日本の国民的アニメ「サザエさん」。温かいホームドラマで老若男女が楽しめるアニメだが、サザエさん一家の中で癒し系な旦那さまなのが、マスオさん。
心優しく面倒見もいいけど、ちょっとお調子モノなところも……。そんなマスオさんの声を40年以上も担当されているのが、マスオ・カさんこと、増岡弘さんだ。
今回、増岡さんが『マスオさんが教えてくれたこと 自然派マスオさんに学ぶ幸福の見つけ方』(廣済堂出版)というエッセイを出版されたとのことなので、早速手に取って読んでみた。
本書は、「マスオさんが教えてくれたこと」とタイトルにも書かれているように、マスオさんのキャラクター性から見える人間描写や、サザエさん一家を通じて垣間見える家族の温かさ、食や自然の素晴らしさなどについて増岡さんが語られている。
出版の経緯について、担当編集者である廣済堂出版の伊藤さんにお伺いしてみた。
「弊社社員がおつきあいさせていただいている声優学校の会合で増岡さんと出会い、エッセイの刊行を依頼しました。増岡さんは 声優界の大ベテランであり、長年にわたり演じられている「マスオさん」や「ジャムおじさん」は、日本で知らない人はいないほどの超有名なキャラクターであるため、多くの読者が興味を持っていただける本になるのではないかと考えました」
なるほど、確かに私も「マスオさん」という名前で手に取ったひとりである。それくらい、マスオさんを身近な人として感じているということなのだろう。
なお、「サザエさん」を見ていると、フネさんは割烹着で台所に立つし、波平さんは帰宅をしたら和服に着替える。食卓のシーンでは大人たちは座布団を利用していても、タラちゃんを含めた子供達は座布団を利用せず正座をしている。
現在ではなかなか見られない光景のような気がするが、そういった「昔ながらの日本の家族の風景」が自然にずっと残っているのが「サザエさん」なのだ。
私の周りにも、家族と一緒にいるときには気づかなかったけれど、一人暮らしをするようになってから改めて「サザエさん」を見ることで、家族の温もりを感じた人がいる。
そして本書でも、増岡さんは「サザエさんは「ある日」の自分です。」と語られている。
また、増岡さんは食生活の楽しさや、楽しく感じられる工夫も提唱している。私自身も、ついつい「忙しい」という理由で食生活に手を抜いてしまいがちだが、「ご飯の支度をしなくちゃ」と取りかかるより、「今日は何を食べようかな」と切り替えることで、食生活は楽しくできるという。「食事は美味しいからつくるのではなく、つくるから美味しい」という発想だ。
ほんのひと工夫でも食事に手間隙をかけることで、自分の体や自分自身を大切にしていることに繋がるのだ。
なお、伊藤さんに本書で読者に感じてほしい点についてお伺いした。
「増岡さんは物腰の柔らかな、とても優しい方です。お話していると、その素朴な温かさに癒されます。そんな自然な温かさを持つ増岡さんのお人柄が文章からも伝わってくる一冊になったのではないかと思います。そんな部分をぜひ「感じて」いただきたいです」
思えば、「アンパンマン」のジャムおじさんの優しげな印象や、マスオさんの良き旦那さんといった印象は、増岡さんの自然で温かみのある声があわさることで、より深く残るように思える。
なお、私は本書をずっとマスオさんの声で再生しながら読み進めていたのだが、途中、28年間カツオの声を担当されていた高橋和枝さんの葬儀のエピソードには、まるでマスオさんの口から当時の状況が語られているような気がして、思わず涙してしまった。
最後に、本書をどのような方に読んでいただきたいかを伊藤さんにお伺いした。
「増岡さんは、畑を耕したり味噌を作ったり、自分の手で茶碗を焼いたりと、サブタイトルにもあるようにまさに「自然派」の人生を送っておられます。その自由でおおらかな生き方は、高齢化社会においての老後のよき生き方の参考になるのではないかと思います。老若男女におすすめですが、特にご年配の方に読んでいただけるのがよいのではと考えています」
増岡さんは、日本人が忘れてしまった大事な忘れ物について語られている。それは、昔ながらの良き日本人の姿であったり、文化であったり、日本人独特の感性であったり、様々だ。
確かに、増岡さんが言われるように「かけそば」に玉子を落として「月見そば」と名づけるのは、日本ならではの感性であるように思うし、そういえば、「たぬきそば」「きつねそば」なども、日本独特の感性だからこそ出てきたネーミングのように思う。
日本人は、四季が訪れる中で常に自然と共に暮らしてきた人種であり、昔から短歌を詠んだり、桜や月を見てのんびりと風情を楽しむ……といったように、合理的な人には一見「無駄」と思われてしまいそうなことを、「文化」として楽しんでいた風習があったように思う。
生活の中で合理性を追求しすぎてしまうと、日本人が本来もっていた自然と隣り合わせだった頃の良さが失われてしまうような気がするし、日本の素晴らしい個性が無くなってしまうのかもしれない。
古来の人々が愛した日本の自然や文化を、今後どう愛し向き合っていくのか。増岡さんの自然や日本の文化を愛する文面を見ていると、忘れがちだった良き日本の姿、文化や自然の素晴らしさを再認識させられることだろう。
週末、お気に入りのビールを片手に、まるでマスオさんと一緒に飲んでいるかのような気分を味わいながら本書を読んでいると、肩の力が抜けて、何とも言えない穏やかな気持ちになれるので、オススメである。
(平野芙美/boox)
