母親が娘や息子に宛てた心温まるメール、何がどうしてこうなったのかわからない謎メール、思わず声を出して笑ってしまう面白メール、愛のこもったありがた迷惑メールを紹介している
『おかんメール』という本のシリーズがある。

筆者のお気に入りは『おかんメール』より、初めて携帯を買った母が初めて送信したメール。
・オマエノトコロニイクカラナ←
本書にも書いてあるが←の矢印が怖い。初めてでこんなメールを送ってくるセンスが私にもほしい。
・(件名)ニュース(^o^)/
・(本文)お父さんがリストラだよ(^o^)/
笑えないが、もう笑うしかない。顔文字は不適切かもしれないが、言葉にならない全てが詰まっている気がする。
こちらは『おかんメール 2』から。
・今、お父さんにも電話で言いましたが、二階へラーメンを持っていくのは非常に危ないです
非常にあぶないです!ネギを切って入れてください
ネギを切って入れれば2階に運んでも大丈夫と思わせる文体が大好きである。
・母の日に誰も何も言ってくれんからもう母をやめようかと 悩んでる
母もこういう気分になるのだなと考えさせられる。は、早く何か言ってあげなきゃ!
そして思わず筆者の涙が滲んだ、母からの贈る言葉。
・過酷に思う毎日が待っていようとも、それは明るい未来の為のトンネルだと思ってください。お母さんもそうやって貴方を産みました。
他人の母の言葉ではあるが、印刷して壁に貼りたい。「ぜったい幸せになれます」の力強い断言に涙が滲んで嗚咽しそうである。

こんな感じで本シリーズではさまざまなメール、書置きメモなどが盛りだくさんに紹介されている。日本のおかんたちがこんなにハイセンスな文章のやり取りをしているとは全く知らず驚いた。
ところで、筆者の母は携帯を持って約15年。メールを打つことだけならこなれているのだが、最近衝撃だったのはこれまでずっとメールの本文を使わず件名に文章を入れて送っていたことである。
筆者は母とメールで長文のやり取りをすることがないため気が付かなかったが、母が友人に送る文章で文字の打ち方を聞かれたときに「なぜこんな長文を件名に打つのか、本文に打ったら?」と聞いたとき、「本文って何?」と聞かれて青天の霹靂のような衝撃を受けた。
今まで本文の概念を知らなかったのか。なぜこれまで誰も助言しなかったのか、文章を打ち続ける母を前に一人で笑い転げた。今では長文は本文に打っているようである。15年目にしてとんでもない発見であった。
「おかんメール」の担当編集者をされている高橋さんに出版のきっかけを教えていただいた。
「本書のきっかけは、TwitterとFacebookです。誰かがシェアしたりリツイートして流れてくる"お母さんからの面白メール"が本当に楽しくて。メールの見直しをしない、誤字脱字は当たり前、話が飛びまくる。省略や思いこみがすごい。まさに"お母さん"が凝縮されていると思いました。これを1冊にまとめたら楽しい本になるのではないかと企画しました」
この本には「お母さん」が凝縮されている、本当にその通りだと思う。娘、息子と母のやりとりなど、普段の関係性を切り取ったようで微笑ましい。高橋さんにもお気に入りのおかんメールを伺ってみた。
「『おかんメール3』では以下が好きです」
・この間、大きい地震があったときに「地震と痔は大丈夫?」ってメール来た。同列にしないでほしい
・ご飯取りに来てください今日は冷やかし中華です延び無い宇宙に
・「いまどこ?」「わからない」「何が見える?」「比較的新しい家」
「延び無い宇宙に」の壮大さに圧倒される。発想が形式や枠にとらわれていなくてどれも素晴らしい。

そして最後に、本書を読まれる方にお勧めしたいポイントを伺った。
「イヤなこと、つらいことがあったとき読んでみてください。メール、書き置き、お弁当、また発言など、天然ならではの突拍子のなさに大爆笑できます。多少ありがた迷惑であり、破壊力に満ちていますが、根底には"母の愛"が溢れています。いろんな意味で母の偉大さを実感できます」
母の愛と破壊力がこの本に確かに詰まっていた。得るものがいっぱいあったと思う。何も考えず笑いたいとき、癒されたいとき、ぜひおすすめのシリーズである。
(鎌戸あい/boox)