村上 僕は大絶賛しかない!
さやわか うーん、大絶賛だけど、スポイルされてる部分は当然あるよね。
坂上 途中までは神ですよ。
百点満点、これほどの感動をありがとう! でもそっから先が問題で……。

興行収入10億円を突破した『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』。賛否両論の作品だ。そんな『叛逆の物語』の「最速座談会」が、11月8日ゲンロンカフェで行われた。
語り合うのは『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』のさやわか、『ゴーストの条件』の村上裕一、『惜日のアリス』の坂上秋成この三人は以前にも『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』で座談会をしており、一年ぶりの集結になる。

ゲンロンカフェは超満員。前方のホワイトボードには、『まどか』のストーリーまとめがバッチリ書いてある。ネタバレしかない二時間半が始まった。

ここから先はネタバレ全開です。要注意!

■『叛逆』どうだったの?

坂上 冒頭からほむら暴走辺りまではさ、公式二次創作なんですよね。俺達が見たかった『まどか☆マギカ』が完璧に作られてる。
二回見に行って、両方とも五人の変身シーンでボロッボロ泣いた!
さやわか 虚淵さんもスタッフさんも「これは二次創作だ」ってところからスタートしてる気がする。
村上 特撮の夏冬の映画にも極めて近いと思いますね。『仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦』みたいな? 
坂上 『叛逆』って、「観客の欲望」だけじゃなくて、「キャラクターがテレビ版で見せた欲望」も反映してるところがおもしろい。マミさんとまどかが一緒に戦って「ティロ・デュエット!」とか言ってたけど、テレビ版では一緒に戦いたいって思ったそばから首パーン!だったじゃん。ついに一緒に戦えた。
さやわか キャラクターの性格がちょっとずつ変わったのは、まさに僕らの欲望も反映してしまったから。
杏子がちょっとデレた感じになってたりとか。
坂上 ほむらの結界世界は、僕らの欲望とキャラクターの欲望で作られてる。それがほむらのダークな性欲によってああなっていく……。
村上 エロ同人が清純な物語のヴァルハラを壊すみたいな。
坂上 だいたいそう。
さやわか えーと、前半は超好きで泣くほどだけど、後半は「いかがなものか」なの?
坂上 うん。
夢の世界のクオリティとか、お茶会のリズムとか、全てが虚構世界として完ッ璧。でも最初っからアイロニーが効いてる。『まどか』を見ている人だったら、「いやいや、虚淵がこんな脚本作るわけないだろ、次誰死ぬの?」と思ってる。
村上 マミさんを食ったベベが、なぜかマミのかわいいペットになってる時点で、これは虚構だってわかる。
坂上 ほとんどの客が「元の世界に戻る」と予想しながら見てますよね。その「元の世界」でほむほむが動いたことが、実はけっこうつまんない。


■キュゥべえ、喋りすぎ!

坂上 前半は見ていて美しい「映像」だけど、物語のレベルで進展させる力はない。それは後半の「言語」に託されてる。その後半が気に入らない。あまりにもキュゥべえが的確に説明しすぎ!
さやわか 設定がキレイにできてるから、それをそのまま語っているところがありますよね。
坂上 しかも長い! お前が喋れば喋るほど、この作品の神感が減っていく!
村上 えー。キュゥべえの説明って、セカイ系の中二病感をかき立てる効果しかないと思うんだけど。

坂上 キュゥべえが説明することで、「神を言葉で語れる」空気を作っちゃってるんですよ。
さやわか 前はアルティメットまどかのことを「概念」って言ったんですよね。でも今回はっきりとまどかは「神」として登場していて、ほむらは「悪魔」。「概念」っていう抽象性の高いものから、ベタな「神vs悪魔」って構図の神話に直そうとしている感じはした。今回の映画は非常にわかりやすくて、全力でエンタメに徹している。前の作品には母性の問題とか、なにか文学的なものが走っていたと思うんだけど。
村上 神話戦争って完全にエヴァンゲリオンのカウンターパート。最終的に使徒じゃなくてゼーレとぶつかっちゃうような、「結局敵は人間」の構図はすでに凡庸! 

