秋も深まってきて、すっかりセンチメンタルな気分。あぁ、人恋しい……。
しかし、人ではなく、古墳が恋しいと嘆いている女性がいる。彼女の名前は、まりこふん。「古墳が好きなMARI」だからまりこふん。日本でただ一人の「古墳ブルースシンガー」だ。まりこふんは元々、女の情念を唄う「BLACK&BLUE」のヴォーカルとして活動していたが、古墳の魅力にハマってしまい、一人で全国の古墳を訪ねていくようになったという。古墳への切なる想いを唄った「古墳ブルース」が好評で、ピアノを片手に古墳のトークショーを主催するほどだ。果たして、そこまでハマってしまったいきさつは何なのか? まりこふんさんに、お話を伺った。

――そもそも、古墳に興味をもったきっかけは何ですか?
「6年ぐらい前に、深夜に放送されていたアニメ『古墳ギャルのコフィー』を観たのがきっかけですね。コフィーが可愛いっていうのもあったけど、観ていくうちに古墳用語が気になって、色々と調べていくうちに本物の古墳を観たくなり、一人でどんどん観に行くようになりました。学生の頃は古墳っていうと堅苦しいイメージでとっつきにくかったのに、コフィーを観た途端にイメージが一転しましたね」

まりこふんさんが観に行った古墳はわずか6年で、100を超えるという。

――初めて行った古墳は?
「すごくベタですけど、仁徳天皇陵です。あのカギの形をしているところが可愛いと思って。
ところが、行ってみると大きすぎて、立ち入り禁止だから中に入ることはできないし、カギの形すら認識することができなかったんです。少しでも形を確認したくて、まわりを1時間かけて歩いたり、歩道橋に上がってみたりしたけど、全く形状がわからなくて……。あまりに切ない気持ちになってしまって、帰りの新幹線の中で『麗しの仁徳綾』という曲を作ったんです」(まりこふん)

――「麗しの仁徳綾」って! ……どんな内容ですか?
「『どこから見ても、あなたが見えない。こんなに近くにいるのに。あなたに会いたくてここまで来たのに、どんなに頑張って歩道橋に行ってもあなたは見えないよ。あぁ、近くに歩道橋があればいいのに…』という内容なんです」

――あぁ、確かに切ない……
「ブルース調なんで、より物悲しいっていうのもあるんですけどね。こういった感じで古墳にまつわる曲を作ってて、今のところ持ち曲は7曲です。古墳に対する思いが強ければ強いほど、詞がどんどん出てきますね」

――ずっと古墳に片想いをしている感じですね……。
「でも中には嬉しい古墳もありますよ。仁徳天皇陵のように、宮内庁の管轄だと管理が厳しくて中には入れないのに、奈良県の箸墓古墳(はしはかこふん)は、宮内庁の管轄なのにすぐそばを歩けるんです。見てください、ココ!(※写真参照)」

――!?
「ココの部分が古墳ファンにとっては、非常にアツいスポットで、このくびれの部分が歩けるんです!!くびれを感じながら歩けるところが、ファンにとってはたまらないんです」

●日本には「野生古墳」が大量にある!

古墳の話で、すっかり興奮しているまりこふんさんに、どんな古墳が好きなのか聞いてみた。
「大きな古墳も好きけど、私がとりわけ好きなのは、“野生古墳“ですね。
仁徳天皇陵のように、宮内庁からしっかり管理されている古墳に対して、あまり管理されていない古墳が山ほどあるんですよ。私はそんな古墳を『野生古墳』と呼んでます。古墳の数は平成13年の文化庁の調査によると約16万基ですが、宮内庁から守られている古墳なんて、ほんのひと握りなんです。そんな、守りの浅い野生古墳にドキドキしますね」

野生古墳といっても、自治体によって作られた木札や案内板は立っているため「古墳」という認識はされているそうだ。

「私のような古墳好きは、憧れの古墳に“逢いに”行くため、地図を片手にどこにでも行くのですが、実際は、地元の人にさえ知られていないものが多いですね。千葉に行った時も、おばあちゃんが畑で農作業をしていたので『このへんに古墳があるはずなんですけど』って聞いたら『知らない』って言われたけど、よく探したらその畑のすぐ裏にあったりとか(笑)」

地元の人にも知られていないような古墳は、まりこふんさんにとっては心配の種であって「この古墳は、この先、ちゃんと残ることができるんだろうか?」と、他人事ならぬ“古墳事”の不安がよぎるそうだ。素晴らしき古墳愛。

一方、地域によっては古墳を大事に守って、町おこしに役立てようとしているところもあるとのこと。
「例えば、兵庫県姫路市にある見野古墳群は、古墳を歩いて鑑賞できるようにパンフレットを作ったり、『古墳まつり』を開催したりして古墳をアピールしています。福岡県京都(みやこ)郡みやこ町も、綾塚古墳や橘塚古墳などの古墳が多く存在していて(※写真参照)、町が主催している「古墳フォーラム」には全国の古墳ファンが集まります」

――古墳だけに、盛り上がっているわけですね。先ほど、古墳の形が可愛いという話がありましたが、その他の古墳の魅力を教えてください。
「古墳は、学者の間でも分からないことが多いです。
例えば、先ほども話に出てきた仁徳天皇陵は、私達が子供の頃には教科書で仁徳天皇の古墳として習いましたけど、実は仁徳天皇ではないんじゃないかという説が出てきたため、今の教科書では『大仙陵古墳』と書かれています。奈良県の斉明天皇陵も、斉明天皇陵ではないんじゃないかという話もあって、謎が多いところも面白いですね」

●古墳初心者へのアドバイス

――古墳の魅力がかなり伝わってきたところで、これから古墳巡りをしようと思ってい
る人へのアドバイスを

「下調べはしすぎない方がいいです。調べすぎると、古墳を目にした時の感動が薄れちゃいますね。着いてから、案内板に書かれてある解説をじっくり読んだ方が面白いです。あとは、車で行かずに徒歩か電動のレンタサイクルを使いましょう。その土地の雰囲気を味わいながら古墳に向かうのが良いです。古墳にはそこに住んでいる人々の思いが強く残っているため、それを感じながら行きましょう。まさに『古墳アドベンチャー』です。車でスーーッと行ってしまったらもったいない。私が奈良県の明日香村にある石舞台古墳(※写真参照)に行った時も、途中で道に迷ったり、ものすごい崖があったり、坂が多くて体力を奪われたりして、それを乗り越えて、やっとの思いで古墳に巡り逢えたら、古墳が輝いて見えるんです。それほど、私にとって古墳は憧れの存在なんです!」

ちなみに、まりこふんさんは同じく古墳ファンの宮本浩次さん(エレファントカシマシ)と古墳の話をするのが夢なのだという。実は関東には古墳が多く、千葉県の古墳の数は全国2位。
千葉だけでもネタが尽きそうにない。その時には、古墳の話のアツいトークセッションが繰り広げられることであろう。ちなみに、今回の取材でもまりこふんさんの古墳話は止まることを知らず、気がつけばあっという間に2時間半が過ぎていたのだった……。(やきそばかおる)

まりこふんのブログ
http://marikofun.cocolog-nifty.com/
仏像マニアの宮澤やすみさんと結成した仏墳ユニット「石舞台」でも活躍中。

※12月8日の土曜日に、世田谷区経堂2丁目にある「お湯かふぇ さばの湯」にて、古事記好きのイラストレーター、ヨザワマイさんと古墳と古事記への愛を語る「古事記×古墳ナイト」を開催。古墳と古事記ファンの方はぜひ。
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