■列車ではなく馬で渡る予定だった?
英仏海峡の下にトンネルを通す計画が持ち上がったのは、じつは約200年前の1802年。仏エンジニア、アルベール・マチューが英仏海峡にトンネルを作ることを提案した。オイルランプの灯りと馬車、海峡中央部に人口島を造成し、そこで馬を取り換えつつトンネル内を渡るという案だった。
その後もトンネル計画は持ち上がったり、採掘が行われたりしたが、現在のトンネルの工事は1988年に始まり、6年の歳月を要して1994年に開業した。工事には日本企業も参加した。英テレグラフ紙によれば、建設費用は当時46億5000万ポンド(約8000億円)かかり、現在の価値で120億ポンド(約2兆円)だそうだ。
陸上部分を含めた全長は50.45kmで、青函トンネル(53.85km)に次ぐ世界第2位の長さを誇る海底トンネルだ。海底部のみ比べると青函トンネルの23.3kmより長く、37.9kmで世界最長となる。
■英仏どちらが多く掘った?
採掘は英仏両方から進められたものの、ちょうど中間点で両者が出会ったわけではなく、英国側がより長い距離を掘っている。トンネルは鉄道が通る2本と、中央部の緊急用1本の3本セットだ。
海底からの深さは平均50mで、もっとも深いところは75m。
工事には1万3000人が従事し、10人(そのうち8人は英国人)が建設中に亡くなった。
■どれくらいの人がトンネルを利用するのか?
ユーロトンネルは1日最大400本の列車が通り、5万人の乗客、6000台の乗用車と180台のバス、5万4000トンの貨物が運ばれる。昨年は2040万人が同トンネルを使って英仏間を行き来した。トンネルを通過するには約35分かかる。
なかでも自動車でトンネルを通過する人は圧倒的に英国人が多く、その割合は85%だそうだ。車でトンネル内を通過するためのシャトルトレインの長さは775mで、サッカー場(タッチライン)約8面分に当たる。
ユーロトンネルを走る列車であるユーロスターは、盲導犬以外のペットの乗車を禁じているが、シャトルトレインに車ごと乗る場合は、ペットもトンネルを通過できる。今まで100万匹を超える犬や猫が、英仏海峡の下を通ったという。
トンネルが封鎖される深刻な火災は、今までに1996年、2006年、2012年と3回起きている。もっともひどかったものが1996年11月18日に起きた火災で、500mに渡ってトンネルは損傷し、6カ月間運用に支障が出た。
■ユーロスターの今後は?
現在、ロンドンとパリおよびブリュッセル(ベルギー)を結ぶユーロスターは、拡大が進められており、ロンドンからアムステルダム(オランダ)、ケルン(ドイツ)へも直通運転される予定だ。今の車両は仏版新幹線TGVを元にしたものだが、新型車両は独版新幹線ICEを製造するシーメンス社のものが選ばれている。
(加藤亨延)