ゲームセンターで熱い4vs4のガンシューティングバトルを繰り広げ、4月からのアニメ版も同じニトロプラスのスタッフが脚本に参加することが注目を集めている『ガンスリンガーストラトス』。
シリーズ構成をつとめる海法紀光さんインタビューの後編では、アニメ制作に欠かせないシリーズ構成というお仕事は具体的に何をやっているのか? そして魅力的なキャラクター造形の秘訣など、創作術について掘り下げています。

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●野心的な試みが許される制作

──全話のシナリオを拝見しましたが、原作ゲームのアクションを再現しつつ、一つのSF物語として成立してますね
海法 有難うございます。SFに関しては、モバイルサイトでEXエピソード(GSチャンネル内)が連載されてまして。アニメ版とは全く同じというわけではないですが、その辺の蓄積もあるわけですね。
──じっくり考えられたSF設定のバックボーンがあるんですね。
海法 まぁ監督がやりたいことに合わせてその場で考えるのが我々の仕事なので、その場で考えてる設定もありますけどね。
──原作付きとはいえ、自由度が高くてオリジナルアニメに近い作りですよね。

海法 たまたま原作の設定をやってる本人がシリーズ構成をしてるので、わりと好きにやらせてもらってますね。野心的な試みを許して頂ける環境は有り難いなあと。あとは原作付きだと、原作者から「原作に合わせて欲しい」的なベクトルが働くことが多いんですが、そういう感覚もありませんし。

●シリーズ構成は共同作業を円滑にするお仕事

──シリーズ構成というお仕事はいろんなスタイルがあると思いますが、海法さんはどのように進めてるんでしょう?
海法 まず最初に企画書を作りますね。たとえばシューティングゲームだとストーリーがない、ではどういうストーリーにしようかと。そこで監督やプロデューサーをはじめ、関係者のやりたい事を盛り込んでいって、これは駄目だろうと没を出したりして、みんなで骨子を揉んでいく。
最終的にこのセンで行こうというのが決まってから、大雑把なあらすじを出す。それを元に、個々のライターさんがシナリオを起こしていくというやり方ですね
──とても正統派の進め方ですね。
海法 ウチだと虚淵さんがそういうやり方をされるので。『翠星のガルガンティア』の時に学んだんですが、もの凄いきっちりしたシリーズ構成を作るんですよ。細かすぎるわけじゃないですが、要点を押さえていて。何話でこうなるというのを、見通しよく作って頂いたので、ぜひとも真似させてもらおうと。
あとは『塵骸魔京』などノベルゲームの仕事って2〜3MB(データ量。文字数に換算すると約100万〜150万字)のテキストが必要で、複数のライターさんが分担するので、設計図をかっちり作らないとマズイんですね。
──複数のライターさんと全体像を共有する仕事のスタイルが身についているんですね
海法 小説の場合、プロットは自分だけが分かればいいとんですが、ノベルゲームだと同時進行で絵を発注して、他のライターさんとやり取りするので、かなり分かりやすい構成を書かないと作業できないんです。会社にもよるとは思いますが、ニトロプラスはそういう風にやる会社だったので。逆に、かっちり構成を決めずにやるのはすごく怖いですね。その方がキャラクターが勝手に動いてうまくいくというライターさんもいるんですが、自分は苦手な方でして。

──最近はきっちり構成するのが主流じゃないですかね?
海法 昔のように4クールあった頃は遊びの話数を入れられたようですが、今は1クールで終わるのが主流なので、なるべくシリーズ構成があったほうがいいでしょうね。
──ガンストは1クールですから、寄り道できる余裕はなさそうですね。
海法 原作ゲームではメインキャラが15キャラもいて、同キャラ対戦ありで、タイムパラドックスSFものを詰め込んで1クールか!ですから(笑)
──アニメの共同作業は、今までの海法さんの仕事とリンクしてますね。『俺の屍を越えてゆけ』のノベライズや『ギルティギア』のコミカライズなど、一人では完結しないメディアミックスのお仕事が多かったですし。
海法 あまり偉そうなことは言えないんですが(笑)ノベライズやコミカライズはいろんな方の要望を聞いて、それと自分のやりたいこを上手くすり合わせる仕事なんですね。そういう作業をしてきた経験も大きいかもしれません。
あと、いろんなメディアをやってきたんですが、全て文法が違うんですよ。小説で面白いストーリーとマンガで面白いもの、ゲームで面白い話はぜんぶ違う。じゃあ小説を漫画にするときはどうアレンジしたらいいのかと試行錯誤を重ねてきまして。今はアニメを始めたばかりなので手探りですが、元のメディアそのままではアカンよという感じですね。

