TVアニメ「ちはやふる」「ちはやふる2」の魅力の秘密を探っていく、浅香守生監督インタビュー。競技かるたの表現法などの解説が中心だった前編に続き、後編では、現在放送中の2期「ちはやふる2」の見どころや、瑞沢高校かるた部のメンバーについても聞いていきます。

浅香監督が特に気になる、瑞沢高校かるた部のメンバーとは?
(前編はこちら

2期は机くんの株が上がりまくり

――1期と比較して、2期で描かれていくエピソードの魅力は、どういった点にあると思いますか?
浅香 1期は、瑞沢高校かるた部の部員が、それぞれで成長していく話でした。各自に目的があって、そこに向かって突っ走っていく感じ。2期では、全員が、よりチームとしてどうするかを考えるようになったり。1年生が入ってきたことによって、別な目線でかるた部を見られるようになったりして、違う意味での成長もできている。そういうプラスアルファで成長していく姿を描けるのが、2期かなと思ってます。
――1期の部員は、綾瀬千早、真島太一、大江奏(かなちゃん)、駒野勉(机くん)、西田優征(肉まんくん)の全員が同学年でした。
でも、花野菫、筑波秋博という後輩が加わったことで、より部活らしさが出てきましたね。
浅香 自分も、バレーボール部だったので、先輩後輩という感覚は、個人的に懐かしい感じがします。体育会系って、こんな感じだったなとか。
――かるた部の先輩たちは、みんな良い先輩ですよね。
浅香 ええ。肉まんくんも、なんだかんだ言いながら、すごく気遣いのできるやつなので。
ああいう先輩がいると、部活も、きっと楽しいですよね。
――楽しくて強い部活には、肉まんくんのような先輩が必要な気がします。千早みたいな先輩しかいないと、強いチームにはなれない気も(笑)。
浅香 たしかに。千早は、まず自分が突っ走るタイプなので(笑)。
――メインキャラの中で特に印象強いキャラや、制作を通じて印象の変わったキャラはいますか?
浅香 やっぱり、机くんと、肉まんくんですかね。
この2人は、演出的にギャップを描けるので、描いてても面白いです。特に2期になってから、机くんの株が上がりまくりで。世の女性の中でも、机くんファンが増えてくれると良いんですけど(笑)。
――では、2人とは対称的なルックスの太一については、どのような人物としてとらえていますか?
浅香 1期の最初の頃から太一の欲しいものは決まっていて。千早の視界に入ることと言うか……。千早に自分を見てもらうことが、最終的な目標だと思うんですね。
そのための方法として、かるたを強くなるしかなかった。これって、よく考えたら、太一に近づくために入部した菫ちゃんと、同じことなんですけどね。
――ああ、一緒ですね! 気づかなかったです。
浅香 でも、これからは、太一が貪欲になっていくというか。たぶん、その目的よりも、かるたへの思いの方が、彼の中でどんどん強くなっていくんじゃないかなって気はしています。そのあたりの変化。
本当にかるたに対して真剣になっていくところが、2期は大事かなと思ってます。

千早は小学校から変わらない

――千早には、どのような変化が?
浅香 千早は、変化しないことが良いキャラクターだと思っていて。小学生のときから、ほとんど変わってないんですよね。部活や後輩に対してなど、考えることは増えてきてると思いますけど。それでも、最終的にはクイーンになるってことだけ。それは、新も同じで。
小学生からまったく変わらず、名人になるため、かるただけに邁進してるので。
――変わらない2人に関わって、巻き込まれた人々が変わっていくような物語なんですね。
浅香 千早と新に関しては、全速力で突っ走ってる「かるたバカ」ですから。そこに追いつけ追い越せというのは、さらにすごい努力が必要だと思うんです。太一も、一見、天才肌に見えて、実はすごい努力家だったりする。そういうところも、この作品の熱くて、苦しいところですよね。
――もう1人の2年生部員、かなちゃんについても教えてください。
浅香 メインキャラの中で、唯一、文化的な香りのするキャラクターで。「ちはやふる」という作品に、きれいな色を付けてくれる存在だと思ってます。彼女がしゃべっているだけで、多彩に見える。まあ、言ってることはただのうんちくなときがほとんどですが(笑)。それでも色鮮やかに見えますよね。
――百人一首の和の香りが漂うような?
浅香 そうですよね。会場で取材をしたり、資料を読んだりしている限り、競技かるたからは、スポーツとしての面しか見えてこない。でも本来は、文化的な面、古典の趣みたいなところもある競技だと思うんですよ。すごく礼を大事にする競技ですし。そのあたりを思い出させてくれるキャラクターだと思っています。
――2期から初登場した、1年生の2人は、どんなキャラとしてとらえていますか?
浅香 筑波くんに関しては、3人の弟がすごくポイントになっていて。自分が試合に出るために、メンバー表を勝手に書き換えたりしていますけど。それも、兄としてのプライドからの行動で。僕にも兄弟がいるので、その気持ちはすごくよく分かります。3人の弟が(物語に)出てきた瞬間、それまでのすべての行動に合点がいきました。かるたを強くなりたいって気持ちの根っこにあるのが、弟たちなんです。強くなるためには、努力を惜しまないタイプで、彼も熱いですよね。あんな顔をしてますが(笑)。
――菫ちゃんについては、どうでしょう?
浅香 さっきも言いましたが、行動と、その元になってる気持ちに関しては、太一とあまり変わらなかったりして。恋愛バカだけど、それはそれでまっすぐな子なんですよ。そういうところで言えば、実は、千早と同じくらいピュアなんじゃないかって気はしてます。まあ、恋愛のためにカルタをやるとか、順序立てて考えてるところは、千早より打算的かもしれないですけど。目的があって、それに対して、ちゃんと突き進んでるところは、すごく良い子だなと思います。

