12月2日発売の「近代麻雀」。看板漫画の一つ、大和田秀樹『ムダヅモ無き改革』が、タイムリーすぎるネタを扱っている。


『ムダヅモ無き改革』は、実在する政治家や時事ネタを扱った麻雀漫画だ。元ネタはもちろん「聖域なき構造改革」。1話では小泉ジュンイチローとジョージ・W・ブッシュが戦闘機F15を賭けて闘牌した。
現在連載中の「血戦!尖閣諸島沖波高シ!!」編では、尖閣諸島をめぐってネオ中華ソビエト共和国と戦っている。卓につくのは昭和のアイドル・蒼井うさぎ(モデルはマンモスうれぴーのあの人)。

25話(今号)は、南一局の最後のツモ後、大きな溜息をつく蒼井の姿から始まる。
「いーらないっ」ツモ切られる3ソウ。蒼井はすでに3鳴きしており、どれもピンズ。しかも河にはピンズは一枚も切られていない。一色手の仕掛けが濃厚だ。
対するネオ中華ソビエト共和国側・江青(モデルは毛沢東の妻)は、ラストのツモでテンパイ。しかし蒼井の態度から、親番にもかかわらずテンパイ崩しの一打をとるのだが……。


この展開、フツーに読めば、フツーの麻雀漫画である。しかし、麻雀好きにはピンとくる。ポイントは「3ソウ」「溜息」だ。

11月初めに行われた「第30期 十段位決定戦」。主宰は日本プロ麻雀連盟(以下、連盟)。この8回戦東四局で、事件が起きた。

堀内正人プロが「悪質な三味線行為」をしたために、失格処分になったのである。三味線とは、対局している相手を騙すような行為をとること。たとえば、満貫の手が入っているのに「はー、今日ほんとついてないわー」などと言うことは三味線行為にあたる。
麻雀のプロの対局は、「競技麻雀」と呼ばれ、ルール・マナーを守った麻雀をすることが求められている。堀内プロはどのような違反行為をしたのだろうか。
連盟は次のように発表している。


「あと一巡で流局というところで、堀内プロは3ソウをツモりましたが、その3ソウを軽く卓に叩き、手の内の3ソウを切り出しました(いわゆる空切り。違反にはあたらない)」
「映像ではここまでしか確認できませんが、実はこのとき、堀内プロは3ソウを困ったような表情で、首を傾げ、軽く卓に叩きつけ、手の内の3ソウを切りながら、溜息をついておりました」

つまり、「ツモってきた牌が他の対局者の危険牌で、勝負をオリたように見せかける素振りをした」ということらしい。この行為を十段戦の観戦記では「三味線まがいのアンフェアなトリックプレー」と称している。
しかし、視聴者が実際に確認できるのは、3ソウを空切りしたところだけ。卓外の「首傾げ」「溜息」などは確認できない。そもそも、それらの態度は「マナー違反」に当たるのだろうか。
騙すつもりはまったくなくても、思わず首を傾げてしまったり、溜息をついてしまうこともある。
マナーは曖昧なもの。どこまでが「マナーを守った駆け引き」で、どこからが「悪質な騙し行為」なのか。明文化するのはきわめて困難だ。
堀内プロの行為が失格になるほどのものか、麻雀ファンの間では意見が割れている。

十段戦の失格事件について、今号の「近代麻雀」はほとんど触れていない。
「麻雀界タイトル戦情報」のページには、堀内プロの名前さえない。今回の件について、どのような態度をとっても角が立ちそうな状況のため、あえてスルーしているように見える。
そんな中、『ムダヅモ無き改革』だけが、「3ソウ」と「溜息」を扱っている。
大和田はもともと、時事ネタに果敢に切り込んでいくタイプの作家。その対象がいわゆる「身内」であっても、手は緩めない。秋田書店の『風評破壊天使ラブキュリ』は、どう見てもプリキュアを意識した女の子二人が放射能デマを斬る話だ。竹書房から出ている商品を批判する回もある。
十段戦の騒動があったのは11月初め。おそらく〆切まで余裕はなかったはず。今号の中盤、蒼井うさぎは江青にとある一言を吐き捨てる。その言葉は、スケジュール的にムリをしてでも、どうしても言っておきたかった大和田の本心なのだろう。

ちなみにもう一つの看板漫画、福本伸行『アカギ』
最近は鷲巣様が地獄に行っているのだが、今回とうとう巨大化して脱出。後の世界遺産・富士山を破壊し、自衛隊をなぎ払った。次週のアオリは「鷲巣様が新たな使徒に…!?」。えーと、アカギと麻雀どこ行った?
(青柳美帆子)