●メディアミックスのノウハウを共有した脚本陣

──まだ公開できませんが、脚本陣もSFに強い実力派がそろっていますよね。どうやって集められたのでしょう?
海法 単純に自分ひとりで12話をやるのはキツそうだったので、信頼できる方々にお願いしたんですね。
メカモノやSFにめっぽう強い人に、拝んでまで来て頂いたところもあり。この脚本、たしかに扱いが難しいんですよ。ゲームだけを知っていても駄目で、アニメだけを専門にしていても駄目だろうと。シリーズ構成能力がある方であれば単独でまとめきれるんでしょうけど、私はまだ未熟なので、「言わなくても分かってくれる」人を中心に声をかけました。
──SFやメディアミックスのノウハウを共有している仲間ですね。
海法 おかげで面倒な設定を飲み込んでいただいた上に、いろいろなアイディアを頂きまして、逆にラクになりました。複雑な要素をスッキリまとめ上げる力を持った方々に助けてもらいましたね。みんな色んなジャンルを渡り歩いてこられて、お客さんに求められているものは何か、面白さを伝えるにはどうしたらいいかと肌で感じられてきた人達ですね。

●声優のキャストから想像の付かない展開に!

──アニメ化にあたって、原作ゲームのシステム再現にはこだわりましたか?
海法 一つ大きな違いとしては、「弾が心臓に当たると死ぬ」ということですね。ゲームの設定は「死んでも未来に戻って、何回でも戦える」ことになってますが、1クールでその設定を扱うと、お話をまとめるのが大変難しく(笑)今回は弾が心臓を貫くと死ぬという世界観になってます。他は細かく合わせるとキリがないので全てではありませんが、ゲームでの「これが楽しいんだ、カッコイイんだ」という感覚は入れているつもりです。
──ガンコントローラーを合体させるアクションは再現されてますね。
海法 別にゲームの設定では銃は合体してるわけじゃなくて(笑)ガンコンを合体させると使う銃が切り替わるシステムなんだけど、アニメではビジュアル的に合体させたいよねと。
──アニメでは、かっこいい台詞も増えてますよね。
海法 決め台詞を考えるというよりは、壮絶な人生を送ってきていて、言うことがぜんぶ面白くなるキャラクター達を作るよう心がけました。その人がそこまで言うようになった理由、背景がカッコイイと思うんです。そこは原作ゲームからの蓄積ですね。
──声優さんたちはF側と17側の2つの人格を演じられていますが、戸惑いはなかったんでしょうか?
海法 そこはシーンごとに収録しちゃうので、それほど混乱はないですね。基本的に17側のメインキャラを先に録って、その後にF側を録って、みたいな感じです。
──原作ゲームの段階から声優さんは豪華でしたが、アニメ版でも続投なんですね。
海法 豪華ですね。私も後から気がついて、あっ○○○○さんを(物語の中で)○してる!と。プロデューサーさんが「だから言っただろ」と(笑)。
──ギャラが高い順番に○してるわけではないんですね。
海法 そういう事情は全くなくて、ドラマを面白くするために全面的に協力していただいた形ですね。そんなわけで、誰が退場するか分からないスリルに、手に汗を握って御覧ください。主人公の徹が死なないとは限りませんよ(笑)

●人生に閉塞感がある人に見て欲しい

──放送ですが、地上波のほかに、ニコニコ動画での配信もあるんですね。
海法 →今のコンテンツビジネスとして、配信にもしっかり対応していますよ。
ガンストはニトロさんが参加した作品としても注目を集めていますが、ニトロファンに見てもらいたいという気持ちはありますか?
海法 自分は『PSYCHO-PASS サイコパス』や『翠星のガルガンティア』のお客さんについては、あまり意識してなかったですね。まずゲーセンで稼働しているガンストを見かけて、「カッコいいキャラや面白そうなキャラが戦ってるけど、何のために戦ってるの?」と興味を持ってくれた人や、初見のお客さんに見てもらいたいなと思いました。それと、SF的な時間をテーマにした、ガッツリとスリルと謎の構造を作りこんだドラマを楽しんでほしいなと。
──凝ったお話でありながら、スカッと楽しめる話になりそうですね。
海法 そうなるといいなあ、とドキドキしてます(笑)
──最後に、ガンストのアニメ版の魅力を読者にアピールして頂けますか。
海法 学生の頃は、毎日同じ電車から同じ風景を見て人生窮屈だなあと思いつつ、窓ガラスを銃でブチ割ってやれば楽しいだろうなあと思う時期があるじゃないですか? その窓ガラスを割った先に何があり、どんな人がいて、どんな生き方があるか。心に何かを抱えている人達に見てもらいたいですね。今の世の中って閉塞感があって、疲れることも多いじゃないですか。そして江崎監督のすごい3次元ガンアクションと、声優さん達の熱演に支えられたかっこいい演技を楽しんでもらえればと。
──本日はありがとうございました!
(多根清史)