ちょっと~それってセクハラですよぉ
……え、マジで?

『部長、その恋愛はセクハラです!』は、実際にあったセクハラ事例を交えつつ、自分がハラッサー(セクハラの加害者)にならないための知恵をまとめた一冊。著者の牟田和恵はセクハラ問題の第一人者。
研究者、女性運動家として、多数の事例を調査してきた。

著者によればセクハラには、サッカーでいうレッドカードとイエローカードがあるという。
レッドカードは、強制わいせつなどの犯罪行為や、民事裁判で慰謝料を要求させるような本格的なモノ。イエローカードは、冒頭のようなケース。女性から軽くジャブが出される種類のモノ。大抵、女性からのサインに気がつかず、イエローカード2枚目で退場!となるわけだ。


例えばこんな事例。
とある大学教授がゼミの飲み会でパンツ一丁になってしまった。男子生徒は囃したて、女子生徒はキャーキモイと盛り上がる。調子にのった教授はあろうことか、ある女子生徒にソファの上で馬乗りになってしまった。
ショックを受けた女子生徒らは謝るように迫るが、教授は「お前らだって喜んでいた」「単位は大丈夫なのか」などと言う。結局裁判沙汰となり、停職1か月の懲戒処分になった。


これはグレーから真っ黒になる典型的なセクハラの例だ。そもそも良い歳したオッサンがハメを外すなという話だが、謝罪を要求された時点で素直に謝っておけば、ここまで大事にはならなかったはず。相手が娘ほどの年齢だろうが、反省して真摯に謝ること。それが1番の対処法だ。

上のような「スキンシップのつもりが……」という例は、まだ男性側もセクハラだったと認識しやすい。もっとややこしいのは、男性が被害女性と恋愛中だと考えていた場合である。


事実、恋愛がらみのセクハラは少なくないという。男性の一方的な勘違いである「妄想系」もあれば、被害女性も恋愛感情を抱いていたという「リアル系」もある。極端な話、最初は合意の恋愛でも関係が壊れたらセクハラは成立するらしい。

でも男性である私からしてみれば、悲しいかな、恋愛とセクハラの境目って正直分からないところがある。例えば以下の例。

半年間同じプロジェクトに関わってきたD子と課長。
何度も一杯やってきて、打ち解けた間柄である。ときには酔ったD子の肩を抱えてアパートまで送ったこともあった。
出張先での交渉が成功裏に終わった夜。達成感でいっぱいの二人は外で祝杯をあげた。課長の手腕を褒めちぎるD子。なにやらイイ雰囲気。
やはり、D子も自分に惹かれていたのだ。そう思い、部屋で飲み直さないかと誘った。そして、部屋に来たD子を抱きしめてベッドに……。

ここだけ読めば単なる社内恋愛に思えるのは私だけではないはず。だがこれは課長視点の物語。D子の立場になってみれば立派なセクハラになると著者は言う。

D子からすれば、課長に優しくするのは部下としてのおべっか。部屋に誘われたのも「明日のスケジュール確認のため」というから仕方なく。押し倒された時も、恐怖や、今後のキャリアが心配になって、逃げ出せなかったに過ぎないのだ。

これらの例から分かるように、セクハラの背景には上下関係があることが多い。上司と部下、教授と学生などの間柄には、下の者を動かす微妙な力が働いている。
この力を心理学用語で「勢力」という。「専門勢力」もその一種。これは自分よりも専門的能力の高い人物に従いたくなる気持ちを生む。女子生徒が大学教授を慕うのも、専門勢力が働いていることがひとつの要因だ。著者は、中高年男性が「モテる」のは地位と権力が9割、とばっさり切り捨てる。

さらにセクハラ問題には、勢力に加え社会的地位の男女差が関係している。
依然として社会では上の者に男性が多く、女性は少ない。総合すると、立場の弱い女性は目上の男性に迎合しなければという心理になり易いのである。

男性から見れば、はっきり「NO!」と言われるでもなく、むしろ優しくされているような気がする。だけど内心嫌がられていて、後々セクハラで訴えられる……。
畜生! もうどうしようもないじゃないか!

著者いわく、そもそも職場恋愛や学内恋愛はやめた方が無難だそうだ。どうしても我慢できないときは「仕事にかこつけて誘わない」「しつこく誘わずスマートに」「腹いせに仕返しをしない」という職場恋愛3カ条を重視すべきだとのこと。

結局、こうすればセクハラにならない、というのは多分、ない。とにかく謙虚に、相手の気持ちを考えてみること。それしかなさそうだ。

あー、頭が痛い。もう女性とは関わるのはこりごり。
……アレ? 私が勢力を持っている女性は、自宅で飼っている黒猫(ミッキー/4歳)ぐらいでした。とほほ。(HK 吉岡命・遠藤譲)