■『エヴァ』はいいのに『叛逆』はだめ?

坂上 キュゥべえをとっとと踏みつぶして、言語とロジックじゃないほむほむの狂気に踏み込んだほうがよかったんじゃないの?
村上 じゅうぶん踏み込んでるよ! めっちゃ潰してたじゃん! どんだけキュゥべえをいじめたいんだ、お前。
坂上 話全体としてさ、「頭良い人」が作ってる印象受けなかった? まったく破綻してない。そういう意味では完璧にできてたし、まどかが救いに来れなくなるロジックも「よし、これでつじつまが合う!」みたいな感じが強かった。「愛よ」も、四分くらい前に「あー、どっかでぜったい『愛』って単語が出てくるな……」って。
村上 四分!? けっこう前だな!
坂上 あの瞬間「ピーン!」ってきたもん!
村上 俺は三十秒前には思った。
さやわか なんで「俺はニュータイプだ」議論になってるの?
坂上 本当は言語にできないような物語がほむらとまどかの間にあるにしても、ナレーション役のキュゥべえが「おーっとここで! シュート! シュート! ゴールッ!」って解説してる感じ。
さやわか 『まどか』はテレビでしっかり終わってた作品だから、「こうやったらさ、続きできんじゃん!」っていうのを思いついて、ドヤ顔で解説をしたかったんじゃないですかね。
坂上 ちょーていねいな図説まであった。嫌いなタイプの大学受験参考書みたい!
さやわか 気持ちはわかるけど、ぐっとこらえてほしかった。
村上 みんな大好き『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』ってあるじゃん? あれの後半で覚醒した初号機を見て赤城リツコ先生がする有名な説明はどうなの?
さやわか 『エヴァ』でそういう説明が始まると「説明台詞、きたー!」って思える。リファレンスに持ってるものがロボットアニメや特撮だから、お約束的に受け入れられるんだよね。だけど『まどか』はいわばサブカル的なものを参照してるから、「うわっ、超説明してる」って見えちゃう。

■寺山修司の影響がある

村上 映像で伏線を張ったり、描写したりしているものがすごく多い。そういうのは言語やロジックによるものじゃないよね。
さやわか 見滝原がだんだんほころびていくのがよかった。テレビシリーズのときには、アニメ的なところと、シュールレアリスティックなイヌカレー空間がはっきりと分かれてた。でも『叛逆』では、絵柄が混ざり合っているんですよね。その空間を観客はヘンだと思うんだけど、キャラクターはヘンだと思っていない。それにも「ほむらの結界内だから」って意味が、設定のレベルできちんとある。
坂上 そこがすばらしい。
さやわか マッチしていない絵柄をちゃんと動かしているのがすごい。細い線で描かれたマミさんが、太い線で描かれたベベを抱いてる。
坂上 テレビ版は、うめ先生の女の子たちと、それを取り巻く異常なイヌカレー空間。レイヤーが二重にあって、テレビ画面で重ね合わせている感じがした。
さやわか 新房さんの作品っていうのは、もともと空間的なものじゃない。漫画とかアニメとかの平面的なもの。寺山修司の技法の影響も感じる。横尾忠則とか宇野亜喜良とか、構成主義的な、エディトリアルな意匠が働いてる。レイヤーを重ねて、欧米的な参照性に基づいて、イヌカレー空間にレイアウトしていくような映画になってる。
坂上 冒頭で出てくる影絵も、立体的なものを平面に落としこんでるものだよね。
村上 でも、アニメキャラっていう「記号」を影絵にするのってすごく難しい。それをやろうとしたアニメはほとんど失敗してる。『ウテナ』はすごく考えられてた。
坂上 なに、ウテナdisる気?
村上 ちがうちがう、褒めてる。
さやわか 幾原さんは寺山的なものをやってるんだけど、三次元の空間的なものをすごく持ってる。演劇的だよね。

後編に続く

(青柳美帆子)

ゲンロンカフェは、東京・五反田にある文系と理系が融合する新型イベントスペースカフェ。東浩紀プロデュースです。

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