「せっかくの機会なんで…綺羅星!
榎戸洋司の挨拶に、会場が応える。
「綺羅星!」
「これ、やるの初めてなんですよ。
『綺羅星』って挨拶を脚本に書いたのは僕で、ポーズを考えたのは五十嵐監督なんですけど、テレビシリーズの打ち入りパーティーのときにみんなが『綺羅星!』って挨拶をしていて。世界中が僕を責めてる! って気持ちに…」

2/27池袋シネマサンシャインの「冬の総会 2013~スタッフ☆トーク~」の一幕。「スタードライバー THE MOVIE」の上映終了後に行われたイベントだ。
「スタードライバー THE MOVIE」は、2010秋~2011春まで放送されたボンズ制作のロボットアニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」の劇場版。2クール・全25話のテレビシリーズを、新規映像や後日談などを入れ込みつつ、二時間半に再構成したもの。
舞台は人型巨大兵器〈サイバディ〉が封印された南十字島。転校生の銀河美少年ツナシ・タクトが、世界征服を企む綺羅星十字団と戦いながら、島の名家の後継者のシンドウ・スガタ、その許嫁のアゲマキ・ワコと青春を謳歌するお話だ。タクトの初戦闘シーンの「貴様、銀河美少年かぁぁぁぁっ!」や、綺羅星十字団の挨拶である「綺羅星!」(フリ付き)は、放送当時話題になった(私も当時は全ての挨拶を「綺羅星!」にしておりました)。
テレビシリーズは、タクトを中心にして各キャラクターを描いていく、青春群像劇のようなテイストが強かった。劇場版は、そのニュアンスは残しつつも、タクト・スガタ・ワコの三人の関係にスポットを当てて組み立てられている。

「冬の総会2013」に登壇したのは、監督の五十嵐卓哉、脚本の榎戸洋司、サイバディデザインのコヤマシゲト。司会進行は佐藤成俊(アニプレックス)。
五十嵐監督は公開周辺にインフルエンザにかかっていたため、関東の劇場関連イベントに登場するのは初めて。また、榎戸は約二年ぶりのイベント登壇になる。

榎戸「二時間半の映画は『ちょっと長すぎるかなー』とは思ってたんですけど、『ゴッドファーザーPART2は三時間半なんだ!』って言い聞かせながら作ってました」
コヤマ「トイレ大丈夫でしたか? 上映中にトイレに行っちゃった人がいて…」(ちらりと五十嵐監督を見る)
佐藤「音の最終チェックのときに、五十嵐監督が音響監督をちょちょんって触ったんですよ。『あれ? なんかおかしいところあったのかな』って思ったら、『ハイ、ストップ! 監督トイレです~!』って」
五十嵐「その前に、『子供じゃないんだからちゃんとトイレに行っときなさいよ』っていろんな人に言われてて。『まあ、子供じゃないんだし? 途中でトイレなんて…ありえませんよ、ハハ!』って言ってたら…」

劇場版は、二時間半で約2500カット。そのうち、完全新作のカットは432カット。なんらかの形で手を加えているものも含めると、952カット(全体の約四割)が劇場版仕様になっている。後日談にあたる冒頭の新宿戦闘シーンやワコの新曲のシーンはとても目立つ新規カットだが、その他にもカットとカットを繋げるようなカットや、キャラクターの心情をより伝えるように手が加えられている。
榎戸「切るに切れないシーンが多くて、ひたすら悩み続けた作業でした。サカナちゃんのイカ刺しサムの話とかは、部分的に切ると意味がなくなっちゃったりするので…。そもそもサカナちゃんは、『劇中劇の連載ドラマってどうだろう!』って思いついて作ったんです。それが劇場版になると、どこも切れなくなってしまった」
佐藤「サカナちゃんのお話も、テレビとは違うところで違うフレーズがハマっていったりだとか。
そういうのを含めて劇場版ならではの編集ができてたかなあと思いますけどね」
榎戸「『冬の風だ。今年も来た』(劇場版冒頭のサカナちゃんの台詞)っていうのは、テレビシリーズのラストの季節が冬だったらサカナちゃんが言うはずだった台詞なんですよ。でも秋で終わっちゃったんで、『あっ、サカナちゃんの台詞が言えない!』って。劇場版は絶対言わせたかった!」

