季節の変わり目に必ず新しい服を購入しているのですが、最近買ったコートは完全に大失敗で。何せ、全然温かくない。
確かに軽いけど、ただ軽いだけ。スッカスカじゃねえか! っていう。防寒着として、全く役に立たないブツ。

あと最近、新しく本を買いました。これが、明らかに使えない一冊で。というか、ハナからそれを売りにしてる。
何しろ、タイトルが『出ない順 試験に出ない英単語』である。
っていうか、なんで出ない順にしてるんだよ? 間違いなく、受験生は読まないであろうテキスト。ただ、私は試験を控えていないわけです。そんな自分は、いつこのテキストを読むべきなのか。……今でしょう!

そんなこんなで早速ページを開くと、一番目に紹介されている英単語がいきなり「salmon carpaccio(サーモンカルパッチョ)」である。二番目は「dump(うんこ)」だし、三番目は「pillow talk(ピロートーク)」。
なに、コレ……。

どうやら、これが“出ない順”らしい。っていうか、なんで出ない順にしてるんだよ? 何度でも言うけど。
その辺り、同書のまえがき部分にてしっかり説明されておりました。
「TOEICに代表される資格試験の成績を社内の昇進要件に採用する企業が増えるなど、このような資格試験への対策が報酬や出世に直結するという、由々しき事態が生じています」
「まさに今、短時間で効率的に試験対策ができる教材が求められていると言えます」
「そんな時代の要請に応えるのはとても大変なので、本書はそうした任務を他の出版物に譲り、逆に『最も非効率な教材』の作成を目指して編集されました」

確かに、非効率だ。だって、例文がどれもひどすぎる。
例えば「panty line(パンティライン)」という単語を覚えるための例文が、ひときわアレなんです。
「Just for future reference,may I check your panty line?」
(後学のために、パンティラインをチェックさせてもらえませんか?)
「panty line」という単語を今さら覚える必要もないし、「reference」という単語はひょっとしたら試験に出そうじゃないですか。

他にも、まだまだあります。
「Bob secretly replaced the assistant manager’s treasured Chocorooms with Chococones.」
(ボブは係長が大事にしていたきのこの山を、こっそりたけのこの里に交換した)
「Enough Mario Kart,let’s resume surgery.」
(マリオカートはこれくらいにして、手術を再開しましょう)
「Please turn off your pink rotor near the priority seat.」
(優先席付近では、ピンクローターの電源をお切りください)
一番上は「Chocorooms(きのこの山)」、二番目は「Mario Kart(マリオカート)」、三番目は「pink rotor(ピンクローター)」を覚えるための例文である。
「フザけた参考書だな……」と思いきや、一つある事に気付いてしまった。何だかんだで、単語を覚えているのだ。
意味にしろ、綴りにしろ、既に刷り込まれている。効率に関しては、認めてあげてもいいかもしれない。

この勢いに任せ終盤まで読み進めていくと、「普通に出る英単語」という項に行き当たる。タイトルに偽りありというか、これがあったら普通に実用的じゃないですか。では、どんな例文が掲載されているのか確認したいと思います。
「This movie was filmed entirely with a colon fiberscope.」
(この映画は全編大腸カメラで撮影されました)
「Dr.Williams accidentally spilled coffee on the cecum during an operation.」
(ドクター・ウイリアムズは、手術中にうっかり盲腸にコーヒーをこぼしてしまった)
「Your Honor,I can’t recline my seat.」
「Please do not lounge around in the defendant’s seat.」
(裁判長、椅子が倒れないんですが)
(被告人はくつろがないでください)
上から「colon fiberscope(大腸カメラ)」、「cecum(盲腸)」、「recline one’s seat(椅子を倒す)」といった単語を覚えるための文章だそう。
「何も、こんな例文にしなくても……」と思ったものの、不思議と覚えやすいから文句が言えない。そのシチュエーションとともに、英単語も印象付けられていた。

もう一つ、実用的なのは“教材CD”が付属されている点だろうか。
冷静にいい声で「ボブは笑い過ぎてサーモンカルパッチョが鼻から出ました、Bob laughed so hard that the salmon carpaccio came out of his nose.」とか「ステファニーは会社でうんこをわざと流さない、After taking a dump at work,Stefanie doesn’t flush the toilet on purpose.」と、アナウンサーらしき男性が読みあげてくれるのだ。スピーカーから流れるこの音が、窓の隙間から漏れ伝わって外で歩いてる人に届いてほしくない。危ないCDである。


他にも「areola(乳輪)」、「Tokarev(トカレフ)」、「Ishihara Corps(石原軍団)」、「Kafrizzle(メラゾーマ)」といった単語を修得することができる『出ない順 試験に出ない英単語』。
確かに実用的ではないかもしれないが、もういい。新時代の参考書である。
(寺西ジャジューカ)