『スマイリングスシロールたまちゃんのにっこり寿司』である。
巻き寿司は海苔の上に酢飯を敷き、かんぴょうやきゅうりなどの具を載せて、海苔と一緒に巻いたもののことで、日本に住んでいる人であれば馴染みの食べ物である。
巻き方は地方によってさまざまだが、断面は四角形や丸い形が一般的だ。
本書では、巻き寿司の断面で名画、各国の文化を象徴する絵やエロティックな図象を表現している作品がたくさん紹介されていた。
ムンクの「叫び」、ガウディの「サグラダ・ファミリア」、クリオネ、マンドラゴラ(根っこが人間の形をした謎の植物。昔から魔術に使われていると言われている)などが巻き寿司の断面から現れるのだ。
男性向け週刊誌ではお馴染みの袋とじもあり、エロい巻き寿司をみることができて面白い。
ページをめくるたびに出てくる信じられない“巻き寿司アート”の数々。「どうやって作っているんだろう……」「コレを巻き寿司で作ったのか!」と、最後までビックリしっぱなしである。
担当編集の方に“巻き寿司アート”との出会い、そして本を出版した経緯を教えてもらった。
「雑誌の記事で、たまちゃん(著者、本書の作品を作ったアーティスト)のムンク寿司が紹介されているのをたまたま読み、おかしなことをしている人だなと興味をもちました。そしてウェブサイトを拝見したところ、これまでの作品がたくさん掲載されていて、どれもこれも、スゴイ! としか言いようのないインパクト。それは、まったくどうやって作っているのかはわからないけれども、とてつもない技術を要するものだということだけはひと目でわかりました。
担当編集の方が1番好きな作品は、「Pillow Talk(ピロートーク)」だそうだ。
「この作品は、たまちゃんが誇る、1本ののり巻きから、切るたびに違う絵柄が出てくるタイプのものです。添い寝の相手が変わるなんていう発想がシャレています。いってみれば、1本ののり巻きに、時間と空間と人間ドラマが表現されているわけです。そして、表情や体の線まで完璧です。女性の胸の紅しょうがの絶妙な位置などに注目してください。ほんとうにすばらしいと思います」とのこと。
巻き上がり、切ってみるまで分からない……というコントロールが難しい巻き寿司だからこそ、“巻き寿司アート”を見た人は誰でも感動や驚き、そしてスリルを味わえるのだろう。
ライター自身が気に入っている作品は「TheJapanese salaryman(ジャパニーズサラリーマン)」である。
日本で良く見る、サラリーマン同士の名刺交換の場面が描かれている。
1番初めの挨拶である名刺交換では、相手の肩書きなどは関係なく、お互い腰を低くし「お世話になります」と挨拶を交わす文化が日本にある。
巻き寿司を切って現れる断面が左右対称だからこそ、この作品が生まれたのかなと想像し、そんな日本の文化が誇らしい気持ちになった。
子供の頃から馴染み深い題材を使っているからかもしれないが、海苔で描かれているちょっとゆがんだ線や色づけされたごはん粒同士がちょっとくっついているところが名画やエロティックな作品でもみて心がほっこりする。
外国の友達、ちょっと疲れている友達や元気が無い友達にプレゼントとしてもオススメである。
(boox/茶谷)