なにかの歯車がこんがらがりだすことがあるのよね」
東京の下町で、地域福祉にたずさわる主人公・里美涼(深田恭子)に、
民生委員として地域の悩みに寄り添ってきた石田敬子(坂井真紀)がポツンと言う。
母親は心臓が悪く、ほぼ寝たきり。
父親はリストラに遭って以来、酒浸りの生活に。
息子は5年前から部屋にとじこもっていて出てこない。
娘は離婚し、子連れで実家に戻り、家族全員の面倒を見ている。
でも、娘自身も腎臓をわずらっていて、いますぐ透析治療が必要。
どこでどう歯車が狂ってしまったのか、本人たちもわからない。
生活は逼迫し、追いつめられていく。
火曜夜10時放送のNHKドラマ「サイレント・プア」には、やむにやまれぬ人々が次々に登場する。
深田恭子演じる主人公・涼は、コミュニティソーシャルワーカー(地域福祉コーディネーター)として、生活に何かしらの課題を抱える人やその家族と、専門家やサービスとの橋渡しをするという役どころだ。
コミュニティソーシャルワーカーは実在する仕事だ。大阪府ではすべての市町村でコミュニティソーシャルワーカーの養成と配置が義務づけられているし、東京都、愛知県、島根県などでは都道府県福祉協議会を中心に養成研修が行われているという。
ただ、支援する側もされる側も一筋縄ではいかない。
例えば、ドラマの第一話に登場するゴミ屋敷問題。
ゴミ置き場まで運んでもらえれば、清掃事務所の管轄になる。
でも、家の中にあるうちはゴミではない。
住民自身にゴミだと決めてもらう必要がある。
ひとつ解決すると、山のように「解決してくれ」と要望が
殺到するという苦悩も描かれる。
第二話に登場するシングルマザーは、主人公・涼らに説得され、
幼い娘を一時的に施設に預け、透析治療を受けることに同意する。
でも、弟が家族をバラバラにするのはダメだと、猛反対。
「そんなのだめだ! かのん(娘)にも母親は必要なんだ」
という言葉が重くのしかかる。
4月27日に放送され、大反響を呼んだNHKスペシャル「調査報告 女性たちの貧困〜"新たな連鎖"の衝撃〜」にも
貧しさにあえぐような暮らしぶりの母や娘が登場した。
家族で支えあい、なんとかしのいでいる家庭がある一方、
家を出て自分だけを養うほうが楽になるのではと思う例もあった。
母親だから、長女だから頑張らなくていけない。
自分さえ我慢すれば何とかなる。
そう考えることは支えであり、呪いでもある。
ドラマ第一話に登場するゴミ屋敷の主は、最愛の息子を亡くした年配女性だった。
第二話のシングルマザーは病身にも関わらず大黒柱。親を介護し、引きこもりの弟を心配する。
第三話ではお互いを思いやるあまり、会うことを拒否する年老いた兄妹が描かれる。
第四話では、冒頭の石田敬子が若年性認知症の母親との関係に悩んでいることが明かされた。
第五話は5月6日(火)に放送される。全9回。
(島影真奈美)