まわりの友人たちの子供を見ていると、どうやら大人がなにげなく言った言葉をいつのまにかインプットし、自分なりの解釈でアウトプットしているようだ。
そのような子供たちの発言などを集めた本が、『それ、どこで覚えたの?』(新潮文庫)である。
本書には、子供たちの面白い発言から、日々の成長を感じられるエピソードなどがたくさん集められている。本書を出版された経緯について、新潮社新潮文庫編集部の大島さんにお伺いしてみた。
「ライターの藤木フランさんと放送作家のゴウヒデキさんと雑談をしているうちに子供の話しになり、「おもしろい発言を集めてみよう」ということになりました。Twitterで我が子の面白い言動についてつぶやかれている約500名の方にご連絡し、許可をいただいた352本のツイートを掲載することができました」
本書を読み進めていると、思わず「ふふふ」と笑ってしまったり、「それは気づかなかった!」と感銘を受けたり、とにかく子供たちの不可思議でかわいいい発言や行動に、ページをめくる手が止まらないのだ。
なお、350本以上もある中から、私個人のお気に入りエピソードはこちら。
「床でじーっとしているムスメに「なにやってるの?」って聞いたら、「いしだよ。いまいしだからはなしかけないで」って言われたんだけど、ほおっておいていいのかな」
子供ながらにして、石と同化する心構え。まるで禅の心である。これを読んだ私は、ただただ「ほう……」と感心するのみだった。
「息子の名台詞「おとこはだれかうまない。おとこはうまれるだけ」父子二人、ファミレスにて」
とのこと。子供の言葉なのに哲学的で、大人ではなかなか思いつかない一言で感心させられたのだそうだ。子供たちの発言から意外な一言にハッとしたり、爆笑したり、ジーンとしたり……大島さんは、子供たちの言葉は真理をつくと実感したという。
本書を読み進めているうちに、私も子供のころに不可思議な発言をしていたのだろうか……とふと気になり、父に聞いてみたところ、
「子供のころ、一緒にお茶を飲んでいたら、たぶん大人の真似をしたんだろうけど、「このお茶にぶいねー!」って得意顔で言っていたよ。「渋いだろ!」とつっこむ前に笑ってしまったよ」
というエピソードが返ってきた。にぶいって。まるで、お茶が空気を読まなかったようである。きっと、大人たちがお茶を飲みながら「渋いね」と話しているのを聞いて、「にぶい」と聞きまちがえ意味もわからずに使ってみたかったのだろう。
最後に、本書をどういった方たちに読んでほしいかを大島さんに伺ってみた。
「小さいお子様をお持ちのお父さんお母さん、孫のいるおじいさんやおばあさんにはもちろんですが、子供がいない方にもオススメです。普段子供と接していない分、新鮮な驚きがあるはずです。
私自身、まだ子供はいないが、最近はfacebookが友人たちの子供の写真とエピソードで溢れ返っている。いろいろな子供たちの写真を眺めながら、どこか別の世界のように感じていたけれど、本書を読んでいると「ああ、子育てって楽しいのかもしれない」と(大変なことも多いだろうけれど)、周りの友人たちが子育てに夢中になる理由が理解できた気がした。
子供たちは、大人の会話から何をインプットするのか分からないし、大人たちはアウトプットされた瞬間に子供が覚えた言葉を知ることになる。その発見の過程も、子育ての楽しさなのかもしれない。
また、自分の子供のころの出来事は、自分を育ててくれた人でしかわからないことが多い。だからこそ、親の中には自分では知りえなかった情景がいつまでも残っていることが多いようだ。私の父も、私が子供だったころ一緒にラーメンを食べに行って、「おいしいね」と私が言った他愛もない一言や、そのときの情景などは、今でも印象に残っているそうだ。
自分の子供のころをより深く知るきっかけとしても、家族で本書を読んでみてはいかがだろうか。笑えて泣けて、家族の愛情を改めて知れるきっかけになると思う。
(平野芙美/boox)