辻村「円城さんって、とにかく男にモテるんですよ」

3月2日に行われた「芥川賞&直木賞フェスティバル」で、直木賞作家・辻村深月と、芥川賞作家・円城塔のトークイベントが行われた。
作風も読者も違う二人は友人関係にある。
はじめて接点を持ったのは『神林長平トリビュート』。各賞の候補になることが多い二人は、文芸系のパーティで顔を合わせることがたびたびある。

辻村「円城さんの受賞のお祝いの会は、円城さんのことが大好きなおじさんばっかり。お祝いのスピーチで、円城さんほったらかしで『俺の好きな円城塔』についてみんなが語ってる。なんていうか……全員が前の彼女みたいな……」
円城「もともと男子校育ちなので、そういう状況には慣れてるんだけど、ときどきハッ……!と思う。ボンクラ男子学生、ボンクラ社会人しかいない! そういう男子って、まとめておいておくとダンゴになっちゃう」

あるパーティで、円城の創作ノートが出されたときのエピソード。
おおぜい人がいるはずなのに、一瞬辻村の周りから人がいなくなった。
辻村「みんな円城さんのノートを見に行ってた! 忘れられないのが、見終わった男性のひとりが言ってたこと。『え〜、俺と同じこと考えてる人いるんだ〜』
円城「そういうの多い。こないだも高校生に『書こうと思っていたことを先に書かれた!』って言われて」
辻村「円城さん、モテてる!」
円城「モテてもいいことない……」

円城が男子にモテるのは、おそらくギャップのせいだ。
「SF界の貴公子」と辻村に称されるほど、円城の作品は難解で実験的。小説の全体図が数式やグラフで表されたりする。
でも、本人は穏やかでチャーミング。相手に対してサービス精神があり、天然なのか計算なのかボケているところも見せる。外見もかわいい(トークイベントの日はポケットから家の鍵っぽいものがガッツリ見えていてグッと来てしまった)。妻のペンネームにちなんだカエルのピンをつけているところも素敵だ。
円城と交流のある男子は、円城と話すたびに「こんな円城塔は俺だけが知っている!」という気持ちになってしまうんだろう。

対する辻村は女子モテだ。
思春期の女子からは絶大な支持を集めている。特に、世の中と折り合いを付けづらく思っている女子や、自分や他人に対して潔癖なところがある女子は、辻村に「自分の気持ちをわかってくれる!」と心を動かされるのだ。
辻村「『辻村さんの小説読んでる女子って、付き合いにくそう』『愛人臭がまったくしない』って言われた」
知り合いの辻村好き女子を思い浮かべる。…………確かに…………。
辻村「でもね、私の小説を好きな男子もいるんです。ややこしい女の子ばっかり出てくる小説が好きな男の子は、ややこしい女の子を許容できる。
つまり、辻村好き女子を受け入れてくれるのは辻村好き男子なんです!」

そうそう、トークイベントのテーマは「小説で“事件”を描くとは」

辻村「円城さんの『事件』の発想ってなんなんですか?」
円城「『ホラ』ですね。でも、あんまり怒られないように気をつけてます。親に怒られないように……僕が殺人事件を書くと『大丈夫?』と心配されそう」
辻村「円城さんのお母さん、『作家になる』って円城さんの言葉に『ナルシストもたいがいにしなさい』! さすが円城塔のおかあさん」
辻村の家族は、辻村作品を読まないフリをしているのだとか(ここで目をそらす動きをする円城)。
辻村「育児ノイローゼの話を書いたときは、友達に心配されました。自分では全然意識してなかったんだけど」

二人とも、小説とは「自分の人生を公表するものではない」と考えている。
それは伝記や自伝であって小説ではない。
円城「劇的であればあるほど書きづらいですよね」
辻村「『むきだしのリアル』と、『明日起こりそうなこと』は違う。小説で起こす事件は、『明日起こりそうなこと』を探す。人間はむきだしの現実を見られない」
例として出されたのが歴史の教科書。「事件」がそのまま書いてある教科書を読んでいまいちわからなくても、キャラクターの「物語」を読むことでとたんにわかったりする。
震災もそうだ。
理不尽にたくさんの人間が亡くなったというリアルをそのまま受け取ることは難しい。
辻村「スケールの大きなものは、個人の話に還元されるとわかる」
円城「よく『そろそろ震災について書いたほうが』と言われるんだけど、大量死は書けない。みんな無視してるんじゃなくて、扱えないんです。『想像ラジオ』のような小説は出てきたけど、うまい型が作れない」
辻村「フィクションのフィルタを通して現実を書くのが小説家」
円城「でも、網膜や鼓膜自体がフィクション生成機だと思いますけどね。お前は揺れているだけ。脳の中にできているのは膜というフィルタを通したフィクション」

これからの二人はどんなものを書いていくのか。
辻村「私はミステリの人でいたい。直木賞をとって、偉い作家さんみたいになってしまうと、これまで私の作品を好きと言ってくれた子たちを裏切るような気がして。事件の解決はミステリの手法でしかできないから、たとえばSFを書いても『SF設定使ってるけど、彼女やっぱりミステリしか書けないね〜』ってSF好きの人に悪口を言われたい」
円城「今は、形式を変えていくと書けるものが変わっていくのが面白い。僕の本はよく『寝てしまった』と言われることが多いんだけど、『誰も読み切れない本』とかも面白そうですよね。誰でも眠ってしまう睡眠薬トリックとして使われる本」
ば、バカミスだ!
(青柳美帆子)

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