いろんなお仕事あるけれど、参加している人数が300人近くいて、その仕事の過程を全て掌握している役職ってそうそうないよね。
でも世の中にはあるんだ。

その一つがアニメの制作進行

「キルラキル」を作ったTRIGGERの、舛本和也の「アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本」は、ほとんどの人が知らないであろう「制作進行」の仕事の内容を、目指している人向けに書いた本です。

アニメ作りに興味ある人なら問答無用でオススメ。
だって、制作進行って作品制作の全工程に関わる唯一の役職ですから。この仕事を追っていけば、アニメがどうやって作られていくのかが全部わかる。

でもぼくが一番勧めたいのは、会社で管理する仕事に従事している人です。

アニメという、普段接することのない他業種の管理術をあえて見ることで、役立つ部分が山ほどあります。

例えば二章では、制作進行の仕事である、人と物の管理の話が書かれます。
アニメで使う数千枚の動画、300カットの原画・レイアウト・背景・カット袋、数十枚の伝票……一話分のこれを「いまどこにあるか把握してなくさないようにしないといけない」。
アニメの素材は手描き。複製できない。なくした時点でアウト。
怖い! 
でもこれは当たり前。

スケジュール管理も大事。スタッフ個人のスケジュール、前話数の状況、個人の体調、受け持つ仕事内容、イベントなど。
このへんも当たり前。
「様々なアクシデントが必ず発生します。これをどうにかするのが制作進行のスケジュール管理です! スケジュールをたてることではなく、スケジュール通りに現場が動くようにアクシデントに対処し、ひとつひとつ解決することが「管理」なのです!」

作業環境も整えなければいけません。
防犯、作業道具の補充、作業スペースの管理など。
さらに「交番・病院の確認」「交通手段の確認」「食事の出来る場所の確認」をすることも大事。
すごい。でもここまでやっても、「「出来て当たり前!」の内容なのです」と筆者は書きます。

プロジェクトの成否を分けるのは暗黙の実務
人間関係づくりや他人の価値観への理解、利害関係の把握や作品へのこだわり……。

目に見えない仕事こそが重要だ、と説きます。
と言われても、そもそも何をどうするのが暗黙の実務の遂行なの?

筆者は3章「地獄の新人研修」で新人研修の際、疑似体験がいかに重要かを書いています。
アニメ現場では、新人を現場に投入して即実践という教育方法が取られていることが多いそうです。確かに多くの会社でもよくある手法でしょう。
しかしこれはハードすぎる。特に昔と今は仕事の体制が違う。
「オーバーワークによる精神のオーバーフロー」を起こして、一年以内に辞めてしまうケースがアニメ業界では特に多い。
であれば、ちゃんと時間をかけて、疑似体験させることが重要ではないか。

この本自体が「疑似体験」本になっています。
実際に「リトルウィッチアカデミア」を例に、制作進行の仕事を、動画つき(QRコードで見られます)で追うことができます。
シナリオから始まり、絵コンテ、レイアウト、原画、動画、仕上げ、撮影、アフレコ、編集……やることはたくさん。
その一つ一つに対して「暗黙の実務」が具体的に書かれているのです。


例えばレイアウトの受け渡しの時は、ただ運ぶだけじゃない。「ここで大切なのが、原画マンや演出・作画監督とは顔を合わせて会話することです」。
作業的には受け渡しだけして、メモ書きを残したほうが早く見えるかもしれない。
けれどもクリエイターと直接あってコミュニケーションをとることで、相手の好みや仕事方法を知ることになる。クリエイターとつながり、数年後の自分のためになる。

「終われば問題なし! しかしこの業界、90%以上が終わりません! 断言できます! 制作進行がちゃんと状況を把握しておかないと絶対に終わりません! もう一度言います! 終わりません!

〆切りのためなら、喧嘩も辞さないのが制作進行の仕事。
同時にみんなの心やスケジュールのケアも徹底。相手の好きなお菓子まで把握しておく。
アニメ業界に限らない話です。スケジュール管理を厳しくまとめてくれる人、その上でコミュニケーションを通じてケアしてくれる人が会社にいるかいないかで、効率に大きな差が出てくるはず。
好きなお菓子の把握は、コミュニケーションを円滑にする上で、決して大げさなネタではありません。

「スタッフの抱える全ての仕事を把握していないと、うまい喧嘩や駆け引きもできません。相手を知ることがいいフィルムを作る第一歩です!」
ただ上から叱りつける人には誰もついてこない。
その理由を話し説得できるかどうか。相手の仕事内容を把握しているかどうか。
理解してくれる人の意見は、聞きやすいものです。

アニメの制作進行の文献はほとんどありません。書けないくらい忙しいからです。
この忙しい中で、最低限ではなく最大限のケアをするよう心がける姿勢は、「!」が多用され「キルラキル」フォントでドンと大文字で書かれたこの本くらい、熱血なテンションを保たないと、確かにもたない。
もたないけど、そういう意識を持っている人がいることに励まされ、参考になるはずです。
あと読んでいると、めちゃくちゃにテンションがあがります。買って最初のページ開いたらすぐボルテージマックスですよ。

業務に対しては、厳しい発言が多い本です。
なのに読み終わってスカッとするのは、読者の心のケアまで筆者がしているから。
管理されちゃいました。気持ちいいですね。


舛本和也 「アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本」

(たまごまご)