テレビ東京『アド街ック天国』で東十条特集が放送され、さらに人々の注目を集めることとなった東京都北区。そんな北区だが、最近は「おでん」がかなり盛り上がってきているようだ。

2012年、東京商工会議所北支部が中心となり発足した「北区おでんのまち推進事業」が、今年は新たに10月10日を「おでんの日」と制定。さらに11月10日までの1ヶ月間を「北区おでん月間」として、区内の33店舗による参加・協力のもと、公式サイト公式Facebookページでおでんに関するさまざまな情報を発信する。そのほか、おでんを使った新メニューの開発、まち歩きツアーなどを様々なイベントも行っている。

しかし、なぜいま再びおでんに注目しているのだろうか。
東京商工会議所北支部に電話して聞いてみたところ、「同支部の役員で、推進事業を中心となって行っている田村さんという方が、北区おでん発展の経緯について詳しい」 とのこと。

さっそく田村さんに、おでんの歴史、町おこしにおでんを選んだ理由などを聞いてみることに。
さらに図書館でも、北区の歴史とおでんの関わりについて調べてみた。

北区の歴史と「おでん」の関係
北区とおでんとの関わりは、どうやら大正時代から始まっていたようである。
おでんの登場は明治時代だが、当時の東京ではあまり作られていなかった。しかし大正12年、関東大震災が発生し、東京は甚大な被害を受け、北区の赤羽駅や田端駅にも多くの被災者が集まったという。そこに炊き出しとして、おでんは再び登場することとなる。

また、北区は明治20年から第二次世界大戦終了まで、数多くの軍事施設が設置され、被服・造兵・兵器など、数多くの軍工廠が立ち並んでいた。
昭和初期に入るとこれらの軍事施設でも、「おでん」が作られるようになる。一度にたくさん作ることができ、気軽に食べられるので、軍工廠に勤める軍人や、職工を中心によく食べられていたそうである。
戦後、赤羽・十条を中心に立ったヤミ市でもおでんは売られていたとのことで、この時代にはすでに北区の人々にとって馴染みのある食となっていたことがうかがえる。


田村さんが見てきた「北区のおでん」
北区に生まれ育ち、現在60代の田村さんだが、幼少期、おでんは今で言う「ファーストフード」だったという。

北区は戦前から軍事工場が立ち並んでいた影響で、戦後は工場街となっており、そこで働く工人たちへ向けておでんの屋台が出ていたそうだ。屋台のおでんは工人・職人たちを中心におやつとして親しまれ、田村さん自身もよく買って食べていたという。

また、北区は水質の良い石神井川の伏流水が流れており、おでん種となる練り物の製造に適していた。よって練り物屋も多く、おでんは「北区を象徴する食べ物」だったそうである。

しかし月日は流れ、北区も工場街から住宅地へと変化していき、おでんもやや目立たない存在となっていた。
田村さんは2012年、再びおでんを普及させていこうと、町おこしの一環として「北区おでんのまち推進事業」を立ち上げる。また、おでん作りを通して、「ものづくりの街」としても改めて盛り上げていきたいという思いもあった。

「おでん」の多様性と可能性
33店舗ある「北区おでん月間」参加店は、大衆酒場・パン屋・ダイニングカフェ・乾物屋など、多岐にわたっている。
これは「ジャンルにとらわれず、その店らしい形のおでんを提供したい」という思いからである。

例えば、イタリアンカフェ「Tagen DINING CAFE」では、店独自のおでんとしてポトフを提供。老舗パン店「ベーカリー明治堂」ではおでんネタを入れた惣菜パン「おでんパン」を販売している。このように、それぞれの特徴を生かし、今までの概念を超えた、「新しい形のおでん」を提案する。

だしが決め手!? こだわりの昆布・花かつおを提供する、北区王子の海産物店「中新商店」
おでんの最大の魅力は、何と言っても素材の美味しさを存分に楽しめることだろう。そしておでんネタの引き立て役で、味の決め手となるのはやはり「だし」である。

海産物店「中新商店」も、だしとなる高品質な花かつおや昆布を提供することで「北区おでん」を盛り上げている。

「中新商店」は、昭和31年の創業以来、親子2代に渡り王子で店を営んでいる。取扱商品は昆布・花かつおのほか、わかめ・しらす・いかの一夜干しなど、さまざまな海産物を取り扱う。「生産者の気持ちをそのままで消費者に届けたい」という思いから、商品の保存管理に徹底してこだわり、風味を損なわないよう細心の注意を払っている。

例えばかつお節や昆布などは、スーパーで常温のまま売られていることが多いだろう。しかし本来はできるだけ低温・低湿度の環境で保存させたほうが香りを損なわず、鮮度を保つことができる。

このことから「中新商店」はほとんどの商品を冷蔵・冷凍保存、さらには配達の際にも保冷車を利用して、ベストの状態を保ったまま消費者のもとへ届けている。

その品質を表す逸話として、お客さんが飼い猫に中新商店で購入した花かつおを与えていたのだが、スーパーで買った鰹節に変えたとたん一切食べなくなり、また中新のものに戻したら再び食べるようになったとか。自宅で「北区おでん」を作る際はぜひとも使用したいものだ。

そのほか、看板商品である岩手産わかめへのこだわりも強く、商品はマイナス20度の冷凍庫で徹底管理、公式ホームページでもわかめを使ったさまざまなレシピ紹介を行う。

店主の中野さんは、店舗経営の傍ら東京都北区商店街連合会にも所属しており、商店街の活性化のため、多角的な活動を行っている。北区のケーブルテレビ局「JCN北」が開催した「北区だいすき! CMコンテスト」に、地元の商店街を中心とした店舗紹介CMを数本制作し応募。「北区おでん」公式ホームページで紹介している。いずれは北区の商店街全店舗のCMを作ることが目標とのことで、完成がとても楽しみである。

明治から現代まで。時代に沿って変化を続ける「北区おでん」
商店街・地元の人々・そして北区ファンが一丸となって盛り上げている「北区おでん」。
おでん店だけではなく、色々なジャンルの店舗がそれぞれ自由な形でおでんを提供していることがとても新鮮だった。商店街が再び活性化していくためにも、このような既存の概念にとらわれない活動はとても大切だろう。

「北区おでん」は、この1ヶ月間さまざまなイベントを開催してきたが、いよいよ最終週を迎えた。11月9日(土)、10日(日)には、王子駅そばのサンスクエア前広場にてファイナルイベントが行われる。北区おでん月間参加店によるおでんの販売や、ジャズのフリーライブなどを開催する予定だ。(詳細は公式サイト参照) 寒い屋外で食べる温かいものは格別だ。近所の人、時間のある人はぜひ行ってみよう。

なお、「北区おでん月間」が終了しても、参加店の居酒屋・おでん屋などは引き続きおでんを提供する予定だ。秋の食べ歩きは、北区の大衆酒場や公園で昼間からおでんをつまみにお酒を飲む、ちょっとアウトロー気味なテイストをおすすめしたい。
(エキサイトニュース編集部 富下夏美)

(有)中新商店
住所:東京都北区王子2丁目23-9【地図】
電話:03-3914-0223
Webサイト:http://homepage2.nifty.com/wakamenonakashin/

【参考資料】
「北区の部屋だより」特別号 「北区の歴史と『おでん』」