2月9日の朝、デンマークのコペンハーゲン動物園で生後18ヶ月のオスのキリンが頭を撃ち抜かれて死んだ。キリンはマリウスという名前だった。
死体は切り分けられて、ライオンやトラやホッキョクグマなどに与えられた。すべては公開されて、子どもも含む観客が見る中で行われた(CNNなどに動画もある。)

殺処分は以前から予定されていたもので、動物愛護団体などは27000を超える署名を集めて中止を要求していた。また、複数の施設がマリウスを引き取りたいと名乗り出ていた。米国の富豪から5万ユーロ(約700万円)で買い取るという申し出もあったことをBBCが報じている

それでも動物園は殺処分を実行した。
なぜそこまでして若くて健康なキリンを殺さなくてはいけなかったのだろうか?

動物園の責任者は「近親交配を防ぐため」と答えた(一連の回答はホームページにまとまっている)。近親交配を繰り返すと障害をもたらす劣性遺伝子の影響が強く出て、弱い個体が生まれる可能性が高くなる。集団の健康を維持するためには、いろいろな血統を確保しておかなくはならない。マリウスはヨーロッパの動物園ではありふれた血統だった。

近親交配を防ぐ避妊処置をしても、飼育場所や費用がかかる。他の自然公園や動物園に受け渡しても、もっと貴重な血統のキリンのための場所や費用が使われる。
自然に帰そうにもその研究はまだ進んでいない。だから他に選択肢はなかった、と動物園側は説明している。

つまり、マリウスは余っていたから殺された。

コペンハーゲン動物園をはじめ、多くの動物園が所属するEAZA(ヨーロッパの動物園と水族館の協会)の担当者はこの殺処分の支持を表明し、「もっと大きな視点でみてほしい」とコメントした。

動物保護団体は激怒した。

デンマークの動物保護団体は「安易な選択をするべきではなかった」「動物園が動物があるがままに生活する姿を見せる倫理的な施設では無いことが示された」と非難した。


「動物園に行ってはいけない」と主張する団体もある。その団体の調べによれば、2003年にはヨーロッパ全体の動物園で少なくても7500匹、多く見積もれば20万匹以上の動物が”余っていた”と推測されている。マリウスは不幸な例外ではなく、今の仕組みを維持する限り、同じ悲劇は何度も繰り返されると主張している

シカゴトリビューンは動物園には動物を健康的に飼育して繁殖させていくだけではなく、人道的に扱う義務もあると指摘した。しかし、このすべてを満たすことは難しい。飼育環境を快適にすれば長生きするようになる。
繁殖させれば場所が足りなくなる。結果として動物はマリウスのように余ってしまう。何らかの方法でコントロールしなくはならない。

コペンハーゲン動物園は、他の施設に預けることや不妊処置で問題を先送りするのではなく、自ら殺処分することでコントロールすることを選んだ。そしてすべてを公開し、理由を説明した。現在の枠組みの中では、最大限、責任感がある対応だったと思う。


殺処分を決定した責任者のバンク・ホルストを初めとする動物園の職員は、メールや電話で殺人予告も含む脅迫を受けた。また、マリウスの助命のための署名を募っていたページには、バンク・ホルストの解雇を要求する署名を募るページへのリンクが追加された。2月12日現在、こちらにはマリウスの助命嘆願の4倍を超える110,000以上の署名が集まっている。
(tk_zombie)