2014年の大ヒット作として誰もがあげる「アナと雪の女王」。16週連続で1位だった「アナ雪」から王座を奪った「マレフィセント」
そして7月19日公開のスタジオジブリ最新作「思い出のマーニー」
この三作が今年出そろったのはあくまでも偶然だ。けれど、運命的なものを感じてしまうくらい、この三作で描かれているものは近い。
男と女の恋愛ではなく、「女と女の関係」を描いているというのは、もっともわかりやすい共通点。けれどそれ以上に、大きく共通しているテーマがある。
それは「愛」「許し」だ。


■自分を好きになれない「アナと雪の女王」

「アナと雪の女王」は、エルサが幼い妹・アナを傷つけてしまったことからはじまる。不幸な事故ではあるが、エルサは自分の能力を恐れるようになり、アナに対して引け目を覚える。それが長じて、抑圧された人格と、いびつな姉妹関係が残ってしまった。
戴冠式という大衆の目にさらされる場所で、能力を暴走させてしまったエルサ。「もうどうにでもな〜れ」とやけくそになり、「Let it go」を熱唱しながら自分でつくった城に閉じこもる。日本語版歌詞では「これでいいの」「自分を好きになって」と歌っているが、これは完全に強がりだ。
これでよくないし、自分を好きになれないから、能力を制御することができていない。
エルサの問題は、「無条件の愛」を失ってしまったこと。両親はエルサを愛してはいるけれど、エルサにとってはそれは「自分がいい子にしていれば」という条件つきのものになってしまった。英語版の歌詞「Be the good girl you always have to be」(いい子でいなくてはだめ)「That perfect girl is gone」(完璧な女の子はもういない)でも、エルサの抑圧は伝わってくる。
「完璧な女の子でないと愛されないのに、完璧な女の子ではいられなくなってしまった。もう、自分は愛されない」
そんなエルサの深い苦しみを癒すのは、妹・アナだった。

クライマックスで描かれる愛。自分は本当に愛されているのだ、かつて(そして今も)傷つけてしまった相手は、自分のことを心の底から許してくれているのだ……許され、愛を実感できたエルサは安定し、能力を制御することができるようになる。

■愛を信じられない「マレフィセント」

「マレフィセント」も同様に、愛を失い、傷つけてしまった相手に許され、愛を取り戻すお話だ。
ベースになっているのは「眠りの森の美女」。オーロラ姫に呪いをかけた魔女・マレフィセントにフォーカスを当て、新しいマレフィセント像を作り上げている作品だ。
もともとマレフィセントは魔女ではなく、強い力と大きな翼を持った妖精だった。
ある日、マレフィセントは人間の少年・ステファンと恋に落ちるが、彼の心は変わっていってしまう。ステファンはマレフィセントを騙し、翼を奪い、王の座に就く。絶望し「魔女」となったマレフィセントは、ステファンの娘であるオーロラに死の呪いをかける……。
けれど、マレフィセントはじょじょに変わっていく。憎むべき存在であるオーロラのことを愛おしく思い始めてしまうのだ。オーロラも彼女のことを「ゴッドマザー」と呼び慕う。
マレフィセントはオーロラの呪いを解きたいと考え始めるが、解くことができない……。
傷つけられたマレフィセントはもはや愛を信じることができない。自分が愛されるとも思わないし、誰かを愛せるとも思わない。それが、オーロラの存在で揺れ動かされていく。
終盤に起こる「奇跡」は、愛と許された証。そしてマレフィセントは己を取り戻す。
この構図は、「アナと雪の女王」にとてもよく似ている。

■許し方も愛し方もわからない「思い出のマーニー」

そして「思い出のマーニー」。いきなり「私は、私が嫌い」のモノローグから始まることでもわかるように、本作の主人公の杏奈(あんな)は自己肯定感が低く、愛されていることを信じられない。
以前は、無条件で信じることができていた家族からの愛情。けれど、とある出来事をきっかけに、杏奈はかたくなになってしまう。許せないし、許し方を知らないし、許せない自分がもっと嫌いになる。
そんな杏奈が、喘息の療養のために向かった田舎で出会った謎の少女・マーニー。2人は急速に仲を深める。繰り返すのは「好き」という言葉や、抱擁などの身体的コミュニケーション。抱擁は、「愛されている」「愛している」を実感するコミュニケーションだ。
作中もっとも大事なシーンは、実はCMで繰り返されている。

「どうして私を置いていってしまったの? どうして私を裏切ったの?」
「杏奈お願い! 許してくれるって言って!」
「もちろんよ! 許してあげる! あなたが好きよ!」

杏奈はここで「許すこと」を知る。そして、愛されていた自分をもう一度認めることができるのだ。
実はこのシーンでは、表で「許されているもの」と、裏で「許されているもの」が違う。この二重の意味は、ぜひ劇場で確かめてほしい。

「愛」と「許し」と聞くと、悪いオタクとしては、2011年に放送されたアニメ「輪るピングドラム」を思い出す。
「君と僕はあらかじめ失われた子供だった。でも世界中のほとんどの子供たちはぼくらと一緒だよ。だからたった1度でもいい、誰かの愛してるって言葉が必要だった」
「たとえ運命が全てを奪ったとしても、愛された子供はきっと幸せになれる」

誰かを愛し、愛されることで、自分を許すことができる。そしてまた、誰かを愛することができる。
この愛と許しのサイクルが、「アナと雪の女王」「マレフィセント」「思い出のマーニー」で繰り返されたメッセージだ。2014年に出そろった「お許しください三部作」は、「愛しています三部作」でもある。
(青柳美帆子)