千早、新、太一の関係を瑞々しく描きたい

――監督の演出術についても教えて下さい。1期では1話と最終話で絵コンテを担当されていますが。2期の第1話も、監督が絵コンテを担当されています。特に、意識されたポイントは?
浅香 2期の1話で描いたエピソードは、原作だと、かるたをあまりやらないところだったので。「『ちはやふる』だぞ!」と印象づけるため、冒頭にオリジナルで、かるたをやってるシーンを足しました。特に気をつけたのは、それくらいで。あとは、もう3回目になる「モデルの綾瀬千歳の妹がいるらしいぞ」っていうネタを、うまく使いたいなと思ったくらいで。
――1期の1話の冒頭と、最終話のラストにも出てきたシーンで。もう、お約束のネタになってますね。
浅香 余裕があれば、また部員募集のチラシも貼らせて、女帝(かるた部顧問・宮内先生の愛称)の「綾瀬さん、ここにも貼れるわよ」ネタもまたやりたかったんですけど(笑)。それは尺が足りなくて、諦めました。
――1期最終回と同じ流れになってたかもしれないのですね。他の演出家の方に絵コンテを依頼する際、監督から必ず伝えていることはありますか?
浅香 コンテを発注するときですか……。見た目はスポ根ものなんですけど。よくあるような、背景がガーっと流れて、「ウォー」とうなるような感じには、絶対しないでくださいということと。基本的には、一瞬で勝負が決まる居合いのような世界なので。変に間を伸ばすような演出はやめたいということ。あと、これはあるか無いか分からないくらいのものですが、基本的には、三角関係のような恋愛の立ち位置にいる3人が主役なので(笑)。そのへんも瑞々しく描きたい。そのくらいでしょうか。
――原作よりも、3人の小学生時代の回想シーンの出る機会が多いのは、やはり3人の関係性を常に思い出して欲しいから?
浅香 まさにそのとおりです。オープニングでも、けっこう子供時代を入れ込んでいますが、結局、ちはやも、太一も、新も、出発点があそこなので。何かにつけて思いだしたりすることが多いですし、印象づけておきたいということですね。1期のときも、小学生時代は、最初の3話しか描いてないので。
――そのあたりは、コンテではなく、シナリオの段階から増やしている?
浅香 はい。シナリオで入れてます。

ヒョロくんも何気にカッコ良い

――ちなみに、他の演出家さんが描かれた絵コンテを見て、浅香監督ご自身が刺激を受けたりすることはありますか?
浅香 それぞれの方に個性があって、面白いことをやって下さるんですけど。例えば、1期の5話などをやってくれた伊藤尚往さんは、競技かるたの理解度が高くて。ルールとか戦術を、すごく勉強してくださるんです。この札が残ってるから、この札をとって、こっちを相手に送るとか、全部考えてきてくださって。
――かるたのルールどころか、戦術まで理解してるわけですね。
浅香 目から鱗というか……非常に助かってます(笑)。すごくありがたいですね。
――オープニングとエンディングは、監督が絵コンテを描かれていますが、どちらも、ラストが近江神宮なのは?
浅香 2期は、(全国大会の会場の)近江神宮がメインの舞台になるので。作品全体を表すオープニングとエンディングでは、近江神宮を描こうと思いました。
――オープニングは、競技かるたのアニメらしい映像ですが、エンディングは、千早、太一、新のプライベートショットぽい絵になってます。ただ、新がイヤホンで聴いてるのは、もしかして音楽ではなく……。
浅香 かるたの朗詠です(笑)。選任読手の音源を聞いてるイメージですね。エンディングでは、新をちょっと普段と違う感じにというか、ちゃんとした服を着せたかったんです。まあ、手にしっかり「かるた展望(全日本かるた協会機関紙)」を持ってるんですけど。
――やっぱり、新も「かるたバカ」ですね(笑)。では、2期の今後(9話以降)の見どころを教えてください。
浅香 全国大会の団体戦予選が続いて、バラエティに富んだチームがたくさん出てきます。出落ちネタ的なところも面白いんですけど、実はカルタの戦術的にも見せ場があったり。彼らの側にもドラマがあったり。各試合とも、かなり深いところまで描いているので。そのあたりを楽しみにしていただければと思います。
――5月22日に発売が決まった「ちはやふる2 」DVDBlu-ray BOX 上巻には、12話までが収録されているので、このあたりの話が収録されているわけですね。その他に、12話までの見どころはありますか?
浅香 12話までであれば、貴重な新の試合も収録されてますね。普段は、あまり出てこない新が、いっぱい活躍しますので。けっこうカッコ良く仕上がっていると思います。放送を見て下さっている方も、もうすぐカッコ良い新が見られるので、楽しみにして下さい。
――分かりました。締めくくりに、読者へのメッセージをお願いします。
浅香 まだまだ、千早たちのドラマは続いていって。彼女らと彼女らにまつわる人々はどんどん成長していきます。さっきまでの話に出なかったキャラクターでいえば、ヒョロくん(北央高校のライバル木梨浩)も、2期では何気にカッコ良いところがいっぱい出てきますので。楽しみにして欲しいと思います。
――最後に、ヒョロくん推しですか!(笑)。今日は、ありがとうございました。
(丸本大輔)