全国的に海女さんの数は減っているとはいえ、伝統的な素潜り漁は今も日本各地でおこなわれており、熊本県西部の天草諸島もそのひとつ。天草の素潜り漁の歴史は古墳時代にさかのぼるほど古く、その潜水技術は日本一と称されることもある。
しかも、天草で活躍する素潜り漁師は、女性ではなく、男性の海士(あま)。「あまちゃん」ならぬ「あまくん」だ。実際に、あまくんに会ってみたい! と向かった先は、天草下島の五和町にある通詞港。五和町から牛深町にかけた下島西海岸は、天草の海の幸を代表するウニの名産地として知られている。
港に停泊した船中で、水揚げしたウニを殻から取り出す作業をしていた年配の夫婦に話を聞いた。
「今の時期に獲れるのは赤ウニだよ」
そう教えてくれたのは、ご主人で海士の宮本勝文さん(58歳)。漁は月曜から土曜まで、10時から14時ごろまでおこなっているという。
「潜るのは1回30秒くらい。7~10mかなあ」
獲れる量は人それぞれ違うが、ウニなら多ければ1回3~4個。1日では1~2kgが目安。
この地域では60人前後の「あまくん」が活躍しており、下は20代から上は70代までと幅広い。中心は40代で、夫婦や親子で作業をしている人がほとんど。ちなみに宮本さん、朝ドラは見ていないとのこと。
熊本というと広大な阿蘇の大地を真っ先に思い浮かべる人も多いかもしれないが、120以上もの島々からなる天草諸島は、新鮮な海の幸の宝庫。そのうえ、ウニをはじめとする高級食材も多いとくれば、グルメにとっては見逃せない旅先といえる。
たとえば、ハモ。夏が旬のハモは東京や京都の高級料亭で出される高級魚として知られるが、上天草の不知火海で獲れるハモは表面が黄金色に輝いて見えるため「黄金のハモ」と呼ばれ、築地市場でもトップブランド扱い。天草ではシーズンになると「黄金のハモ」を使った懐石料理を出す店も増える。
また、その巨大さに度肝を抜かれるのが、「天草天領岩かき」。カキといえば冬の真ガキのイメージがあるが、岩カキのシーズンは夏。
タコもよく獲れ、有明町ではタコによるまちづくりが進められているほど。国道324号の有明区間は「天草ありあけタコ街道」と名付けられ、タコを使った料理を出す店や、タコ関連の商品を売る店が点在。タコが多く獲れる夏には、干しダコが並ぶユニークな景観も楽しめる。おまけにタコへの感謝や供養の思いを込めたタコ供養塔「祈りダコ」や、街道のシンボルである妙にリアルな巨大なタコモニュメントなど、タコにまつわるユニークな観光スポットも多い。
さらに、伊勢海老やクルマエビも名産。とくにクルマエビは日本有数の生産量を誇り、熊本県の県魚にも指定されている。
そんなわけで、飲食店はもちろん、海鮮をウリにしている宿が多いのも特徴。天草最古の温泉、下田温泉の旅館などはその筆頭。約700 年の歴史を持ち、北原白秋などの文豪も愛したといわれる名湯と贅沢な海の幸を堪能できる十数軒の宿がある。
あまくんが活躍する美しい海の恵みは想像以上の美味しさと食べごたえ。
(古屋江美子)