「気にはなるけど、雑誌を買うほどでもないから、コミックスの1巻が出たら買おう」
そう思ってた人、たくさんいるんじゃないですか?
10月12日(金)。
ようやく、発売されましたよ。

あだち充の最新作『MIX』の1巻が。

「上杉兄弟の伝説から26年。今、再び運命の兄弟が明青学園の扉を開く!!」
このキャッチコピーが示すとおり、国民的人気漫画『タッチ』の26年後の世界が舞台になっている『MIX』。
連載開始直後のレビューでも紹介しましたが、主人公は明青学園中等部2年生で、野球部に所属している立花兄弟。兄の走一郎はキャッチャー。弟の投馬はサード。二人ともレギュラーとして活躍しています。
『タッチ』の主人公・上杉達也と和也は双子の兄弟でしたが、走一郎と投馬は双子ではありません。
でも、年齢も誕生日も同じ。
「ゲッサン(月刊少年サンデー)5月号」に掲載された第1話を読んだとき、この兄弟の関係が、今後の物語の鍵にもなるのかなとも思ったのですが。謎自体は、第2話であっさりと明らかにされています。
しかし、第3話では、また新たな謎が!
投馬と一歳下の妹・音美が、立花家の納戸で、あるものを発見するのですが。
なぜ、こんなものが立花家にあるのか? この謎には、『タッチ』のキャラクターも絡んでいるはずだと僕は予想していますが、果たして真相は……。

ちなみに、1巻に収録されている第5話までには、『タッチ』のキャラクターが直接登場するシーンはありません。立花兄弟の両親も、名前や顔から判断する限り『タッチ』の主要キャラではなさそうです。まあ、顔で判断してしまうと、「投馬は達也とそっくりだから、親子に違いない!」みたいな話になってしまうんですけどね。

第1話の時点で、立花兄弟は中学2年生になったばかり。低迷の続く明青学園高等部の野球部に入部し、甲子園を目指しはじめるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
『タッチ』(全26巻)や『H2』(全34巻)のような大長編にもなりそうなペースの展開なので、『南ちゃん、まだ出てこないの?』とか、『いや、新田由加を出せ!』とか気を焦らさず、毎話、毎巻をのんびりと待ちながら楽しむのが良い作品だと思います。
『MIX』の1巻と同時に、少年サンデーコミックス版『タッチ』の1巻も復刻発売されたので、久しぶりに読み返してみました。1巻の時点から「実は達也もすごいヤツ」というアピールがかなり多い点は意外だったのですが、達也が和也に変装して、和也ファンの女の子とデートしたりとか、『MIX』以上にまったりとした展開。
あだち充作品の1巻ってだいたいこんな感じだよな~とも思ったものの、よく考えてみたら、そんなことは無かった。

『クロスゲーム』の1巻は、トラウマ級のインパクトがありました。
『ナイン』も、まったく別の方向性で衝撃的なシーンから始まります。

『みゆき』の1話の展開も、今となってはベタですが、連載当時は斬新だったはず。
あだち先生、意外とチャレンジングな一面もあるんですよ。
僕自身、1話の内容を忘れている作品もあったので、1巻のインパクトが強く、作品的にもオススメのあだち充漫画を、いくつか紹介しておきましょう。

『ナイン』(全5巻)
中学陸上短距離の全国記録保持者・新見克也は、高校入学前の春休み、電車の中で痴漢の現場に遭遇。しかし、被害者の美少女・中尾百合は、ひとにらみで気の弱そうな痴漢の少年を撃退します。
実は、この痴漢が全国中学野球大会の優勝投手・倉橋永二。この後、新見と倉橋は、百合がマネージャーを務める野球部で、ともに甲子園を目指すことになります。
メインキャラの一人が、ヒロインに痴漢する野球漫画って、その後も無いのでは?(当たり前ですが)
ちなみに、痴漢男の倉橋くん。その後、下着泥棒までやっちゃいます。

『みゆき』(全12巻)
高校1年生の若松真人は、海沿いの民宿でバイト中に、初恋の相手・鹿島みゆきが自分に好意を持っていることを知り、みゆきを映画デートに誘います。みゆきの返事はもちろんオッケー。ところがその直後、みゆきのビキニを盗んでいたことがばれて(倉橋と違って、故意ではありません)、強烈なビンタを……。
傷心のまま、バイトを続ける真人は、ショートカットの似合う別の美少女に一目惚れ。二人は良い雰囲気になりますが、その子は、6年間、別々に暮らしていた、妹の若松みゆきだったのでした。
ここ数年、漫画、アニメ、ライトノベルと妹萌えの作品は乱立していますが、その元祖とも言える作品。また、1巻の内容以上に、表紙の折り返し部分に書かれている、この文章が衝撃的でした。
「みゆきとみゆき。六年ぶりに再会した妹・みゆきと同級生のみゆきちゃん。二人は、とってもかわいいのです。だから、ぼくの悩みは増すばかり。抱き合って眠れたら……もう死んでもいい!!」
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。
でも、作品の内容を端的に表現した、素晴らしい紹介文です。

『ラフ(全12巻)』
主人公は、中学時代、競泳の自由形で全国3位だった大和圭介。栄泉高校に進学した大和は、プールサイドで同じ水泳部の1年生・二ノ宮亜美に遭遇。
冷たい目でにらまれながら、「人殺し」と言われます。
あだち充の描くヒロインの口から、「人殺し」という物騒な台詞が発せられるだけでも、ちょっとした驚きが。しかも、週刊少年サンデーで『タッチ』の次に連載された作品だから、なおさらです。
もちろん、本当に大和が殺人者なわけではありません。亜美が大和を憎む理由も、1巻のうちに明らかになります。
個人的には、あだち充作品の中でも、『タッチ』と並ぶ名作と評価している作品。亜美も、南に負けず劣らず魅力的なヒロインだし、ラストも良いんですよね。全12巻と物語の長さも程良いので、未読の人はぜひ。

『クロスゲーム』(全17巻)
主人公の樹多村光が、チームメイトや幼なじみの天才野球少女・月島青葉とともに、さまざまな障害を乗り越えて、甲子園を目指す野球漫画。第1巻では、光が小学5年生だったときのエピソードを、まるまる1冊使って描いています。
未読の人のために内容は伏せておきますが、連載当時、僕と同じく大勢のあだち充ファンが、「忘れてた……。あだち先生は、こういう展開も描けちゃう人だった……」と思ったことでしょう。
あだち充、恐るべし。
僕にとってのトラウマ度合いでは、衝撃展開で話題を集めたアニメ『魔法少女まどかマギカ』(劇場版公開中)よりも数段上です。
ソウルジェム、濁りますよ。

1巻を読んだだけで、全巻を読み返したくなってしまう、あだち充の名作の数々。『MIX』も、これらの作品と並ぶ名作になることを期待しています。

あ、そうそう。
『MIX』の1巻には、『タッチ』の主要キャラは出てきてないと書きましたが、甲子園との相性が良いことでも知られるあの人気キャラ(正確には、そっくりな同名キャラ)は、すでに登場していて、立花家の一員になっています。『H2』と同じパターンと言えば、あだち充ファンなら分かりますよね。
オン!
(丸本大輔)
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