劇場版ならではの楽しみといえば、やはり冒頭の新宿戦闘シーン。短い時間の中にすさまじい情報量が詰め込まれている。とあるキャラクター(?)が小型化して喋ったり、劇場版では出番のないあの人達が暗躍していたり、ワコとスガタが銀河美少年になったり…と怒濤のファンサービスだ。榎戸が、はしゃいだ様子で冒頭について語り出す。
榎戸「ポケット×××(※ネタバレになるので伏せます)とスガタの掛け合い漫才っていうのが、僕の頭の中にずーっと浮かんでいて、『これでシリーズ作りたい!』っていう気分があって」
コヤマ「企画の打ち合わせをしている段階で、榎戸さんは既にその話をしていて。五十嵐さんと僕は、若干半分冗談だと思ってたんですよ。『それはさすがにないけど、まあそんなのもあったら面白いね~』ぐらいだったんだけど」
五十嵐「『ほんっとに、ポケットに、入ってるんですよ!』って言ってた」
榎戸「多分ね、一日に一回くらい、ポケット×××はスガタのところに行って、『スガタスガタ~、一緒に地球の征服者になろうよ~』って言ってるんだけど、『お前、しつこい!』ってバーン!って叩かれてる。虐められキャラ」
五十嵐「カワイイなー」
榎戸「スガタに虐められた×××は、タクトのところに『タクトタクト~、スガタがいじめるよ~!』って泣きつきにいくんだけど、たぶんタクトは『どーせまた下らねーこと言ってんだろ!』ってさらに叩くっていう、そういうキャラだといいかなって」
五十嵐「哀れだなー」

冒頭だけでなく、エピソードの合間合間でも、印象深い新規シーンは多い。否応なくガタッとなってしまうのは、タクトとスガタのお風呂シーンとワコによるスガタ×タクトのベッドシーン。
全裸のスガタがお湯から立ちあがりお尻がどーんと出るカットでは、思わず「スガタくんの王の柱(メタファー)がっ!?」と叫びそうになる。取材でも、それに突っ込むライターが多いそうだ。五十嵐監督いわく「基本的に深い意味や他意はなくて、『裸の付き合いは大事だよ!』っていうところがテーマなんです」とのこと。

コヤマの一番思い入れがあるカットは、ラストでタクトとワコが交わす会話。テレビと映画で大きくニュアンスが変化しているシーンだ。
コヤマ「テレビシリーズのときに『こうなってほしい』と思っていたエンディングになってるんですよね。ワコは全部わかってるわけで、それが劇場ではうまいこと表現できてるなーと」
五十嵐「テレビ22話『神話前夜』(劇中劇がある回。劇場版ではカットされている)に、ものすごい大事な台詞があって。それは役の中でタクトがワコの役に言う台詞なんですけど、一番最後でタクトが、今度は役にではなく、ワコっていう固有名詞を使って言う、っていうところに意味があるんだろうなーっていう気はした。それを言わせることによって、最後の戦いに赴けるタクトがいるのかなって」

「スタードライバー」は、総集編映画だ。ただし、完全新作映画と同じくらいの労力と愛情が注ぎ込まれている。どの新規カットも、新規とわからないほど自然になじんでいながら、強く印象に残るものになっている。

テレビシリーズをリアルタイムで見ていたときはただのネタアニメだと思っていた人も、DVDを全巻買っていたような人も、「綺羅星」ってよく聞いたけどなんだったんだろうと思っていた人も、楽しませて、驚かせてくれる作品なのだ。

最後に、五十嵐監督の一際大きい声。
「綺羅星!」
会場の声が揃う。
「綺羅星!」
(青柳美帆子)
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