GW中の4月28日のこと。こんなツイートがTwitterのタイムラインを賑わせたのを覚えている人もいるのではないだろうか。


“京都造形芸術大学の友達から『シロくま先生っていう素敵な先生がいるの!』って画像が送られてきたんだけど、なにこれ?”

写真にはシロクマの顔&スーツ姿でオフィスでくつろぐ先生らしき人物が写っていて、確かに“なにこれ?”レベルのインパクトである。「先生に会ってみたい!」「こんな先生なら授業を受けてみたい」などとタイムラインが盛り上がり、RTの数はなんと8000件に迫る勢いに。また、「大学には月曜だけいるらしい」「デザイナーとしても活躍」「実はメンズノンノに登場したことがある」など、シロくま先生にまつわる噂をまとめたNAVERまとめも作られ、こちらも24万ページビューと、芸能人並みに話題になった。

そんな、気になりまくる存在のシロくま先生(@shirokumasensei)の正体を探るべく、直撃してみた。シロくま先生はいつ頃から、どんなきっかけでシロくま先生になったのだろうか?

「大学でのシロくま先生としてのキャリアは5年くらいですね。きっかけ……というか、よく学生たちに『なんで(シロクマを)かぶってるんですか?』って聞かれるんですけど、かぶっているんじゃなく、『そういうスタイル』なんです。
普段はスーツを着て授業してますが、ワークショップで山登りをしたりする時はカジュアルな服も着ますよ。そこは人間と一緒です」

な……るほど。そういうスタイルのシロくま先生を、大学側や学生たちはどのように受け入れたのだろう?

「シロくま先生として授業を始めたとき、大学の先生たちは『あっ、そうなの?』みたいな感じで、なにも言わなかったです。芸大ってやっぱり、社会に対して何かを提案していく実験場みたいな場所だと思うんですよ。時代に合わせて人の生活も気分も変わっていくので、今ではなくこれからを想像するという意味で、シロくま先生を新しい試みとして受け入れたんだと思います。アイデアを仕掛ける側の人間を育てる場所なので、学生たちの反応もクールなんじゃないかって予想してたんですけど、結構ワーキャー言われることが多くて。
『あれっ、芸大生ってこんなことで喜ぶのか!』っていう思いは、ちょっとはあります」

不本意にも(?)学内のアイドルになってしまったシロくま先生。授業ではどんなことを学生たちに教えているのだろうか。

「全学科の一回生がそろう『ベーシックワークショップ』という、ワークショップ形式の授業を担当しています。学外では金沢21世紀美術館など、遠方まで出向いてワークショップをすることもあります。学生たちにはいろんな切り口で制作をしてもらいますが、それは美術はもちろん、仕事や人生に対する“考え方を育てる”ためのもの。芸大に入って来たばかりの学生たちは、例えば『絵が上手くないといけない』だとか、テクニック的なものに対する思い込みが強いんです。
でも、下手でもいい絵ってありますよね? 数学なら1+1=2が正解だけども、アートであれば1+1=2以外の答えもたくさんある。むしろ、間違えてるくらいのほうがおもしろかったりする。間違え方にもセンスや知性が表れる。すぐに正解を探さない考え方を育てるための授業なんです」

このワークショップの内容については、ブログ「シロくまとはいえ、先生です。」(2012年に更新終了)にもまとめられていて、“カフェにあるものだけを使ってジュエリーを作る”“街に落ちているゴミを集めてTシャツをデコる”などなど。普段の生活の中で見慣れたものを、作品の素材など“別のもの”としてもう一回見つめ直してみよう、というテーマに基づくものが多い。

「以前にうちの学生にも協力してもらって、くるりの『Remenber me』って曲のPVを作らせてもらったことがあるんですが、その中では消しゴムのカスで絵を描いているんです。
普段は消しゴムのカスは消しゴムのカスでしかないのですが、見方をニュートラルにすれば、そういうクリエーションにつながる。みんな、日常生活の中で油断してものごとを見てるんじゃないかな?って思うんですよね」

実はシロくま先生は京都発のジュエリーブランド“CHIMASKI”のデザイナーの一人としても活躍しているのだが、このモノのとらえ方は、カラフルなお菓子の包み紙や海辺の漂流物なども素材として活かしたブランドの世界観にも通じている。

本職のデザイナーとしても活動の場を広げているシロくま先生なのだが、学生たちや学外の人と接するなかで、最近、よく考えていることがあるのだそう。

「先日、九州の高校生200人くらいと話をする機会があったんですが、驚いたのがみんな“進路”のことで悩みまくっていたこと。人生の進路なんて、高校で決めるのも無理な話ですし、加えてここ10年間で1人の人が1日に接する情報量が540倍になったというデータがあります。情報の多さに混乱して不安になったら、人間ってどうしても正解を求めたくなると思うんです。
でも、人生に正解とかないですから」
「今の小学4年生が大人になる頃には、その65%が現在には存在しない仕事に就くとも言われています。これからは先生や大人の言うことをただ聞くのではなく、自分で考えることがとても大切になってくる。例えばどんなシャンプーを使うか、好きなブランドだとか小さなことも大きなことも、ちゃんと自分で考えて決める。僕は先生をしてますが、僕も迷っているんで、“先生だから正しい”なんて思ってほしくないです!」
(古知屋ジュン)