心優しく面倒見もいいけど、ちょっとお調子モノなところも……。そんなマスオさんの声を40年以上も担当されているのが、マスオ・カさんこと、増岡弘さんだ。
今回、増岡さんが『マスオさんが教えてくれたこと 自然派マスオさんに学ぶ幸福の見つけ方』(廣済堂出版)というエッセイを出版されたとのことなので、早速手に取って読んでみた。
本書は、「マスオさんが教えてくれたこと」とタイトルにも書かれているように、マスオさんのキャラクター性から見える人間描写や、サザエさん一家を通じて垣間見える家族の温かさ、食や自然の素晴らしさなどについて増岡さんが語られている。
出版の経緯について、担当編集者である廣済堂出版の伊藤さんにお伺いしてみた。
「弊社社員がおつきあいさせていただいている声優学校の会合で増岡さんと出会い、エッセイの刊行を依頼しました。増岡さんは 声優界の大ベテランであり、長年にわたり演じられている「マスオさん」や「ジャムおじさん」は、日本で知らない人はいないほどの超有名なキャラクターであるため、多くの読者が興味を持っていただける本になるのではないかと考えました」
なるほど、確かに私も「マスオさん」という名前で手に取ったひとりである。それくらい、マスオさんを身近な人として感じているということなのだろう。
なお、「サザエさん」を見ていると、フネさんは割烹着で台所に立つし、波平さんは帰宅をしたら和服に着替える。食卓のシーンでは大人たちは座布団を利用していても、タラちゃんを含めた子供達は座布団を利用せず正座をしている。
現在ではなかなか見られない光景のような気がするが、そういった「昔ながらの日本の家族の風景」が自然にずっと残っているのが「サザエさん」なのだ。
私の周りにも、家族と一緒にいるときには気づかなかったけれど、一人暮らしをするようになってから改めて「サザエさん」を見ることで、家族の温もりを感じた人がいる。
サザエさん達は年を取らない。だから、「これはいつかの自分がいた風景」だと感じることがあったという。
そして本書でも、増岡さんは「サザエさんは「ある日」の自分です。」と語られている。
また、増岡さんは食生活の楽しさや、楽しく感じられる工夫も提唱している。私自身も、ついつい「忙しい」という理由で食生活に手を抜いてしまいがちだが、「ご飯の支度をしなくちゃ」と取りかかるより、「今日は何を食べようかな」と切り替えることで、食生活は楽しくできるという。「食事は美味しいからつくるのではなく、つくるから美味しい」という発想だ。
ほんのひと工夫でも食事に手間隙をかけることで、自分の体や自分自身を大切にしていることに繋がるのだ。
なお、伊藤さんに本書で読者に感じてほしい点についてお伺いした。
「増岡さんは物腰の柔らかな、とても優しい方です。お話していると、その素朴な温かさに癒されます。そんな自然な温かさを持つ増岡さんのお人柄が文章からも伝わってくる一冊になったのではないかと思います。そんな部分をぜひ「感じて」いただきたいです」
思えば、「アンパンマン」のジャムおじさんの優しげな印象や、マスオさんの良き旦那さんといった印象は、増岡さんの自然で温かみのある声があわさることで、より深く残るように思える。
私の中では、マスオさんと増岡さんは表裏一体なのだ。
なお、私は本書をずっとマスオさんの声で再生しながら読み進めていたのだが、途中、28年間カツオの声を担当されていた高橋和枝さんの葬儀のエピソードには、まるでマスオさんの口から当時の状況が語られているような気がして、思わず涙してしまった。
最後に、本書をどのような方に読んでいただきたいかを伊藤さんにお伺いした。
「増岡さんは、畑を耕したり味噌を作ったり、自分の手で茶碗を焼いたりと、サブタイトルにもあるようにまさに「自然派」の人生を送っておられます。その自由でおおらかな生き方は、高齢化社会においての老後のよき生き方の参考になるのではないかと思います。老若男女におすすめですが、特にご年配の方に読んでいただけるのがよいのではと考えています」
増岡さんは、日本人が忘れてしまった大事な忘れ物について語られている。それは、昔ながらの良き日本人の姿であったり、文化であったり、日本人独特の感性であったり、様々だ。
確かに、増岡さんが言われるように「かけそば」に玉子を落として「月見そば」と名づけるのは、日本ならではの感性であるように思うし、そういえば、「たぬきそば」「きつねそば」なども、日本独特の感性だからこそ出てきたネーミングのように思う。
日本人は、四季が訪れる中で常に自然と共に暮らしてきた人種であり、昔から短歌を詠んだり、桜や月を見てのんびりと風情を楽しむ……といったように、合理的な人には一見「無駄」と思われてしまいそうなことを、「文化」として楽しんでいた風習があったように思う。
生活の中で合理性を追求しすぎてしまうと、日本人が本来もっていた自然と隣り合わせだった頃の良さが失われてしまうような気がするし、日本の素晴らしい個性が無くなってしまうのかもしれない。
古来の人々が愛した日本の自然や文化を、今後どう愛し向き合っていくのか。増岡さんの自然や日本の文化を愛する文面を見ていると、忘れがちだった良き日本の姿、文化や自然の素晴らしさを再認識させられることだろう。
週末、お気に入りのビールを片手に、まるでマスオさんと一緒に飲んでいるかのような気分を味わいながら本書を読んでいると、肩の力が抜けて、何とも言えない穏やかな気持ちになれるので、オススメである。
(平野芙美/boox)
編集部おすすめ