青島がいなくなったら、ニッポンはどうなるの〜???
最強の切り札「なんてな」で、きっとまた戻ってくるよね。なんて・・・・・・な。
(木俣冬)
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